その6 こずこずと愛歌ちゃん
★魔闘少女ハーツ・ラバーズ!
第四話『笑顔を照らせ! カーニバルラバー誕生!』
その6 こずこずと愛歌ちゃん
teller:小枝こずえ
ゼロットさんの力は、本当に凄いと思う。
ぐちゃぐちゃだった教室も、バラバラだった窓ガラスも、ゼロットさんの能力で全部元通りになってしまった。
怪我の治療だけでなく、こんなことまでできるんだ。
ぼんやりと感心してると、いつの間にか星野さんが変身を解いて。
小野寺先生や河本さん、クラスの皆さんがばたばたと教室に駆けつけて。
河本さんは、星野さんが何ともなかったことにひどく安堵していたようだった。
アニマが響かせた大きな音は、他の皆さんにとっては謎に包まれることになったわけだけど。
星野さんと河本さん。
二人の仲睦まじい様子を、遠巻きに私は見つめていた。
……星野さん、ハーツ・ラバーに巻き込んじゃったな。
迷惑だよね、大変だよね。
私が、不甲斐ないせいだ。
なんて謝ったらいいんだろう。
今からでも、星野さんを戦いから遠ざけることってできるのかなー―。
「ねえ、こずこず!」
こずこず?
可愛らしい声を、星野さんが口に出す。
こずこずって、誰のことだろう。
「こずこずってば!」
私がぼんやりとしていると、気が付けば星野さんが私の目の前まで来ていた。
ややしゃがんで、私と目線を合わせている。
――あれ、もしかして、こずこずって。
「あ、あの……こずこずって……私のこと……ですか……?」
恐る恐る訊ねると、星野さんはにっこりと無垢な笑顔を浮かべて頷いてくれた。
……可愛いなあ。
じゃ、じゃなくて。
何で?
「ずっとね、こずこずのあだ名考えてたんだよ! 詩織ちゃんはしぃちゃん、鈴原くんは鈴くん! だったらね、小枝ちゃんにもあだ名があった方が寂しくないでしょ? 小枝こずえだから、こずこず! ね、可愛いでしょ?」
えへへ、と星野さんが笑う。
ぽかん、と私は間抜けな顔をしてしまったように思う。
だって、あだ名なんて、付けてもらったことがない。
「あ、あの……星野さん……」
「愛歌でいーよっ!」
「え……」
「だって、もうあたしたち友達でしょ? あたし、こずこずのこと大好きだもん! だから友達! ね! あたしのことは愛歌って呼んでくれなきゃやだ!」
――くらり、と、倒れそうになってしまった。
巻き込んでしまって申し訳ないのに。
もう、この人に危ない目に遭ってほしくないのに。
でも、女の子に、しかも憧れていた存在に、初めてそんなあったかい言葉をかけてもらえたことがすっごく嬉しくて。
こんな私は浅ましい人間だとは思ったけれど。
それ以上に、嬉しくて、胸がきゅんっと鳴って。
「……っ、愛歌……ちゃん……」
初めて、女の子の名前をこんなに親しげに呼んだ。
ぎこちない言葉だったのに、愛歌ちゃんはとっても喜んでくれて。
「こずこず、だーいすき!」
ぎゅう、と私に思いっ切り抱きついてきた。
びっくりして、よろけてしまったけれど、びくびくしながらも愛歌ちゃんの背中に手を回す。
……あったかい。
他人と触れ合うことって、こんなにも気持ちまであったかくなることだったんだ。
「……あ……」
気付けば、頬を伝うのは一筋の涙。
悲しいわけじゃない。
断言できる。
これは――嬉し涙だ。
「ちょ、こずえ!? 大丈夫か!?」
大慌てで私に駆け寄ってきたのは、鈴原くん。
わたわたしながら、ポケットからティッシュやらハンカチやらを出そうとしている。
でもなかなか見つからなかったのか、今度は鈴原くんは愛歌ちゃんに声をかけてきた。
「ちょ、星野さん! こずえから一瞬だけ離れてくれへん!? いや、女の子同士仲がええのはめちゃくちゃええことやけど、こずえ泣いとるし!」
「やーだよっ! 離さないもーん!」
「そこを何とか!」
きゃあきゃあと、愛歌ちゃんと鈴原くんが賑やかな言葉を交わす。
その渦中で泣きじゃくっているのは、私。
当たり前と言えば当たり前だけど、教室中の視線が私に集中している。
怖くていっぱいいっぱいで恥ずかしい、はずなのに。
鈴原くんや愛歌ちゃんに心配かけちゃいけないって思うのに。
――あんまり嫌じゃないって思ってしまったのは、悪いこと、でしょうか。




