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魔闘少女ハーツ・ラバーズ!  作者: ハリエンジュ
第五話『恋せよ乙女! ロマンスラバー誕生!』
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その9 友達の為に

★魔闘少女ハーツ・ラバーズ! 

第五話『恋せよ乙女! ロマンスラバー誕生!』

その9 友達の為に



teller:河本(こうもと) 詩織(しおり)



 大地を踏み締めて、小枝さんを捕える怪物と対峙して。

 自分の服装に気付いた頃。


「……え? え!? な、何これ!?」


 私は、思い切り狼狽してしまったように思える。


 ふりふりで、ひらひらで、アイドルが着るようなドレス。

 小枝さんが着ている物と色違いの衣装を、私は何故だか纏っていた。

 それに、髪の色も変わっている。

 これは一体どういうことなんだろう。


 本能に従って名乗ってしまったけど、ロマンスラバーって何?


 混乱している私に、喋るコウモリが捲し立ててくる。


「おろおろしてる場合じゃねーぞ、眼鏡っ娘! あそこのこずえを助けたいんだったら、お前が戦うしかねーんだ! 殴るなり、蹴るなり、あの怪物・アニマを徹底的に痛めつけろ!」


 そんな暴力的な。

 さっきあのネスとかいう大男の胸倉を掴んだ私が言う台詞じゃないのかもしれないけど。


 でも、私を守ろうとしてくれた小枝さんを助ける術がそれしかないのだとしたら、私は。


 拳をぎゅっと握り締める。

 怪物を睨みつける。


 小枝さんは、驚いたような、申し訳なさそうな表情で私を無言で見つめていた。

 そんな顔しないで。

 待ってて、すぐに助けるから。


「と、りゃあっ!」


 地面を蹴って、怪物へと一直線に駆け出す。

 全ては殴りかかる為。

 だったのだけれど、思った以上のスピードが出てしまった。


 嘘、なんで。

 私、こんなに足速くないのに。

 むしろ走ることは苦手なはずなのに。


 スピードが出過ぎてしまった私の体は、砂の怪物の体までも勢い余ってすり抜けてしまう。


 拳すらも、それは同じで。

 砂場の上で転びそうになって、何とか踏み止まってもう一度怪物を見上げる。

 このままじゃ、攻撃は当たらない。

 いくら力を込めても、すり抜けてしまうだけだ。


 より硬い存在になっているであろう、小枝さんを捕まえているあの腕の部分を狙う?

 でも、小枝さんに誤って怪我をさせてしまったら――。


「ロマンスラバー!」


 コウモリが叫ぶ。

 ロマンスラバーというのは、どうやら私の今の名前らしい。


「お前の力は『氷』だ! お前の必殺技なら、このアニマを固まらせることができる! 敵との相性が良いから、もう必殺技ぶっぱなせるぞ!」


 必殺技?

