その2 灰色
★魔闘少女ハーツ・ラバーズ!
第四話『笑顔を照らせ! カーニバルラバー誕生!』
その2 灰色
teller:小枝こずえ
気がついたら、私は色彩を失った世界にいた。
ここは、教室だ。
新しく転入することになった中学の。
『オレは、今日からねーちゃんを一切甘やかさねえ!』
弟のたっくんが、突き放すように私に言った言葉が、頭の中を反響している。
それはつい最近言われたばかりの言葉のはずなのに、不思議ともう随分と昔に言われた言葉のように感じられた。
でも、たっくんの言う通りだ。
いつまでも弟に頼りきりなお姉ちゃんなんて、お姉ちゃん失格だ。
もう、たっくんには頼れない。
私一人の力で、生きていかなくちゃいけない。
教室の隅の自分の席で、きゅっと自分のスカートの裾を掴んで俯く。
周りから聴こえる談笑の声が、私にとってはひどく遠い世界の出来事のように思える。
私はいつも一人きりだ。
今までもずっとそうだった。
自分から誰かに声をかける勇気も、自分から何か行動を起こす勇気も、何もない。
臆病で、情けなくて、弱い私。
東京の中学校に転入してきた私は、ここでも友達を一人も作れずにいた。
クラスメイトの顔を見ることが怖くて、俯くことしかできない。
談笑の声は確かに耳に届いているはずなのに、言葉の内容を認識できない。
視界に映った自分の手は、机は、床は、どうして全部灰色に染まっているんだろう。
何でだろう、まるで古い映画を見ているみたい。
胸騒ぎがして恐る恐る顔を上げて、ひゅっと息を呑んだ。
クラスメイトの顔が、真っ黒に塗り潰されたように曖昧な物に仕上がっていた。
驚いて、怖くて、また俯く。
クラスメイトの色も、教室の色も、全部くすんだ灰色だ。
勿論、私の色も。
世界から、色が奪われている。
なんて、心細い世界なんだろう。
そう思いはしたけれど、すぐに諦めた。
私はこの世界以外を知らない。
一人ぼっちの、淡々とした世界。
私は存在感がないから、みんな、私をいない物のように扱う。
この世界と私は、切り離されているかのように相容れない。
どうしようもない孤独感に、胸が押し潰されそうになる。
私、どうしたんだろう。
こんな感情、珍しくも何ともないのに。
だって、私、友達なんて今までの人生で一度もできたことがない。
ずっと、友達の存在に憧れてきた。
それが私なんかの、嫌になる程の内向的な性格では叶わない望みだと、頭ではわかってるのに。
せっかく新しい中学に来たんだ。
自分をリセットするように、勇気を出してみようか。
でも、顔を上げかけて、またあの塗り潰されたようなクラスメイトの顔を見ることが恐ろしくて、また俯く。
どうして、私はいつも下ばかり見てしまうんだろう。
前を向かないと、何も進めないのに。
進むのが怖いのかもしれない、と思ってしまう。
この恐怖を抱えている限り、私はこの世界にずっと一人きり、閉じ込められているのだろう。
ああ、涙が出そうになる程、自分が嫌いだ。
新しい環境になっても、何一つ変われやしない。
全部、私のせいだ。
こんなに内気なのも、こんなに怖がりなのも、私に一人も友達ができないことも。
でも、ふと、思ってしまった。
――何か、とても大切なことを忘れているような、このざわざわとする感覚は、気のせいだろうかと。




