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魔闘少女ハーツ・ラバーズ!  作者: ハリエンジュ
第六話『愛歌VS詩織!? 試されるハーツ・ラバーの絆!』
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その8 昴の決意

★魔闘少女ハーツ・ラバーズ! 

第六話『愛歌VS詩織!? 試されるハーツ・ラバーの絆!』

その8 昴の決意



teller:河本(こうもと) 詩織(しおり)



 終わった。


 私は、想い人の芹沢昴くんの前で愕然とするしかなかった。

 こんな変な格好、もう言い逃れができない。

 イメージダウンは確実だ。


「……ど、うして……ここに……」


 自分の喉から、蚊の鳴くような声が洩れた。

 芹沢くんも愕然としているようだったけど、私の声で我に返ったのか、ぽつりぽつりと話し始めてくれた。


「……部活、休みだから……帰ろうとしてたら……変な物音がして……来てみたら、怪物が暴れてて……河本が倒れていたと思ったら、急に服装が変わって……」


 最悪だ。

 最初から最後まで見られていたようなものじゃないか。


 芹沢くんの視線が、ブレイブとカーニバルに移る。


「……もしかして、小枝と星野か……?」


 ブレイブの肩がびくりと跳ねる。

 カーニバルもぎょっとした顔になる。

 二人共、態度がぎこちない。


 どうしよう、もう取り繕う隙が無い。

 完全に、バレてしまった。


「おーい、アニマの反応があったが、お前ら大丈夫かー!?」


 ふと、どこかで聴いた声が響いた。

 見れば、コウモリ妖精ゼロットがぴゅうっとこちらに飛んで来ていて。


 それを追いかけるように、鈴原くんと小枝くんが駆け寄って来て。

 ああ、そういえば鈴原くんもサポート役なんだって、こずえが言ってたっけ。


 最早、思考回路が逃避に逃避を重ねようとしていた。

 一刻も早く、この場から逃げ出したくて仕方がない。


「ちょ、こずえ、怪我しとるやん!? おいアホコウモリ、さっさと治さんかい!」


「いてっ! どつくんじゃねえよエロガキ!」


 鈴原くんとゼロットがそんなやり取りをしている。


 うん、鈴原くん。

 わかるよ、こずえのこと心配なのよね。

 でも、『こずえ』って名前言っちゃったわよね。

 これもう完全に私達の正体、芹沢くんにバレてるからね。


「……って、芹沢さん!? 何でここにいるんすか!?」


 小枝くんが驚いた声を上げる。

 うん、今更だよね。


 芹沢くんの表情が、一気に険しくなる。


「……拓海と鈴原は、知ってたのか。……河本たちが……こうして、戦ってること」


 芹沢くんの静かな声に、鈴原くんと小枝くんが一斉に固まる。

 きっと、どう説明したらいいのか困っている。


 勿論私も困っている。

 どうこの状況を切り抜ければいいのか、まるでわからない。


 そんな私に、芹沢くんがゆっくりと近付いて。


 ぎゅう、と私を思い切り抱き締めてきた。


 ………………え?



 ――えええええええ!?



 心臓が早鐘を打つ。

 体温が急上昇する。


 待って待って、何この急展開!?

 どうして、何がどうしてこうなったの!?


