その4 尾行
★魔闘少女ハーツ・ラバーズ!
第七話『魂の叫び! シャウトラバー誕生!』
その4 尾行
teller:小枝 こずえ
愛歌ちゃんに電話をかけてから十五分くらい経った後。
ゲームセンターの前でぼんやりと立ち尽くしている私の元に、浮き浮きとした様子の愛歌ちゃんと、息を切らせた詩織ちゃんがやって来た。
「こずこず、おまたせー!」
そう言って、愛歌ちゃんは当たり前のように私に抱きついてくる。
嫌じゃないし嬉しいけれど、それよりもこの状況への困惑の方が勝ってしまう。
二人が来てしまったことに狼狽えておろおろしている私に、詩織ちゃんが眉を下げて声をかけてきた。
「ごめんなさい、こずえ。私は止めたんだけど、愛歌がどうしてもって……」
それから詩織ちゃんは眼鏡をくいっと押し上げ、私達から顔を逸らし、何やらぶつぶつぶつぶつと呟き始めた。
「べ、別に私が気になるとかそういうわけでもないからね? 愛歌に強引に誘われたから来ただけだからね? 別に、他人のデート現場を観察して参考にしようなんて思ってないからね……?」
詩織ちゃんの顔は、何故か仄かに赤い。
私が不思議に思って詩織ちゃんを見つめていると、その視線に気付いた詩織ちゃんがはっとしてぶんぶんと首を勢い良く横に振った。
その拍子に、詩織ちゃんの青みがかった三つ編みが揺れる。
「な、何でもない! 何でもないわよ、こずえ!」
「そ、そう……?」
「ところでこずこず! たっくんと彼女さん、まだゲーセンの中にいるの?」
「う、うん……多分……まだ、出て来てないはずだから……」
愛歌ちゃんの瞳が好奇心できらきらと輝いている。
どうしよう、今の愛歌ちゃん、かつてない程楽しそうだ。
愛歌ちゃんが、拳を勢い良く天に突き上げる。
とても、張り切った様子で。
「よーし! それじゃあ、ドキドキ・たっくんのデート尾行大作戦開始! これは大スクープの予感がしますぞ!」
「す、スクープって……そんな……愛歌ちゃん……」
たっくんの為にもそっとしておいた方がいいんじゃないかとは思ったけれど。
でも、こうなる原因を作ったのは他でもない私だ。
気付けば愛歌ちゃんは私の手を引いて歩き出していて、詩織ちゃんもぶつぶつ言いながら私の隣を並んで歩いて。
私たち三人は、ゲームセンターに足を踏み入れることになってしまった。
「……あ……」
ゲームセンターに入ると、すぐにたっくん達の姿を見つけた。
たっくんと彼女さんが、ガンシューティングゲームで遊んでいる。
凄く、楽しそうに。
たっくんが、あんな美人さんと笑い合えるなんて知らなかった。
たっくん、女の人の前であんな顔できるんだ。
私の知らないたっくんってまだまだいるんだなあとしみじみ思ってしまう。
たっくんが毎日のように言っている『いつまでも子どもじゃないんだ』という主張の意味が、少しだけわかった気がした。
私が弟の成長をゆっくりと噛み締めていると、愛歌ちゃんが勢い良くしゃがんで私の肩を揺さぶってきた。
「あれ、秋風千雪さんじゃん!? 何でたっくんが一緒にいるの!?」
「え……愛歌ちゃん、あの女の人のこと、知ってるの?」
きゃあきゃあと騒ぐ愛歌ちゃんの横から、詩織ちゃんまで興味津々と言った様子で声を上げた。
「むしろこずえが知らないことの方に驚きよ……あの人、今女子の間で大人気の女子高生スーパーモデルよ? 何で小枝くんと一緒に……? いや、小枝くんが悪いって言ってるわけじゃないんだけど……」
じょ、女子高生。
しかもモデルさん。
そんな人と、たっくんが一緒にいる。
二人はどこでどうして知り合ったんだろう。
どうしてあんなに仲が良さそうなんだろう。
私、たっくんのこと全然わかってなかったんだ。
色々と、頭の中がいっぱいいっぱいになりそう。
一方で、愛歌ちゃんはとっても楽しそうで、盛り上がっていて。
「たっくんの恋人が千雪さんだなんて大事件だよ!? これは尾行しないと!」
「……こら、愛歌。あんまり人の恋路に茶々を入れるんじゃないわよ。私の件で学習しなかったの? ……ま、まあ、私も気にならないわけじゃないけど……どうやったら異性とあんな近い距離感で話せるのか気になる気持ちもあるにはあるけど……」
どうやら詩織ちゃんも、愛歌ちゃんを諫めながらも興味はあるようだ。
ふと見ると、たっくんたちがゲームを終えて移動する素振りを見せたから私たち三人は慌ててプリクラの陰に身を隠す。
それから、二人の背中をじーっと見て。
愛歌ちゃんが、はち切れんばかりの満面の笑みでこう言った。
「それじゃ、こずこず、しぃちゃん! 尾行続けちゃおう! 続けちゃいましょう!」
……や、やっぱり誰かに連絡したのはまずかったかなあ。
どんなに混乱していても、私の胸の内に留めておくべきだったのかなあ。
と、後悔しても時すでに遅し。
愛歌ちゃんは、詩織ちゃんを連れて、私をずるずると引きずってたっくん達の後を駆け足で追いかけた。
その間、ずっと。
私は、後でたっくんになんて謝ろうかをひたすら考えていた。




