神様から与えられた宿題
私は一体何者なんだ…。
分からない。
ここは一体どこなんだ…。
分からない。
最近私は人の名前を忘れたり物事を忘れることが多くなってきた。
私は、まだ40歳半ばだ。
仕事をバリバリにこなし家庭を築きあげて幸せな日々を過ごすような年頃である。
なのに一体どうなっている…。
妻や娘の名前さえ忘れてしまう。
医者に診てもらったがどこも異常は見られなかった。
だが、どんどん忘れていく。
会社に行くときは今まで地図を見ながら行ってなかったのに今は地図や交通機関の時刻表を毎回印刷し片手に持ちながら会社に出勤する日々を送っている。
いつからこんな状態になってしまったのかさえ忘れてしまった。
そして、今日の朝私は自分の名前と今いる場所を忘れてしまった。
今いる場所はなんとなくだが懐かしい感じが伝わってくる。
「御飯よ~!」
どこからか女の人の声がした。
私は、そこへ行くことにした。
行ってみると女の人と女の子が椅子に座っていた。
「…君たちは誰だ?」
私は、目の前で朝食を食べている2人に聞いた。
「私は、あなたの妻でこの子はあなたの娘よ。」
「妻に娘…か」
懐かしい響きだと私は再び感じた。
「妻よ…」
「何?」
「私は、誰だ?
ここはどこなんだ?」
そう言った瞬間妻の顔は凍りついた。
「あ…あなたは私の夫でありこの子の父よ。
そして、ここはあなたの家よ。」
「…そうか。」
私は、椅子に座り朝食を食べた。
朝食を食べた後、私はソファーに横になった。
「あなた…。」
「なんだ?」
「そろそろ会社に行く時間よ。」
「会社ってなんだ?」
「あなたが今から働きに行くところよ。」
そういって妻は服と1枚の紙切れと鞄を持ってきた。
「なんで働かなきゃならん?」
「私たちと一緒に過ごすためにはお金が必要なの。
だからあなたが働かなければお金が無くなっちゃうの。」
「そうか、分かった。」
「この服に着替えて紙に書いてあるとおりに行ってください。」
「分かった。」
俺は、妻の言うとおりに紙を見ながら会社というところへと向かった。
会社に着いたのはいいが何をすればいいのかわからない。
私は、受付と書いてあるところに椅子に座っている女の子に聞くことにした。
「私はここで何をすればいいんですか?」
女の子は唖然とした後、こう言った。
「3階の部屋に行って席に座って仕事をしてください。」
「分かりました。」
また仕事という単語が出てきた。
仕事とはなんなんだ?
私は、考えながら3階に行き自分の席に座った。
だが、まだ仕事というものがわからない。
私は、隣に座っている人に聞くことにした。
「私に仕事は何ですか?」
「机に積まれている書類をチェックした後それについての報告書を作成してあそこの席に座っている人に渡してください。」
「分かりました。」
私は、一通り書類という紙切れに書いてある文字を見て、その報告書というものを作成しその人に見せた。
夜になり仕事が終わって私は元来た道を戻ろうとした。
しかし、戻り方が分からない。
紙切れを見たが会社への行き方しか書かれていない。
私は、人に聞きながらなんとか家に戻ることができた。
その時、私の中で何のためにこの世界にいるのだろうという思いがこみ上げてきた。
夕食時になり私は妻に聞いた。
「私は何のためにこの世界にいるんだ?」
「えと…。」
妻は口ごもった。
「私たちと幸せに暮らすためよ。」
「…そうか。」
妻はそう答えたが顔は何故か悲しそうに見えた。
俺は、今幸せだと感じていない。
私はこれからどうなるのだろうか、ずっとこのような生活を繰り返しロボットのように生き続け死ぬのだろうか?
私は、自分に腹が立った。
こんな生活を繰り返していたら妻や娘は嫌になるだろう。
そう考えた私は、家を出ることにした。
さようならと書いた紙切れを机の上に残して…。
食べるものも着る服も何もない。
私は、今浮浪者という道を歩みだした。
どこかに行くあてもなくただひたすら歩き続けた。
お腹がすいてきた。
なぜお腹がすく?
分からない…何を考えていたのか忘れた。
歩くことと話すことしかできない。
なぜそれしかできない?
分からない…何を考えていたのか忘れた。
私は疲れ果てて道端に倒れた。
なぜ倒れる?
分からない…何を考えていたのか忘れた。
誰も助けてくれない。
なぜ助けてくれない?
分からない…何を考えていたのか忘れた。
こんな世界に私は生まれたのか?
悲しい。
なぜ生まれた?
なぜ悲しい?
分からない…何を考えていたのか忘れた。
私は目から水みたいなものを流した。
これはなんだ?
分からない…何を考えていたのか忘れた。
私はそれを口に含んだ。
「…おいしい。」
私は考えるという思考が一時止まりそれをひたすら飲み続けた。
その状態を見ていたひとりの男性が近寄ってきた。
「大丈夫ですか?」
「なぜ大丈夫と聞くのですか?」
「あなたが倒れていたからです。」
「そうですか…。」
「よければこれをどうぞ。」
男は、リュックの中から一つのパンを取り出した。
「どうしてくれるのですか?」
「あなたはこの世界で生きなければならないからです。」
「どうしてですか?」
「その答えはあなたが見つけるのです。
では…。」
男は、そう言うとその場を去って行った。
私は、そのパンを食べた。
おいしかった…。
私は、立ち上がり再び歩き始めた。
だがまたそこで考えが出てきた。
なぜ歩き続けるのだろうと…。
私は、考えた。
しかし、考えていたことを忘れてしまった。
なぜ立ち止まる?
何を考えていた?
分からない…忘れた。
私は、まるで死んだように動かなかった。
動かなくなったことが嫌になったので歩くことにした。
その時、大きな物体が目の前を走ってきた。
あれはなんだ?
分からない…忘れた。
私はそれにぶつかって吹っ飛んだ。
なぜぶつかる?
なぜ吹っ飛ぶ?
分からない…忘れた。
そして、地面に叩きつけられた。
なぜ地面に叩き付けられる?
分からない…忘れた。
頭から赤い液体が流れた。
これはなんだ?
分からない…忘れた。
私は、だんだん眠たくなった。
なぜ眠たくなる?
分からない…忘れた。
その時何かが頭の中を駆け巡った。
これはなんだ?
分からない…忘れた。
いや…分かる…思い出した。
私が一体何なのか…。
私は…私だ!!
すべて思い出した。
私は死にたくない…死にたくない!!
そう思ったとき私は目を開けた。
ここはどこだ…ここは病院だ。
ベッドの横で妻と娘が泣いていた。
「2人とも…。」
私は、2人に声をかけた。
妻と娘は泣きながら何も言わずに私に抱き着いた。
「ただいま…。」
私は、今幸せな日々を過ごしている。
なぜあんなことになったのか全く分からない。
多分、神様が今本当に何を考えなければならないのかを私に学ばさせるためにこんなことになったのではないかと思う。
もし、あなたがこんな状態になってしまったとしたら今本当に何を考えなければならないのかを考えたれば、その病気のような現象はきっと治るだろう。
完
私の先生が物忘れが多くなってきたと言ってた時に友達が「私は一体何者なんだ?」から小説を書いてみてと言われ書いてみました。
自画自賛ではありませんが、この作品を書き終わって読んでみるとすごく深いと感じさせられました。
もし、こうなった時あなたならどうしますか?