第二話 「貴女だけじゃない」
良い調子で二話まで出来ましたっ!!
放課後のこと。見時は、第二校舎―通称芸術棟に向かっていた。放課後の時間帯は、文化部の生徒でささやかな賑わいを見せるのだが、運動部よりも若干早めに部活を終わる文化部の生徒は、既に帰ってしまっていた。静かな校舎に響くのは運動部の掛け声と、暑さを倍増させるような蝉の鳴き声だけ。
見時が歩けば歩くほど、グラウンドから遠ざかり、少しずつ、少しずつ人の声がなくなる。
ミーン、ミーンと蝉の鳴き声だけが響く。
何処にも誰もいない。一人だけ。見時だけ。たった一人だけ。今は、今だけは何も誰も気にしなくていい。誰にも見られない。
此処には私だけ――……だったらよかったのに。
「あら、ちゃんと来たのね。逃げるかと思ってた」
意地悪く笑う女――板倉七海――は、見時のクラスメイトである。
見時には及ばないが、七海も整った顔立ちをしており、見時が美人系の顔であるのに対して七海は所謂可愛い系の顔立ちをしている。長く茶色の髪は丁寧に巻かれており、学校であるのも構わず薄く塗られたメイクも相余って彼女を更に可愛く見せている。
七海は芸術棟の一番奥にある美術室の前に立っていた。
「これ、書いたの板倉さん?」
見時は七海の言葉には一切反応せず、一枚の紙を前に突き出した。
それに書いてあるのは『放課後、芸術棟の美術室前に』という可愛らしい文字だった。
「そう、私が書いたの。ちょっと見時さんと話したくなっちゃってぇ。
呼び出さなくてもよかったんだけどぉ、教室で言っちゃうとぉ、周りの目がねぇ。」
人気者は大変ね、と七海はくすっと笑った。
――それは、私が教室で言われてしまうと困ることを言うということか。
私が周りの目――人気や期待――を気にしている臆病者だということか。
それとも、周りの目を気にしているのは貴女なのかしら。
心の中では見時も七海と同じようにくすっと笑う。
言いたいことも、言われることもお互い分かってる。でも、知らないふり。気付かないふり。お互いがお互いを探り合う。
「ねぇ、今日も告られたらしいねぇ。どうだった?」
相手がどうだったのか。見時がどうだったのか。告白されてどうだったのか。
――振って、どうだったのか。
何が聞きたいのか分かっていても、見時はわざとはぐらかす。
「どうって何よ。」
七海は気にせずにまた話し出す。
「ねぇ、いつになったら彼氏作るの?」
言外に言っている――どうせ振ったんでしょう?と。
「今はまだ分からないわ」
「早く作りなよ。彼氏いると楽しいよぉ?」
そう、だったら貴女も作ったら? とは言わない。
見時は知っているから。
今日自分が振った相手こそ、七海が彼氏にしたい人間だと。
申し訳なく思うにはもう、こんな状況に慣れすぎてしまっている。
すると七海が、見時の横をすり抜ける。ふわふわと髪が揺れる。
そして、見時の真横で囁く。さっきまでとは打って変わって、静かに、低い声で囁く。
「ねぇ――……」
美人を武器にしているのは貴女だけじゃないのよ。
そして、七海は颯爽とその場を去った。
その姿にいつも教室で見せる可愛らしい笑顔も、「守ってあげたくなる」と評判の甘えた表情も無かった。
そこで見時が知ったのは、いつもの七海は作り物だったということ。それをさせたのは全て恋の力だということ。
それが見時には、少し怖くもあり、羨ましくもあった。
七海さん出てきましたね。
どうでしょうか、こんな人いますか?
私の周りにはいませんが、いたら怖いですね。