その4 ママ
★魔闘少女ハーツ・ラバーズ!
第九話『愛歌トキメキ! 千雪にアコガレ熱視線!』
その4 ママ
teller:星野 愛歌
「たっだいまー! ママ、聞いて聞いて!」
マンションに帰るなり、あたしは今日一番の大きな声を上げた。
だって嬉しいんだもん、楽しいんだもん、ついはしゃいじゃうんだもん。
浮き立つ心のまま居間へと続くドアを開けると、栗色の髪を一つに纏め肩から前に垂らした、ほわほわした笑顔の女の人があたしを迎えた。
この人があたしのママ、teller:星野 恋鈴。
笑顔の通りふんわりほんわかした性格で、すっごく優しいの。
海外出身のパパは、婿養子として星野家に入っているんだって。
難しいことは、良くわかんないんだけど。
「お帰り、愛歌。今日は一段と機嫌が良いわねえ」
「えへへ、だって聞いてよママ! なんと、あたし、あの秋風千雪さんとお話できるようになったんだよ!」
「あきかぜ……ちゆきさん?」
ママは笑顔のまま、頭の上にハテナマークを浮かべている。
ママ、女の子の流行とかすっごく疎いもんなあ。
そういう所がママらしいと言えばママらしいけど。
「もう、ママってば遅れてるなあ! 千雪さんはね、女の子の間じゃ憧れも憧れ! 女子高生カリスマモデルさんなんだよ! もう、すっごく細くて綺麗なの! 美人中の美人!」
そこまで千雪さんを絶賛してから、あたしは胸の前で手を組み、くるくると踊りそうな勢いでその場で回り出す。
「えへへ、あたしもね、あんな風に可愛くなりたいなってずっと思ってたんだあ。だから、話せるようになって嬉しい! すっごく嬉しい! もっともっと、千雪さんと仲良くなりたいなあ!」
ずっと、雲の上の存在だとばかり思っていた千雪さん。
あたしが立派なアイドルになれなきゃ会話なんて一生できないと思っていた相手。
そんな人とまさかまさかの、ハーツ・ラバーっていうおんなじ立場になれて、お話できるくらいに近付けて。
これって奇跡って言ってもいいんじゃないかな?
こんなに嬉しくて幸せなことがあるなんて、生きてて良かったなあ。
自分の口許がだらしなくゆるむがわかる。
多分、あたしの顔今すっごくとろとろになってる。
でも、そのくらい嬉しいんだから仕方がない。
……あ、回りすぎてちょっとくらくらしてきた。
足を止めたと同時に、ママの声が耳に届いた。
「愛歌、仲良くなりたいっていう相手がいるのはいいことだけれど、本当に仲良くなりたいなら相手をちゃんと見てあげなきゃ駄目よ?」
「ちゃんと?」
ぐるぐるしてきた目を丸くして、ママを見る。
ママは相変わらずほわほわ微笑んでいたけど、その目はどこか真剣だった気がした。
「ありのままのその人を、受け入れてあげるの。貴方が見ているのはその人の一部分でしかないかもしれない。その人が色々な顔を持ってるんだって、ちゃんとわかってあげなきゃ駄目。自分の理想ばかりを押し付けちゃ、本当の友達になんてなれないのよ?」
理想。
そういえば、千雪さんにあたしが千雪さんに憧れてるって言った時、千雪さんの表情、なんかちょっと暗かった。
千雪さんは、そういう風に見られるのが嫌なのかな。
あたしの想いは、迷惑なんだろうか。
――だったら、直さなきゃ。
あたし、もっと千雪さんと向き合わなきゃ。
千雪さんが大好きだから。
「うん、ママ! 難しいことは良くわかんないけど、千雪さんともっと仲良くなりたいから頑張るよ!」
「ふふ、愛歌はいつでも前向きね。お母さん、愛歌のそういう所、大好きよ。さあ、手を洗ってうがいしてらっしゃい」
「はーいっ!」
あたしの取り柄は、前向きな所。
ちょっとのことじゃへこたれない所。
だから、千雪さんとラブラブ仲良しお友達になる為に、いくらでも頑張ってやる!
おー! と拳を天に突き出してから、あたしはぱたぱたと洗面所へ向かったのだった。




