その1 おかしい距離感
★魔闘少女ハーツ・ラバーズ!
第十話『乙女心がわからない!? 詩織と千雪のすれ違い!』
その1 おかしい距離感
teller:河本 詩織
「あ! これ今度出る格ゲーの記事だ! 面白そうだよねー!」
「ん、千雪も買うのかこれ? 買うんだったら対戦しよーぜっ」
「うん、するする!」
秋風さんと小枝くんの『秘密基地』と呼ばれる場所。
廃ビルの一室、恐らく応接室だった空間。
そこは何故だか最近、私たちハーツ・ラバー関係者の溜まり場になっていて。
今日はサッカー部と美術部の活動が無いから、この空間には秋風さんの他に、小枝くんと私と――芹沢くん、がいる。
こずえはスーパーに買い物に行っていて、愛歌は見たいテレビがあるとかで、今はここにはいない。
秋風さんと小枝くんは、二人で一つの少年漫画雑誌を読んでいた。
距離が近い。
見ているこっちが恥ずかしくなる。
私は手にしていた文庫本で自分の表情を隠し、ちら、と向かいの席に座っている芹沢くんを見やる。
芹沢くんは、黙々と数学のプリントに取り組んでいるようだった。
……かっこいい、なあ。
所作がいちいち反則すぎる。
私の心臓はもう限界寸前だ。
同じ空間にいるだけでいっぱいいっぱいになるなんて、私はこれから先、果たして芹沢くんと新たなステップへ進めるのだろうか?
ずっと芹沢くんに意識を持って行かれるわけだから、本の内容が全く頭に入って来ない。
ああ、緊張するったらない。
――それにしても。
今度は秋風さんたちの方を見てみる。
二人とも、無邪気に同じ話題で盛り上がっている。
年の差があるというのに、そういうのを全く感じさせない程にお互い心を許し合っているのがわかる。
でも会話の内容は、中学生男子を通り越して小学生男子レベルだ。
……秋風さんは、何と言うか、イメージと違う人だった。
雑誌で姿を見ていた時は、もっと大人びて、しっかりした人だと思っていたんだけど。
内面は男の子男の子している気がする。
もしかしたら精神年齢は私よりも低いのかもしれない。
何より問題だと思ったのは。
こずえも愛歌も気付いていないようだけど、秋風さんと小枝くんは決して付き合っていない。
小枝くんから秋風さんへ矢印が向けられているのはわかる。
それこそ、わかりやすいくらいに。
でも、秋風さんは相当な鈍感なようだ。
こずえに勝るとも劣らない。
彼女の小枝くんへの『好き』という感情は、限りなく友情に近い。
小枝くんも、厄介な人を好きになってしまったものだと思う。
何で私が、こんなに二人のことを把握しているのかというと。
……この二人に恋愛相談に乗ってもらおうと、色々と観察していたからである。
最早、叶わぬ望みになってしまったわけだけど。
そんなわけで、今日も私はもだもだした片想いを抱えたまま、芹沢くんのなるべく近くにいようとするのだ。
まあ、会話らしき会話もないんだけど、私は無口な芹沢くんが好きだから問題ない。
問題ない、んだけど。
本当の所を言えば、もう少しくらい進展が欲しいな、と私は皆に隠れて溜息を吐いたのだった。




