怪話篇 第二話 自殺
1
「よう、川村。何で、昨日来なかったんだ。御陰で、えらく恥かいたぜ。どうしてくれるんだよ」
「ご、ごめんよう。ぼ、僕、あんな大金どうしても作れなかったんだ」
「ごめんで済むか。俺達、おまえを当てにしてたんだぞ」
「そうだぞ。どうしてくれるんだよ」
「だから、悪かったよ。許してよ」
「まあ、今度は多目にみてやるが……」
「ようし。多目にみてやる代わりに、これをもらっとくぜ」
「あっ、そんな。その時計、叔父さんがくれたやつ」
「何か文句あるのか。えっ」
「言える訳ないよ」
「ほら、あっちいけよ」
「そんな、ひどいよ。僕が、何したって言うんだ。あっ、……ごめん」
「何してんのよ。このウスノロ」
「ごめんよ、ごめんよう」
「早くあっち行ってよ。もう」
「…………」
「こら! 川村、こんな所で何グズグズしておるんだ。もう、授業時間じゃないか。さっさと行きなさい」
「あっ、はい」
「ほら、君達も」
「こいつが、グズグズしてるから……」
「そうか。君は、後でちょっと来なさい」
「えっ、何で僕だけ」
「もう、こんな時間じゃないか。つべこべ言わないで、さっさと授業に出なさい」
「あっ、……はい」
2
「おい聞いたか?川村の奴、死んだんだってよ」
「ああ、聞いた聞いた。飛び下りたんだってさ」
「団地の上からだろう。ああいう所でやられると、迷惑するんだよね」
「そうそう。掃除とか、後が大変なんだよな」
「死んでまで、気の効かない奴なんだから」
「けど、残念だよなあ。折角なかよくしてやったのによ」
「そうだよ。転校して来てから、未だ三月しかたってないのによ」
「ちっ、張り合いなくなるぜ」
「そうだよなあ」
「だけど、又すぐに誰かやって来るさ」
「そうだよなあ。川口ん時だってそうだったもんな。すぐ、川村が来てさあ」
「そうそう。川村の奴、川口とおんなじ挨拶しやがんの」
「早く来ないかなあ。新しい、奴」
「それまで、退屈するなあ」
3
「また死んだか……。最近多いよ、竹本君。文部科学省の方はどうなっているのかね。大臣としてちゃんと管理してもらわないと」
「はあ。気をつけては、いるのですが。文科省としても、学校での彼等の行動には、十分注意はしているのですが……。どうも最近では、子供達の間でもストレスが多くて、欝憤晴らしのイジメは、職場の比ではありませんもので」
「努力は、認めるがねえ。だが、こうも毎日毎日、簡単に死なれるとねえ。国の予算だって、そう多くはないのだからして……・。研究チームの再編成も、考えておいてくれたまえ」
「しかし、彼等の御陰で、職場での自殺者の数は、激減したのですし、……まだまだ改善の余地はありますが、学校教育の場でも、成果はあがっています」
「うむ。だが、統計上の数は、増えている事になっているのでね。いくら実質的には、2年前の半分以下でも、世間が少々うるさい……」
「分かっています、総理。ですが……現状では、どうしても無理があるもので」
「分かっておる。で、自殺者の出た所へは、ちゃんと送ったろうな?」
「欠員の分は、研究所から新たに送り込みました。一応、生産ラインがある程度整いましたので、……数が足りなくなるということは、まあ、今の所は……。それに、今回からは新型を使いますので、以前よりは耐つものと思われますし……」
「そうだと良いがな。ま、元々の遺伝子がそうなんだから、文句も言えんか」
「そうですね。これ以上に強くすると、折角、イジメられ役用に造ったクローンが、本物をイジメかねませんからなあ」
「その通りだなあ。ははは。それはそうと、あの運転手、そろそろ新しいのにしてくれんか。だいぶ、くたびれてきてねえ。その、例の新型が良いなあ」
「分かりました。新型は良いですよ、総理。私もなかなか重宝してますからね」
「そうしてくれ。わしも、野党のバカ供の話ばかり聞かされていると、ストレス蓄まるからねえ」
eof.
初出:こむ 4号(1986年9月12日)