その1 私にとっての救い
★魔闘少女ハーツ・ラバーズ!
第五話『恋せよ乙女! ロマンスラバー誕生!』
その1 私にとっての救い
teller:秋風 千雪
今日も、帰りが遅くなった。
眠い。
眠くて眠くて仕方がない。
どうしようもない睡魔の波に襲われて、自室のベッドに倒れ込む。
ふかふかしてて、あったかくって、このまま眠ってしまいそう。
いや、ここで寝といた方がいいのかな。
『秘密基地』で寝てたら、拓海くんが『危ないだろ』って怒るもん。
そういえば、初対面の時から拓海くんは私に怒ってばっかりだった。
その大半は私のことを心配して、のことだから――つまりは、優しいんだ、彼は。
「お疲れ様、千雪。明日も早いんだから準備しておきなさい」
がちゃりと、部屋の扉が開いて母さんに声をかけられる。
私は敢えて返事をしない。
そんな私の態度に、母さんは今どんな顔をしているんだろう。
見る気も起きなかったけど、母さんは溜息を一つ吐いて私の部屋から離れて行った。
明日も早い、か。
学校に行けるのは、何時くらいになるのかな。
こんな生活ばっかり続けているから、こんな立場にあるから。
私は、学校に居場所がないというのに。
好きでこんな立場を得たわけじゃない。
好きでこんな生活を続けているわけじゃない。
こんなの、自分で選んだ道じゃない。
私は、もっと――。
ぎゅ、と枕に爪を立てた頃。
枕元に無造作に置いてあった携帯電話が、僅かに振動した。
がばっと弾かれたように起き上がり、私は携帯を手に取る。
私に連絡をしてくるのなんて、一人しかいない。
画面に表示されていたのは、小枝拓海くんからのメッセージ。
ぽん、ぽん、と次々に画面上にメッセージが現れていく。
今日学校で起きたこと、部活のこと、友達のこと、お姉ちゃんのこと。
どれもが他愛のない話だったけれど、私にとっては何よりも興味を惹かれる話題ばっかりで。
拓海くんの言葉全てに食いついて、ぽちぽちと返信を入力していく。
そういえば、拓海くんの学校がどこなのか、ずっと聞きそびれちゃってるなあ。
「えへへ……」
全てのメッセージに返信し終えた頃、私は携帯電話をぎゅっと抱き締めて再び寝転がる。
多分、今の私、すっごく締まらない顔してる。
拓海くん。
私のたった一人の友達。
こんな私と真正面からぶつかって来てくれる。
ただの『私』を見てくれる。
拓海くんの前でだけ、私は私でいられる。
母さんに理解されなくてもいい。
家が息苦しくてもいい。
毎日が窮屈でもいい。
学校で孤独感に晒されてもいい。
私は、拓海くんさえいてくれれば、生きていけるんだ。




