その7 シャウトラバー・覚醒
★魔闘少女ハーツ・ラバーズ!
第七話『魂の叫び! シャウトラバー誕生!』
その7 シャウトラバー・覚醒
teller:秋風 千雪
変なカッコのまま、ゲーセン型の怪物を睨みつける。
良くわからないことで一杯だったけど、不思議と頭は落ち着いている。
今ただ胸を支配するのは、確かな熱い闘志。
「クソが……っ、また増えやがって! やっちまえアニマ!」
怪物が片腕を振り上げる。
私を薙ぎ払うつもりだろう。
だけど、そうはさせない。
「う、らァ!!」
こちらも負けじと拳を握り、フルパワーで怪物の腕を殴り飛ばす。
途端に、怪物の腕は粉々に砕け散った。
え。
何だ、この怪力。
何でこんな力が出せるんだ。
不思議には、思ったけど。
なんか、胸がすっとする、すっきりする。
ずっとこうしたかったんだって心が訴えかけているみたい。
私が怪物の片腕を破壊してから、しばらくその場に静寂が訪れた。
皆の視線が私に集中する。
皆と言っても、お客さんや従業員は逃げちゃってるわけだからここにいるのは拓海くんと三人娘と『ネス』と呼ばれた大男だけだけど。
ああ、あと謎のコウモリもいるか。
「……っ、アニマ!」
一番早く我に返ったネスが、『アニマ』というゲーセン型モンスターに命令する。
アニマは、私の行く手を塞ぐように拓海くんを差し出した。
人質のつもりなんだろうけど、今の私には好都合だ。
「おらっ!!」
すぐにジャンプして、拓海くんを捕らえる腕に最上級の飛び蹴りをかます。
一瞬で腕は瓦解し、ばらけたパーツは自由になった拓海くんごと宙に投げ出される。
受け止めなくちゃ、と思ったけど拓海くんは器用にも自分で着地した。
ちょっと痛そうな音は鳴ったけど。
「たっくん、大丈夫!?」
「あ、ああ……」
ポニーテールの女の子が拓海くんに駆け寄る。
拓海くんはぱんぱんと衣服に付着した埃を払うと、何とも言えない顔で私を見つめた。
だから、そんな顔しないでよ。
私なら、大丈夫だからさ。
「シャウトラバー……てめえ、パワー系のハーツ・ラバーかよ……!」
ネスが唸り声を上げる。
私が、パワー系。
その響きは、悪くないように思えた。
拳で解決するなら単純だし――そっちの方が本当の私に近いと思ったし。
「アニマ!!」
また、ネスがアニマに命令する。
アニマが絶叫する。
流れて来たのは、ひどく騒がしいBGM。
さっきの音による衝撃波攻撃だ。
だけど、怯まない、怯むわけにはいかない。
だって。
「私の『想い』の方が!! 強い!!」
ネスが一瞬面食らったような顔をした。
それに構わず、私は叫ぶ。
全力で、全身全霊で。
「あああああああああああ!!」
私の『声』が、精一杯の叫びが衝撃波に変わる。
アニマの音を飲み込み、掻き消し、支配し、圧倒する。
『声』に触れたアニマの一部分が、徐々に崩れていく。
隙を見逃さず、私はアニマに駆け寄り、何発も何発も拳をその身に叩き込んだ。
変身前とはまるで違う。
いくら殴っても、全然拳が痛くない。
やがて、アニマから漏れ出す靄が濃くなった頃。
私の本能が、また私に命令した。
それに従い、声を上げる。
「ハーツ・ラバー! スピリット・ウェーブ!!」
私の声が、台詞がそのまま具現化して一つの固体になってアニマの身体に次々とぶつかる。
アニマの身体が、声の影響で次々と潰れていく。
やがてぐしゃぐしゃになったアニマは、耐えきれないとでも言うかのようにぱちんとシャボン玉の泡のように弾けて消えてなくなった。
訪れたのは、何度目かの静寂。
拓海くんも三人娘も、何が起こったのかわからないと言った様子で立ち尽くしている。
