その3 地球よりも
★魔闘少女ハーツ・ラバーズ!
第二話『私、ハーツ・ラバーになりたい!』
その3 地球よりも
teller:小枝こずえ
「……で、ねーちゃんは、ハーツ・ラバーとかいう戦士で、地球を守る為に戦わなきゃならねえ、と」
「ま、そういうことになるな!」
たっくんが不機嫌そうに呟く。
ゼロットさんが、浮いたままどこか誇らしげに言った。
私と鈴原くんとゼロットさんは、たっくんの部屋にいた。
たっくんはむすっとした顔のまま胡坐をかいていて、私と鈴原くんはたっくんと向かい合う形で正座させられている。
私の問題なのだから、私の部屋で話さないか、と言ったのだけれど、何故かたっくんはそれを断固として拒否した。
ゼロットさんは気にしていないみたいだけど、とても空気が重い。
……たっくんに、早くもハーツ・ラバーの秘密がバレてしまった。
たっくんに詰め寄られて、ゼロットさんはすらすらとハーツ・ラバーのこと、オーディオのこと、アニマのこと、私に語ってくれた全てをあっさりたっくんに打ち明けた。
たっくんのことは、巻き込みたくなかったんだけどな。
私がおどおどしながらも俯いていると、たっくんが溜息を吐いたのが聴こえた。
「……仮に、その馬鹿げた話を信じるとしてもだ」
たっくんの声が、硬い気がする。
恐る恐る、目線を上げる。
たっくんは、凄い形相でゼロットさんを睨んでいた。
……こわい。
「その戦いは、いつ終わるんだよ」
たっくんが、ゼロットさんにさらに詰め寄る。
ゼロットさんは、あっけらかんとした声を上げた。
「そりゃあ……オーディオの連中が戦意喪失するまで、か?」
「つまり、具体的にはいつ終わるかわかんねーわけだな」
たっくんが、眉間にさらに深い皺を刻む。
「ねーちゃんは、これから先どんだけ痛い思いをしなきゃなんねーんだよ」
「まあ……痛い思いはさせちまうと思うが、俺様の力ならすぐに傷なんて治せるぜ?」
「治るかどうかが問題じゃねーんだよ。痛い思いは絶対するってことだろ」
たっくんの声が、低くなる。
不機嫌さが、黒いオーラとして滲み出ている気がする。
……エモーションの、霧みたい。
そんな場合じゃないのに、そんなことを思ってしまった。
「そこの、赤いの……鈴原サン、だっけか。鈴原サンの服、すげえボロボロじゃん。……ひどい怪我、したんじゃねえの」
「あー……」
鈴原くんが気まずそうに頭を掻く。
こんなに服がボロボロなの、私のせいなのに。
「た、たっくん……鈴原くんはね、私を庇って……」
がたん、と大きな音を立ててたっくんが立ち上がる。
かと思えばゼロットさんを両手で掴んで、まるで掴みかかるようにたっくんはぎゃんぎゃんと声を上げた。
「……っ、伝説の戦士!? 知らねーよ、んなもん! オレにとってはたった一人のねーちゃんなんだよッ!」
ぎゅう、とゼロットさんが潰される。
苦しそうにゼロットさんが呻く声を洩らしたけど、たっくんはそれを掻き消すようにさらに声のボリュームを上げる。
「地球の危機だからねーちゃんに痛い思いしてまで戦ってほしい、って言われて、はいそうですか、なんて納得できる弟がいるわけねーだろ! どこにいんだよそんなやつ! 家族なんだぞ!?」
「……た、たっくん……」
「ねーちゃんは……オレのねーちゃんなんだよッ! 世界よりも……地球よりも! 大事なんだよッ!」
言葉が、出なかった。
胸が、ぎゅう、と締め付けられる感覚に陥る。
この感情の名前が、良くわからなかった。
たっくんが、たった一人の弟が、世界よりも、地球よりも、私が大事。
そんなこと、言われたことない。
たっくんが、私をそこまで想ってくれているなんて、知らなかった。
たっくんはいつもつんけんしていて、友達の前では明るいけれど、私に対してはちょっと怒りっぽくて。
でも、昔からいつも私を守ってくれた、助けてくれた。
家族だから仕方なくそうしてくれてるんだとばかり、思ってた。
思ってた、のに。
「以上! 話終わり! わかったらとっとと出てけッ! 二度と来んなッ!!」
たっくんが怒鳴って、ぽかんとしている鈴原くんと、散々潰されたせいでぐったりしているゼロットさんを部屋から無理矢理追い出す。
それだけじゃ止まらなくて、ずかずかと階段を降りる音がした。
慌てて私もたっくんの部屋から出てその背中を追いかけると、すでにたっくんは二人を玄関の外に追い出した後で。
「た……たっくん……あの……」
名前を呼ぶと、たっくんが振り向いて、ぎろ、とこちらを睨んでくる。
その眼差しに、怯みそうになったけど。
「私……ね……あの……確かに、こわい、けど……やっぱり、戦いたいよ……」
何とか、精一杯の声を出す。
たっくんは、は、と口を開けて、また私を睨んで。
「……ねーちゃんに、できるわけねーだろ」
「わ……私……今までの自分から……その……変わり、たくて……」
「オレがしてほしかったのはそういう変化じゃねーよ! ふざけんな! ねーちゃんは、なんっもわかってねえ!」
怒鳴られて、びく、と身が竦む。
こういう時、やっぱり私はまだまだ弱いまんまなのだと痛感する。
たっくんは、そんな私を見て、大きく舌打ちをして。
「ばか!!」
それだけ怒鳴ると、乱暴に階段を駆け上がり、それきり部屋に籠ってしまった。
廊下に取り残されて、途方に暮れる。
……ど……どうしよう……。
◆
teller:鈴原一希
「……まあ、当然こうなるやろな」
こずえの家から追い出されて、ワイはしみじみとコウモリに向かって呟いた。
「ワイかて、ほんまはこずえに戦ってほしくないし」
ちら、とアニマのせいで少し擦れて破れたズボンを見る。
「……こずえがハーツ・ラバーになったの、ワイのせいやし」
声が、自分でも沈むのがわかった。
ワイのアホ、何やっとるんや。
こずえのこと好きなのに、こんなにめちゃくちゃ好きなのに、守りたいのに、逆に助けられて、危険な目に遭わせることになって、ワイには些細なサポートしかできんなんて。
ああ、もう。
自分で自分を殴りたくなった頃、コウモリが何か考え込んでいることに気づいた。
「……世界よりも、星よりも、大事か」
何か、これまたしみじみと呟いとる。
「……わかる気がするよ」
「コウモリ、さっきから何言うとるん?」
「べっつに! なんでもねーよ!」
くるんとその場で一回転したのはいつもの調子のいいコウモリで。
ワイはそれを片手で捕らえて、言った。
「しゃあない、こずえの手料理食えんのは残念やけど、今日はワイがコウモリにヤキソバ作ったるわ」
「え、俺様、お前んち泊まるのかよ。エロガキ」
「エロガキ言うな! っちゅーかお前、まさかこずえんちに住むつもりやったん?」
「当たり前だろうが! 妖精たるもの、普通ハーツ・ラバーの傍にいるだろ!」
「んな当たり前知らんわ! こずえは女の子やぞ!? お前男やろ! 一緒にさせるわけないやろ、アホ!」
ぎゃあぎゃあと口論を続けながら、コウモリと一緒に、こずえんちの隣の自分の家に入っていく。
玄関をくぐる時、ちら、とやっぱりこずえが気になるのが、自分でもわかった。




