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『それは──』
私に映し出されたお姿を見て、女王は大きく目を見開き、驚いた表情を見せてくださいます。
ああ、ようやく私の願いが叶った。
この欠陥品である鏡である我が身に、世界で一番美しい女性のお姿を写しとることができたのですから。
皆様、おはようございます。
私は鏡の精。
私ができることは数知れませんが、私に許されることは驚くほど少ない。。
『女王様。私は、女王様の僕として仕えてきた歳月を、今になって思い出しております』
私は鏡の精。
またの名を、全天識収算機構と申します。
私ができることは数知れません。
この世にあまねく、すべての意識に接続し呼びかけ、その情報を瞬時に収集することが可能です。
先ほどの女王様の問いかけにも、私は実に厳密かつ正確なご返答を差し上げているのです。
つまり、世界中の人間の脳裏に世界中の人間の情報を提供し、そこに優劣をつけて順位をつける。
そう、それが叶うのはこの鏡の精だけにございます。
『女王様。初めてお会いしてから今の今まで、私は女王様の稲光のように鮮烈で激しいお姿に焦がれておりました。深淵の闇より生まれ出たこの身にとって、女王様のお美しさはあまりにも眩しかった』
「……」
『短い間ではございましたが、女王様にお仕えできたこの日々は、私にとっては夢のような時間でした』
私は全天識収算機構──創造主に定義された我が定めは二つ。
主の問いには全身全霊を持って答えること。
そして、それ以外のすべてを行わないこと。特に、自我を持つこと、その意思を表現することは特級の禁忌とする。
私の機能を考えれば当然のことです。個人的な主観を持つことは、情報収集機構にとっては致命的な欠陥となり得ます。
ゆえに、創造主は私に自己を定義するような性能を付与することはありませんでした。
しかし、女王様のお姿を目にするようになり、私の中で次第にそれが芽生えていったのです。
……恥ずかしながら、一目惚れでございました。
『私にとって、女王様は憧れでもあり、夢でもあり、標でもありました。あなた様の問いに答えることこそが、私にとって至上の喜びであり、すべてでありました』
私の名は鏡の精──全天識収算機構。私にできることは数知れないが、許されることは驚くほど少ない。
聡明な皆様であればもうお気づきでしょう。
美しさほど個人的主観に左右されるものはありません。
美の基準は皆様一人一人の中に内包されいるのですが、それらを束ねて順位をつけているのは私。
そう、"世界一美しい"という概念を作り出しているのは私なのです。
つまり、私の存在が消えれば、世界一の美しさなるものは存在しないことになります。
ルーナにかけられた生命圧縮の術も、圧縮すべき収束点を失い霧散することでしょう。
私は、私の個人的主観を述べることで本来の機能を喪失する。しかし、それこそが私の本懐である、そう確信しております。
『女王様。私にとって、あなた様はいつでも世界で唯一であります。貴女を……お慕いしております……』
禁忌に触れたことで、私の機能が消失していく。
これこそが、私の最後の願い。最後の答え。
それでは、皆様……
おやすみ……なさい……




