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魔闘少女ハーツ・ラバーズ!  作者: ハリエンジュ
第一話『芽生える勇気! ブレイブラバー誕生!』
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その6 惑星オーディオ

★魔闘少女ハーツ・ラバーズ! 

第一話『芽生える勇気! ブレイブラバー誕生!』

その6 惑星オーディオ


 憎しみの星、『オーディオ』。

 そんな暗く淀んで狂った世界を総べる王宮『オディキングダム』のテラス。


 私は、アガペラバーは、そこにいた。


 テーブルの上には、ぬるくなった飲みかけのミルクティー。

 頬杖をついて、私は黒い空をぼんやりと見上げていた。

 彼の、ダーリンのいなくなった世界はひどく狭くて息苦しい。


 ゼロット。

 私の、いとしいひと。

 私の最愛。

 私の絶対。


 愛してる、何よりも愛してるの。

 彼の気持ちが私に向いていなくてもいい。

 私が彼を想っているだけでいい。

 それでも、貴方に尽くさせてほしかった。

 この命が、尽きるまで。

 いや、尽きたとしても、私の愛は永遠に消えない。


「よっす。姫っち。浮かない顔してんじゃん」


 ことん、と、テーブルの上に何かが置かれた。

 ぴかぴかした純白の食器の上に置かれているのは、可愛らしいケーキ。


「ティラミスでございます、お姫様」


「ありがと、ナハトさん」


 恭しく私に跪く人。

 私が礼を言うと大袈裟に肩を竦める人。

 黒髪の細身の青年。

 彼の血色の瞳が、私の姿を捉えてゆっくりと細められた。


 この人の名前は、ナハト。

 『オーディオ』が地球侵略の為に結成した『三幹部』の一人。

 私と、同じ立場の人。

 ナハトさんは私の顔を覗き込み、ふ、と微笑む。


「やっぱり、ゼロが出て行ったから元気ないわけ?」


「うん」


「即答かあ。愛されてんねえ、ゼロも。お熱いことで」


 茶化すように言ってから、ナハトさんは手すりに背を預け、空を見上げた。


 私がダーリンを愛してるのは当たり前なのに、何で今更そんなことをしみじみ言うんだろう。


「いつまでもあんな裏切り者の妖精なんぞをグダグダ気にしてんじゃねえぞ! アガペ!」


 ふと、第三者の声が響いた。

 それと同時にふわ、と何かが上から降りて来て。

 彼の存在を認識した頃には、ずん、と衝撃音が響くだけだった。


 テラスにいつの間にか降り立ってたのは、筋骨隆々の大男。

 凶暴性が、獰猛さが顔つきに表れている。


 彼の名前は、ネスくん。

 三幹部、最後の一人。

 私達三人の中で、最も血の気が多い人、だと思う。

 ネスくんはがるるるる、と唸りそうな勢いで叫んだ。


「ゼロットの野郎、オレ達に手のひら返しやがって! 何がハーツ・ラバーを集めるだ、何が地球侵略を阻止するだ! てめえの望みなんざ、このオレがぐちゃぐちゃの粉々にしてやんよ! あの腰抜けめ!」


「やめて」


 自分でも驚く程、凛とした声が出た。

 ネスくんの言葉が止まる。

 私は彼をじっと見たまま、静かに告げた。


「ダーリンの悪口、言わないで」


 ぎろ、とネスくんが私を睨みつける。


「てめえ、裏切り者の肩を持つ気かよ。アガペ」


「私は、生まれた時からダーリンだけの味方」


「んだと……!」


「まあまあ」


 ぱんぱん、と手を叩いてナハトさんが私とネスくんの間に割って入る。

 それから、ナハトさんはぱちんと一つウインクをした。


「仲間同士で言い争うなって。不毛だぜ? ゼロが出て行っちまったもんはしょうがないさ。まあ何とかなるっしょ。それより、今後の方針考えようぜ。地球、どうにかしなくちゃなんねえじゃん? オレ達」


 スマートに私達を仲裁して、ナハトさんは笑う。

 その笑顔にペースを崩されたのか、ネスくんは私から引き下がり、チッと大きく舌打ちをした。


「ンなもん、『力』でねじ伏せるに決まってんだろ。オレにはそれができる。全力で地球のヤツらを蹂躙してやんよ」


 ぺろり、と舌なめずりをしてネスくんは自分の手のひらに勢い良く拳を当てた。

 相変らず脳筋だなあ。

 そんなんじゃ、女の子にモテないぞ。


「んー、やっぱ『知恵』、じゃない? オレは力仕事とか向いてないしさ。コツコツ地味な作戦立てて、ちょこちょこ頑張って、それで結果を出せればラッキーかな」


 そう言って、ナハトさんは髪の毛を指先でくるくると弄んだ。

 こっちは余裕がある感じだ。

 ナハトさんは、女の子にモテそう。


「姫っちは? どう思う?」


 私?

 私は。


「私は、『愛』だと思う。この原動力さえあれば、なんだってできる。だから無敵。どんな力も出せるし、どんな作戦でもこなせる」


「それはてめえだけだろうが」


「そうかな」


 呆れたようなネスくんの声。

 ナハトさんは、顎に手を当てて何かを考えこんでいた。


「見事にバラバラだ。ま、これがオレらの形ってやつかな。じゃあ、今日はどうする? 誰がエモーション集めに行く? ジャンケンする?」


「オレが行くに決まってるだろうが」


 グー、チョキ、パーと手のひらを動かし始めたナハトさんに、ネスくんが不敵な笑みを返した。

 自信満々に名乗りを上げ、ネスくんは前のめりになる。


「オレがやってやんよ。地球のヤツらのエモーションなんざ、根こそぎ奪ってやるぜ。そして、オレがこの星を満たしてやる!」


「そりゃ、頼もしいことで」


 へらっとナハトさんが笑ってネスくんに手を振る。

 それを合図と受け取ったのか、ネスくんが私達に背を向けた。


「待ってろよ……あいつらの頭ン中、カラッカラにしてやっからな……!」


 そう言って、ネスくんの姿がしゅっと消えた。

 地球へ、ダーリンのいる場所へ向かったんだ。


 それをぼんやり見つめてから、私はフォークを手にとりケーキを口元へ運ぶ。

 うん、甘くて、でもちょっとほろ苦くて、美味しい。


 ダーリンとも一緒に食べたかったな。

 ダーリン、今頃何してるだろう。

 元気でやっていればいい。

 私はダーリンを愛してる。

 愛してる、愛してる、愛してる、愛してる。

 だから、彼の命が――私の、全てだ。

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