第四話 「もう、すべて――」
少しシリアスな雰囲気になります。
「んじゃ、真面目に話し合いでもしますか?」
「そうね。貴方ほど『真面目』って言葉が似合わない人は珍しいけれど」
「お前は俺を罵倒しながらじゃないと喋れないのか……?」
「えぇ」
「即答しやがった……」
「――……話を戻しましょうか」
空気が変わる。相手もそれを感じ取ったようで、大人しく次の言葉を待つ。
「さっき答えた通りだけれど、私は虐められているわ。」
「今日はいつもの幼稚な悪口に加えて写真が靴箱に入れられていた。何が書いてあったのか、何が写っていたのか、までは見えなくても枚数くらいは見えたでしょう?」
「写真は私も初めてだったのだけれど、何が写っていたのか知りたい?」
「まぁ、ありがちなことではあるけれど――私が写っていたわ。」
「全ての写真に私がいたわ。撮られた覚えもないのに、ね」
「まぁ、これが私に対する虐めの一部。――……ほんの一部」
そこまで言って、見時は笑った。
そしてふと思い出したように聞いた。
「そういえば、貴方の名前を聞いていなかったわ」
男は静かに答える。
「俺は、高木悠介。五組だ」
「あら、隣のクラスだったの。知らなかったわ。え、っと私は――」
「四組の見時さんだろ?」
そういえば、最初から名前を呼ばれていたな、とふと思い当たる。
見時にとっては相手から一方的に知られている状況というのは普通のことであるため特に気に止めない。
「そう、じゃあよろしくね。高木くん」
「あぁ」
自然な動作で高木が手を差し出す。少し考えあぁ握手か、と思い当たる。
見時も手を出して握手をする。手が大きい、と当たり前のことを考える。
握手というのは人付き合いに慣れた人がやるものだと見時は思っている。人と触れ合うことに何の抵抗も覚えない。きっと誰に対してもそうなのだろう。普通の人であれば見時と話すことでさえも、躊躇い、恥じらう人間が多い中で、やはり高木は普通とは違う。
「そうそう、さっきの虐めのことだけれど」
見時は世間話の延長線のように軽い口調で話し始める。
「忘れてもらっても構わないから」
「――は……?」
高木は意味がわからない、というような顔をする。
「だから、貴方が覚えていても仕方ないでしょう? これは、私の、私だけの問題なのだから」
「で、でも……そういうのって一人で抱え込むもんじゃねぇだろ」
「私は今まで全部一人で抱え込んできたわ。今更何をされようがどうでもいいの。虐められるのも、嫌われるのも全部慣れたわ」
そう、何をするにももう手遅れなのだ。
全部、全部、全部――もう、遅い。
「今更何をされても私は傷つかない。私は虐めをするような奴らごときにはもう負けない。仕方がないわ。私は見ての通り、絶世の美女よ? 誰もが放ってはおけないの。」
――たとえ、私がそれを望んでいなくても。
そんなもの、望む訳がない。でも、望み通りの展開に期待するような私はもういない。
だから、そう、せめて――今更そんなに悲しい顔をしないで。
今、悲しまれても私は何も感じられないのだから。
「なんでっ、そんなに諦めてんだよっ――……!!」
今更私を怒らないで。今、間違っていると言われても私は正す術を知らないのだから。
今、私のことに踏み込まないで。全ては今更なのだから。
――……もう、全て遅いのだから。
次回は高木視点の話になります。