最初に我に返ったのは、やっぱりネスだった。
「てめ……っ、調子乗ってんじゃねーぞ!」
ネスがスタートダッシュを切り、私に殴りかかってくる。
その大きな拳を、私は片手一つで受け止めた。
ネスがはっと息を呑む。
少し不敵に笑ってから、私はネスの胴体に全力の右ストレートを叩き込んだ。
「かは……っ!」
ネスが咳き込み、その場に崩れ落ちる。
我ながら結構効いたようだ。ざまーみやがれ。
ぱん、と自分の左手の手の平に右手の拳をぶつけ、私はネスを見下ろした。
「私はパワー系、なんでしょ? 生身で挑むだけ無謀だと思うけど」
ネスが私を憎悪の籠った瞳で睨んでくる。
でも、全然怖くない。
今の私、本当に無敵な気がするから。
「チッ……! 覚えてやがれ……!」
なんて三流の小悪党が吐くような捨て台詞を口にしたかと思えば、次の瞬間ネスの姿がふっと消えた。
残されたのは、ボロボロのファミレス。
ああ、終わったんだ。
どこか他人事のように、そう感じてしまった。
そこまで考えたところで。
「……拓海くんっ!!」
私の何よりも大切な存在を思い出し、慌てて振り返る。
唖然としている拓海くんと目が合い、そのまま私は拓海くんに駆け寄り、思いっ切り抱きついた。
「うわっ!?」
拓海くんが衝撃に耐えられずひっくり返る。
拓海くんの喉からも、ひっくり返ったような声が洩れた。
それでも構わず拓海くんに馬乗りになり、私は必死で訊ねた。
「拓海くん、大丈夫!? 怪我は!?」
拓海くんの瞳に映る私は、何だかひどく泣きそうな顔をしていた。
拓海くんはしばらくぽかんと私を見つめていたけれど、やがてふ、と笑って私の頬に優しく触れてくれた。
「……大したことねーよ。千雪が守ってくれたから」
「……そっか」
拓海くんの優しい声にほっと安堵し、私も笑う。
私が、拓海くんを守れた。
その事実は嬉しかったけれど、もっと根本的な問題があった。
「っていうかさ……今の私、どういう状況?」
「……今更かよ……」
拓海くんが呆れたように顔を歪める。
そんな私たちの元に、コウモリと三人娘が寄ってきた。
「え……えっと……私たちはハーツ・ラバーって言って……その……」
おどおどと声をかけてきたのは、何かと拓海くんを気にかけているようだったポニーテールの女の子。
はーつ・らばー。
確かに私は、シャウトラバーらしいけど。
「わるーい侵略者さんから地球の平和を守る為に、どかーんと戦ってるんだよ!」
身振り手振りをつけて明るい笑顔で私に話しかけてきたのは、金髪の女の子。
その子の肩を、三つ編みで眼鏡の女の子が軽く小突いた。
「ちょっと、説明ざっくりしすぎよ、愛歌」
「えへへー」
「えへへじゃないっ」
なんだろう。
なんか、よくわかんないけど。
「ねえ、これさ、私も戦っていいの?」
「……え……?」
びく、とポニーテールちゃんが反応する。
私の下にいる拓海くんも、驚いたように目を見開いていた。
私は私の決意が消えないうちに、言葉を発する。
「よくわかんないけどさ、戦うのって凄くスッキリするってわかった。地球の危機って言うなら尚更燃えるものあるし。それにこの件、拓海くんも関わってるんでしょ?」
「まあ、そう……だけど……」
拓海くんの視線が泳ぐ。
それでも、私は真っ直ぐに拓海くんに笑顔を向けた。
「よっし! じゃあ私もハーツ・ラバーとして戦う! 拓海くんの力になりたいし! 決まり!」
えへへ、と笑いながらそう告げると、数人の困惑の視線が突き刺さった。
一方拓海くんはと言うと。
何故だか、顔をひどく赤くして私から必死に目を逸らしているようだった。




