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魔闘少女ハーツ・ラバーズ!  作者: ハリエンジュ
第六話『愛歌VS詩織!? 試されるハーツ・ラバーの絆!』
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その6 守りたい絆

★魔闘少女ハーツ・ラバーズ! 

第六話『愛歌VS詩織!? 試されるハーツ・ラバーの絆!』

その6 守りたい絆



teller:小枝(さえだ) こずえ



「しぃちゃん! 待ってよ、しぃちゃん!」


 学校からの帰り道、愛歌ちゃんが必死に詩織ちゃんを追いかける。

 私もその後を、遅い足で懸命に追っていた。


 詩織ちゃんは黙り込んだまますたすたと歩いている。

 本当に愛歌ちゃんを無視するつもりらしい。


 このままじゃ、いけない。

 何とかしなきゃ。


 大丈夫、鈴原くんも背中を押してくれた。

 私の気持ちを、二人に伝えなくちゃ。


「ま……愛歌ちゃん、詩織ちゃんっ」


 声を上げると、二人が立ち止まる。

 愛歌ちゃんは不思議そうに、詩織ちゃんは怪訝そうに。


 二人の視線が私に集中して、恥ずかしくて俯きそうになる。


 でも、そんなのだめだと思った。


 すう、はあ、と何度か深呼吸を繰り返す。

 緊張している心が落ち着いて来た頃、私は二人に言った。


「ふ……二人に、話があるの」


 しんと、静けさが訪れる。

 その重圧に負けないよう、私は声を発した。


「ふ……二人に、仲直り、してほしい……」


「……え?」


 私の気持ち、私の想い。

 大好きな二人が険悪なんて、そんなの嫌。


 愛歌ちゃんと詩織ちゃんは、ぽかんと私を見つめている。


 次いで口を開こうとした時。


「させねーよ?」


 不意に聞こえた第三者の声に、びくりと肩が跳ねる。


 この声は、知っている。

 飄々とした、大人びた声。

 これは――。


「ナハトさん……」


「ナハトさん!?」


 私と愛歌ちゃんの声が揃う。


 振り向けば、やっぱり。

 黒髪に赤い瞳。


 オーディオの刺客・ナハトさんが悠々と立っていた。


 恐怖で、心臓が騒ぎ出す。

 警戒心も、同時に沸いて来る。


「……誰?」


 ただ一人、詩織ちゃんだけが事態を呑み込めていない。

 当たり前だ、詩織ちゃんとナハトさんは初対面なんだから。


「君が、噂のロマンスラバーちゃん?」


 ナハトさんがへらっと詩織ちゃんに笑いかける。

 対照的に、詩織ちゃんの表情は強張った。


「……貴方、何なんですか?」


「ん? オレは、ちょっとわるいおにーさん」


 そう言いながら、ナハトさんがゆっくりと私達に近付いてくる。

 あまりにもその動作が平然とし過ぎていて、反応が遅れた。


 それが、間違いだった。


「バイバイ、ロマンスラバーちゃん」


 動けずにいた詩織ちゃんの至近距離までナハトさんが近付き、とん、と彼女の額を人差し指でつつく。

 詩織ちゃんは一瞬目を見開くと、ぷつんと糸が切れたようにその場に力なく倒れてしまった。


「しぃちゃん!」


「詩織ちゃん!」


 愛歌ちゃんと私の声が重なる。

 倒れている詩織ちゃんの身体から靄のような物が放たれ、それは一つの『アニマ』を形作った。


 ラブレター型アニマ、と言えばいいんだろうか。

 ぺらぺらの身体に手足が生えたようなコミカルな容姿。


 だけど、愛歌ちゃんからアニマを作った時も、あのおもちゃのマイク型アニマは教室中を荒らして大変だった。

 見た目で、油断してはいけない。


「こずこず!」


「うん!」


 互いに声をかけ合って、ラブセイバーを出現させる。

 そうして、私達はそれぞれ叫んだ。


「ハーツ・ラバー! アイ・ブレイク・ミー!」


 ラブセイバーを心臓部に突き刺す。

 一瞬ふわりと、きらきらした空間に私の全てを包まれるような感覚を覚える。


 でも、それも本当に一瞬のことで。

 気付けば私達の『変身』は、完了していた。


「小さな体に満ちる勇気! 炎の戦士・ブレイブラバー!」


「はしゃいじゃえ! 楽しんじゃえ! 歌の戦士・カーニバルラバー!」


 名乗りを上げて、アニマに向かって行こうとする。

 それよりも早く、カーニバルちゃんがマイクを手に歌おうとした。


 あ、そっか。

 確かカーニバルちゃんの歌の力はナハトさんのアニマに対して相性が良い。


 このままカーニバルちゃんの歌が詩織ちゃんの心に届いて、助け出せれば――。


 なんて、考えていたのが甘かったみたいだ。


 素早い身のこなしで、ナハトさんがカーニバルちゃんを取り押さえる。

 その手に握られているのは、緑色の液体がなみなみと注がれた小瓶。

 ナハトさんはびっくりしているカーニバルちゃんに、小瓶の中の液体を無理矢理飲ませた。


「……かはっ」


 カーニバルちゃんが、けほけほと咳き込みながらその場に座り込む。

 私は慌てて彼女に駆け寄り、背中を擦った。


「カーニバルちゃん! カーニバルちゃん!? 大丈夫!?」


「かはっ……だい、じょぶ……」


 掠れた声。

 涙目になっている私を安心させるように私に笑いかけると、カーニバルちゃんはまた歌おうとした。


 だけど。


「う……え……?」


 様子がおかしい。

 カーニバルちゃんが、自分の喉をとんとんと叩く。

 何度も何度も口をはくはくとさせる。


「何で……どうして……」


 カーニバルちゃんの戸惑ったような呟き。

 それを嘲笑うかのように、ナハトさんは言った。


「歌姫が魔女の薬で歌を奪われるなんて、物語の定番だろ? ――なんてな」


 もしかして、あの薬のせいでカーニバルちゃんは歌えなくなってる?

 カーニバルちゃんは何度も何度も歌おうと試みている。


 でも、だめみたいだ。

 ……だったら。


「カーニバルちゃん! 詩織ちゃんをお願い!」


「ブレイブちゃん!?」


 ぐっと足を地面に縫い付けて、私はラブレター型アニマと相対する。

 膝が震えているけれど、恐怖で腰を抜かしそうだけど、今は私が頑張らなくちゃいけない。

 怖いなんて、言ってられない。


 私の意図を汲み取ってくれたのか、カーニバルちゃんが私の横を駆け足で通り過ぎる。

 それから、倒れている詩織ちゃんを抱き起こして必死に声をかけ始めた。


 アニマの意識が二人に集中する。


 ――でも、させない。


 私はアニマに向かってジャンプし、上空から殴りかかる。

 薄っぺらいと思っていたそれは意外と頑丈で、少しバランスを崩しただけで倒れるまでには至らなかった。

 それでも。


「……っ、二人は、私が守る! 二人とも、大好きな友達だから!」


 この決意だけは、本物だった。

 今までの私じゃ考えられない、強い、強い想いだった。

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