 そんな、少年漫画みたいな。

 少年漫画なんて、あんまり読んだことないけど。


 でも、心が不思議とざわつく。

 まるで、私が何をすればいいのか知っているみたいに。


 次の瞬間、私は軽く跳ねていた。

 そのまま宙に浮いた私の目と、怪物の目が合う。

 私は、怪物の頭に向かって手をかざして。


「ハーツ・ラバー! アイス・ストリングス!」


 頭に浮かんだ言葉を、力の限り叫ぶ。


 すると、かざした両の手から無数の氷の糸が放たれ、次々にアニマと言うらしい怪物へと絡みついた。


 糸が触れた所から、砂のアニマの身体が凍り付いていく。

 その凍結が小枝さんを捕える腕へと差し掛かったところで。


「やあっ!」


 私は、氷が小枝さんに触れそうになる前に、凍り始めていたアニマの腕を蹴り飛ばし、叩き折った。


 拘束を解かれた小枝さんの身体が空中に投げ出される。

 慌てて抱き留めようとしたところで。


「おっまたせー! カーニバルラバーちゃん参上っ!」


 可愛らしい声と共に、黄色い影が目の前に飛び出して来た。


 金髪の長いツインテールを靡かせた背の高いその女の子が、片腕で小枝さんをキャッチする。


「還っちゃえ! エモーション! ハーツ・ラバー! スターダスト・カンタービレ!」


 女の子が、もう片方の手に持っていたマイクに向かって、歌い始める。

 軽快な歌声が流れ、溢れ、アニマを覆い尽くす。


 すると、見る見る内に、アニマはまるで蕩けるようにその輪郭を失っていった。


 私と黄色い女の子の踵が地面に着く。

 黄色い女の子が、小枝さんを優しく地面に下ろす。

 それを見ていたネスが、大きく舌打ちをした。


「……チッ、わらわら増えやがって……! ハーツ・ラバーが……!」


「へっへーん! どうするのー? 三対一だぞっ!」


 私と色違いの黄色いドレスを着た女の子が、ネスに無邪気な笑みを向ける。


 待って、この女の子、どこかで見たことがあるような気が。


 私が記憶を必死に手繰っている間に、ネスはもう一度舌打ちをして特に何かを言うこともなくその場から消え去った。


 ……終わった、の?


 何が何だか良くわからないままだけど、安心して全身の力が抜けそうになる。

 ふと、小枝さんが黄色い女の子にぺこりと頭を下げた。


「あの……ありがとう……愛歌ちゃん……」


「今の姿の時は、『カーニバルラバー』って呼んでよー!」


 ぷう、と黄色い女の子が頬を膨らます。


 愛歌?

 今、愛歌って言った?


 ――まさか。


「星野さん……?」


 ぽつりと呟くと、『カーニバルラバー』と名乗った女の子はぎょっとして私を見て来た。


「その声……しぃちゃん!?」


 次の瞬間、ぱん、と弾けたようにカーニバルラバーの衣装が私達の学校の制服に切り替わった。

 彼女のツインテールも見慣れたショートカットに変わって。

 カーニバルラバーが変身を解いた姿は――良く知る、星野愛歌さんの物だった。


「何で!? 何でしぃちゃんがハーツ・ラバーに!?」


 星野さんが心底驚いた様子で私の肩を揺さぶってくる。

 頭がくらくらするから、やめてほしい。


 そんな私を見て、小枝さんが申し訳なさそうに眉を下げた。


「……私のせいなの……私がドジを踏んだから、河本さんは……」


 どうやら小枝さんは、私がこうなったことに責任を感じているらしかった。

 小枝さんの表情は、ひどく悲痛で。


「……馬鹿ね」


 思わず、くすっと笑ってしまう。

 二人が、目を丸くする。


「貴方のせいじゃないわ。これは私の問題。私の味方になってくれた貴方を助けたかったから、貴方をいたぶるあの男が気に食わなかったから、私は戦おうとしたの。だから、貴方が気に病むことなんて何もない」


「河本さん……」

 

 それでも小枝さんの表情から罪悪感は消えてくれない。

 だから、もっと言葉をかけようとする。


 次の一言を言うまでは……私でも、少しだけ勇気が必要だった。


「――『詩織』でいいわ。こずえ」


「……え?」


「友達を助けたいと思うのに深い理由はない。そうでしょう?」


 自分がこんな照れ臭い台詞を言うことになる日が来るなんて、思ってもいなかった。

 でも、私の話を優しく聞いてくれて、私の為に体を張ってくれたこの子を友達と認めることに、抵抗はなかった。


 こずえが息を呑む。

 真っ赤な顔をして、大きな瞳を潤ませる。


「……ありがとう……! 詩織ちゃん……!」


 ようやく、こずえが可愛らしく笑う。

 鈴原くんも、こずえのこういう表情がきっと好きなのかな、と思った。


「あー! ずるーい! ねえねえ、しぃちゃん、あたしのことも『愛歌』って呼んでよー! はい、せーのっ、まなかー!」


「……星野さん」


「えー!」


 私が一体何に巻き込まれてしまったのか、何の力に目覚めてしまったのか、私はまだ知らない。

 だけど、今の気分は不思議と晴れやかで。

 きっと、私は後悔のない選択をした。

 新しい未来を切り開けた。


 そう、素直に思えたんだ。

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