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魔闘少女ハーツ・ラバーズ!  作者: ハリエンジュ
第四話『笑顔を照らせ! カーニバルラバー誕生!』
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その5 おかえりなさい

★魔闘少女ハーツ・ラバーズ! 

第四話『笑顔を照らせ! カーニバルラバー誕生!』

その5 おかえりなさい



teller:小枝こずえ



 ゆっくりと、目を開けた。


 もう、世界は灰色がかっていない。

 鮮やかな色彩に、目が眩みそうになる。


 でも、全然嫌な感じではなかった。

 だって、一番に目に飛び込んできたのは大好きな赤色だったから。


「こずえ……っ」


「すず……はら、くん……」


 ぽつり、と掠れた声で名前を呼ぶと、私と目が合った鈴原くんが切なげに顔を歪める。

 私のことを、ずっと抱きかかえてくれていたらしい。

 何だか、その事実に泣きそうになってしまう自分がいた。


「こずえっ!!」


 鈴原くんが、私をきつくきつく抱き締めてくれる。

 彼の体温に、彼が傍にいてくれる事実に、ひどく安心する。


「このまま、目ぇ覚めんかったら……どないしよって思った……」


「私も……このまま鈴原くんにずっと会えなかったら……どうしようって……私……ずっとずっと……会いたくて……っ」


「うん……っ、うん……っ」


 抱き合って、お互いに泣きそうになる。

 また鈴原くんと一緒にいられることが、嬉しくて、嬉しくて。


「あれ……でも、私どうして……」


 戻って来れたんだろう。

 そう口に出そうとする前に、鈴原くんがある方向を指さした。


 そこに立っていたのは、金色のドレスを纏った、ツインテールのとても背が高い可愛らしい女の子。

 髪の色がいつもより明るい気がする、髪の長さが違う気がする。

 でも、すぐに誰かわかった。


「星野さん……?」


 彼女は――星野愛歌さんは、キラキラ光るオレンジ色のマイクを持って、にっこりとこちらに笑いかけてきた。


 どうして、星野さんがそんな服装を着ているんだろう。

 似合うけど、可愛いけど。

 いや、問題はそこじゃなくて。


「今は、カーニバルラバーだよっ! 小枝ちゃん!」


 星野さんが、にこにこしながら自分の新しい名前を告げた。


 かーにばる、らばー。

 それって。

 星野さんも、ハーツ・ラバーってこと?


 突然の出来事にびっくりし過ぎて私がぽかんとしていると、同じく驚いている顔をしている人を見つけた。

 ――ナハトさんだ。


「何で、ブレイブラバーちゃんが……?」


 ナハトさんの呆然とした声に、カーニバルラバーさんが自信満々に返す。


「言ったでしょ? 小枝ちゃんは、絶対あたしの歌を、声を拾ってくれるって! あたしは小枝ちゃんのこと信じてたもん!」


 『信じてた』。

 そのワードに、ナハトさんの瞳が僅かに揺れた気がした。


 何も言えずにいるナハトさんの代わりにぽつりと呟いたのは、ぱたぱたと私達の傍らに浮いているゼロットさん。


「歌の戦士……そうか。カーニバルラバー……お前の力は、『歌』を他人の心に響かせること、届けること……力技じゃなく、純粋に歌の力だけでエモーションを解放できるってわけかよ」


「そーなのかな? そうだったらいいな! だって、なんか平和っぽいもんね!」


 にこにこ顔のカーニバルさんに、ゼロットさんがやや呆れたように息を吐く。


「つっても、今回うまくいったのはそこの一希の声があったからだとは思うけどな。お前の力は、こちらの世界とオーディオの連中が創った暗い狭い世界を繋ぐ力……なのかもしんねえ。まあなんにせよ、良くやったぜ」


 ゼロットさんの声には僅かに嬉しさが乗っていた気がした。

 カーニバルさんが、えへへ、と照れ臭そうに笑う。


 それから、カーニバルさんはナハトさんに向き直った。

 一点の曇りもないスマイルを浮かべて。


「えへへっ、これでどーだっ! ハーツ・ラバーはこれで二人揃ったよっ! ナハトさんに悪いことなんてもうさせないよー!」


 カーニバルさんの言葉に、ナハトさんが少しだけ黙り込む。

 その血色の瞳は、やっぱり複雑な感情を湛えていて。


「……そーかもな」


 やがて、ナハトさんは溜息を吐き出すように言葉を零した。

 かと思えば、すたすたとそのまま何事もなかったかのように教室から出て行こうとする。


 最初に声を発したのは、鈴原くんだった。


「お、おい! 待たんかいコラ! それで終わりかいな!?」


 戸惑ったような鈴原くんに、ナハトさんは肩を竦めて返す。


「これで終わりさ。今のオレには打つ手がない。生憎オレはネスみたいに強くない。戻って作戦立て直し、だな。あーあ、オレも色々頑張らねーとな」


 それから、教室の戸に手をかけた所で。

 ナハトさんがくるり、と一度だけ振り返った。


「あのさ、愛歌ちゃん――いや、カーニバルラバーちゃん。オレ、やっぱり君のこと嫌いだわ。正直すっげームカつく」


 あまりにも冷たい声で放たれた台詞。

 私がその言葉をぶつけられていたら、苦しくて泣いてしまっていたかもしれない。


 それでも、カーニバルさんは一瞬きょとんとして、でもすぐに笑って。


「うん、知ってる!」


「……君はそれでいいわけ?」


「だって、ナハトさんの嫌いのキモチを変える為にあたしが頑張ればいいだけの話だもん!」


「はは……だからさ――そういうとこ、嫌いなんだわ」


 最後にどこか寂しそうな笑みを浮かべて、ナハトさんは本当に姿を消してしまった。



 その最後の笑顔が、ひどく苦しそうで。

 私は。

 私達は、本当に彼らと戦う運命にあるんだろうか。

 不思議と、そんなことを考えてしまった。

 戦いがやっと一段落したことも、忘れる程に。

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