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魔闘少女ハーツ・ラバーズ!  作者: ハリエンジュ
第八話『千雪のジェラシー? こずえと千雪の距離のハナシ!』
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その4 あの子と気分転換

★魔闘少女ハーツ・ラバーズ! 

第八話『千雪のジェラシー? こずえと千雪の距離のハナシ!』

その4 あの子と気分転換



teller:小枝(さえだ) こずえ



 たっくんに彼女さんが、できた。


 そして、その秋風さんのあのモヤモヤした感情。


 つまりは、私はそろそろ弟離れしなきゃいけないんだろうなあと思う。

 今までたっくんに頼りきり、甘えっぱなしだったもんね。


 もっとしっかりしないと。

 たっくんには、幸せになってほしいから。


 そんな私は、気持ちを切り替える為に、またあの丘の上に来ていた。

 ここからの景色を眺めたら、すっとした気持ちになれる気がしたから。


「あ……」


 目を凝らすと、あの日出会った小学生の女の子――穂村ミクちゃんが、原っぱに座ってデジカメで写真を撮っているのが見えた。

 ゆっくりと歩み寄り、脅かさないように声をかける。


「み、ミクちゃん……こんにちは……」


 ミクちゃんが、振り返る。

 今日も彼女の瞳には、何の感情も宿っていない。


「何で、また来たの?」


 どこまでも、私を拒絶し突き放す言葉。

 それにちくりと胸が痛んだのは事実だったけれど。


「……ちょっと、落ち着きたいなって思って」


「だったら他の場所にして。邪魔」


「……ごめんね」


「謝るくらいなら最初からしないで」


 数々の辛辣な言葉に、心が折れそうになる。

 ううん、ちょっと前の私だったら確実に折れてた。


 でも、こうして立っていられるのは、泣かずに済んでいるのは。

 きっと、みんなのおかげだ。


 ミクちゃんと少し距離を取って、景色を眺める。


 世界はやっぱり、今日も美しかった。

 私の心を満たしてくれる。


 ふと、ミクちゃんが口を開いた。


「きみにはさ、世界はどう映ってる?」


 世界。

 突然の質問だったけど、私は今感じたばかりの想いをミクちゃんに伝えた。


「……凄く綺麗だと思う。きらきらして、生きてるって感じがするな」


「そう。ぼくにはそうは見えないけど」


 ばっさりと、自分の感想を否定されてしまった。

 しゅんと、少しだけ落ち込む。


「……ミクちゃんは、この景色が嫌い?」


「……あまり好きじゃないかな」


「じゃあ、どうして写真を撮ってるの?」


「会いたいから」


 会いたい?

 何に?


 気にはなったけど、ミクちゃんとの間の空気がそれを許してはくれなかった。

 沈黙が重くて、息苦しい。


 ミクちゃんは、今どんな想いでここに居るんだろう。

 ……どうして、そんなに心を閉ざしているんだろう。


 ミクちゃんに、なんて声をかけていいのか、わからない。

 私がもたついていると、ミクちゃんが先に言葉を発した。


「……きみの考え方は嫌いだけど、世界を綺麗だと思う気持ちは一般的には立派なんじゃないの」


「立派?」


「うん。ぼくにはもうできないことだから。きみはきっと、正しい人なんだと思う」


 ミクちゃんが私の方を見る。

 くすんだガラス玉のように生気を失った瞳が、私を捉える。

 ミクちゃんの前髪を留める緑色のヘアピンが、夕陽に反射して煌めいていた。


「だから、きみはきみのそのままを伝えたい人に伝えればいいと思うよ」


 私の、そのまま。

 私の考えは、生き方は、立派だって言えるのかな。

 誇っても、いいのかな。


 私が今一番望んでいること。

 たっくんと、秋風さんが幸せになることだ。

 たっくんが秋風さんみたいな素敵な人に好かれて、嬉しいっていう気持ちが、私の中にはあるんだから。


「……ありがとう、ミクちゃん」


「別に、お礼を言われるようなことはしてない」


 自分が良く知らない女の子とここまで話せるようになったなんて、前の私に聞かせたらどんな顔をするんだろう。

 少しは成長できたと思っていいのかな。

 だったら、嬉しいな。


 今度は、ミクちゃんと距離は置いたままでもその場に座ってみる。


 ミクちゃんは、何も言わずシャッターを切り続けている。


 それでも今、この場は息苦しくなんかなくて。

 どこか、私に安らぎを与えてくれた。

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