 きゃあっと愛歌の歓声が聴こえたような気がするけど、すぐに私の意識が真っ白に塗りつぶされて周りの音が聴こえなくなる。


「……ごめん。……オレ、さっき、驚いて体が動かなかった。……河本のこと助けたかったのに、何もできなかった」


 今唯一私の世界に響くのは、至近距離から聴こえる芹沢くんの声。

 凛としていて、綺麗で、でもどこか悔しそうな声。


「……河本が、戦うとか……大変な目に遭ってること、気付けなくてごめん……河本に、いいことがあったなんて……オレの勘違いだった」


 いいこと。

 芹沢くんに、ついこの前表情が明るくなったと言われた。


 嬉しかった。

 私の変化に、大好きな芹沢くんが気付いてくれたことが、嬉しくて嬉しくて、死にそうになった。


 ――そしてそれは、決して芹沢くんの勘違いなんかじゃない。


「……いいこと、本当にあったんだよ」


 ぽつり、と呟く。


「確かに……戦うとか、地球を守るとか……厄介なことになったなって気持ちはあるけど……それ以上に私は、こずえや愛歌と仲良くなれたことが嬉しい。大事な友達ができたことが、世界が広がったことが……凄く嬉しいの。だから私、大好きな二人の為にも、戦いたい。……頑張りたいの」


 ほとんど、無意識に喋っていた。

 だからこそ、芹沢くんに抱き締められているというとんでもない状況下でもこんなに長い台詞を吐けたんだと思うし。


 言い終わって、芹沢くんがじっと私の顔を覗き込んでいることに気付き、危うく倒れそうになった。かっこよすぎる。


「……オレにできることはないのか」


「……え?」


 芹沢くんが、呟く。

 私を抱き締める力が、強まる。


「……嫌なんだ。……河本が辛い目に遭っているのを、黙って見ているだけなんて。……河本が自分で戦うことを決めたとしても、オレが何もしないのは許せないんだ。……だから……オレに何かできることがあるのなら、何でもしたい」


 驚いた。

 何でって、さっきから芹沢くんの口数が多すぎる。

 今目の前に居るのは、本当にいつも無口な芹沢昴くんなのだろうか。


「せやったら、ワイらと同じくサポート役になればええやん!」


 ふと、世界に私と芹沢くん以外の声が響いた。

 この声は、鈴原くんの声だ。


 鈴原くんはばしっと芹沢くんの背中を叩き、彼に人懐っこい笑みを向ける。

 ……いいな。私も、あんな風に芹沢くんに自然に笑いかけることができればいいのに。


「ワイと拓海は、ハーツ・ラバーの正体がバレんようにとか、一般人の避難誘導とか、そういう仕事しとる。あ、ハーツ・ラバーってこずえたちのことな? 色々あって地球を守る為に戦っとるんやけど」


「やる」


「へ」


 芹沢くんの即答に、鈴原くんが固まる。

 芹沢くんは、固い決意を秘めた目で鈴原くんを見ていて。


「それが少しでも河本の為になるなら、オレはサポート役でも、何でもやる」


 その発言が、あまりにも男らしすぎて、はっきりとしすぎた物言いにくらりと眩暈がした。

 ああもう、何だってこんなにかっこいいの。


「……そんなら、今日からワイらはサポート役トリオや! 三馬鹿結成やな、拓海、芹沢――いや、昴!」


「わっ、ちょ……肩組まないでくださいよ!」


 鈴原くんが小枝くんを強引に引き寄せ、肩を組む。

 小枝くんまで私の世界に入って来た。


 段々視界がクリアになる。

 ブレイブとカーニバルの姿も視界にはっきりと映っていく。


 そうして、私は自分が大好きな芹沢くんの腕の中にいることを再確認することになった。

 心臓が、止まりそう。

 呼吸の仕方がわからない。


「……ところで、いつまで抱き締めとるん?」


 にやつきながら、からかうように鈴原くんが言う。


 その言葉に、芹沢くんは一瞬目を丸くして――それから急激に顔を真っ赤に染め、私を慌てて解放した。


「ご……ごめ……! 河本、ごめん、オレ、無意識で……!」


 ああ、芹沢くんが何かを言ってる。

 でもごめんなさい、もう限界なんです。

 大好きな大好きな芹沢くんに抱き締められたという夢のようなシチュエーションに完全にノックアウトされた私は、そのままぷつんと電源が切れたように意識を失った。


 ――気が動転しすぎていて、何で芹沢くんがここまで私を気にかけてくれるのか、ということにまでは、頭が回らなかった。

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