その3 彼女にとっての彼
★魔闘少女ハーツ・ラバーズ!
第八話『千雪のジェラシー? こずえと千雪の距離のハナシ!』
その3 彼女にとっての彼
teller:小枝 こずえ
『決闘っていうか、二人きりになりたい』
そう秋風さんに宣言された私は、廃ビルの一室に案内された。
私の眼前では、秋風さんが堂々と立っている。
一方で私は、すっかり委縮してしまって、ただただ俯くことしかできない。
ど、どうしようどうしようどうしよう。
私、何か気に障るようなことをしてしまったんだろうか。
だったら、早く謝らなきゃ。
「あの……ごめんなさい……」
「え、何が?」
「何やら、不快にさせてしまったようなので……」
おどおどと、言葉を紡ぐ。
だけど、反応がない。
ただの謝罪じゃ許してくれないということなんだろうか。
「……言っとくけど、私、怒ってない」
何でだろう、秋風さんは平然としている。
怒ってない?
じゃあ、何で決闘なんて話になったんだろう。
しかも、たっくんを賭けてって……?
「あ、あの、秋風さん……っ」
「んー?」
「秋風さんは……たっくんとどうやって仲良くなったんですか?」
最初から気になっていたこと。
中学生のたっくんと、高校生の秋風さん。
何もかもが違う二人が、どういう経緯で親しい仲になったのかは勿論興味があった。
秋風さんは、やっぱり平然と答える。
「……このビルの応接室、さっきこずえちゃんも見たろ? 私、あそこを秘密基地にしてるんだ。三月にあの秘密基地で寝てたら、拓海くんが立ち寄って……そのまま話って言うか波長が合って仲良くなった感じかな」
「……そ、そうなんですか……」
それから、沈黙。
会話が続かない。
沈黙が重い。
気まずい。
自分から聞いておいたくせに、これ以上会話を広げることができなかった。
つまらない返ししかできない自分に、呆れてしまう。
沈黙を破ったのは、秋風さんのやけに神妙な声色で放たれた台詞だった。
「……こずえちゃんは、拓海くんのこと好き?」
「……ふえ?」
どうしたんだろう、急に。
でも、答えは思いの外すんなりと出て来た。
だって嘘を吐く理由もないし、これは私にとっては大事な感情だから。
「……大好きです。たった一人の弟だし」
「……そっか」
秋風さんが優しく微笑む。
でもその紫色の瞳には、どこか複雑な色が宿っていた気がした。
何でそんな悲しそうな顔をするんだろう。
今にも張り裂けちゃいそうな、笑顔。
「じゃあやっぱり、こずえちゃんは私のライバルだ」
「らいばる……?」
「だって私、拓海くんのこと大好きだもん」
「……ふえ!?」
ストレートに愛情を口にされて、当事者でもないのに赤くなってしまった。
弟のことだから、少しは関係者ではあるけれど。
や、やっぱり、たっくんと秋風さんって付き合ってるんだ……。
たっくん、まるで大人の男の人みたいで凄いなあ……。
そこまで感傷に浸って、秋風さんがやっぱり寂しそうな表情を浮かべていることに気付く。
それこそ、見ていられない程に。
「私には拓海くんだけだから、拓海くんの『たった一人』になりたいのに……こずえちゃんの壁は私にはあまりにも大きすぎるよ……」
そう言って、秋風さんは困ったように笑ったけど。
何だろう。
そんな顔をされると、ずきんと胸が確かに痛んでしまった。




