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魔闘少女ハーツ・ラバーズ!  作者: ハリエンジュ
第二話『私、ハーツ・ラバーになりたい!』
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その2 鉄壁ガード

★魔闘少女ハーツ・ラバーズ! 

第二話『私、ハーツ・ラバーになりたい!』

その2 鉄壁ガード



teller:小枝こずえ



「ええか、コウモリ。弟くんに不審がられんようにここに隠れとき。絶対声出したらあかんで」


 空はもう、すっかり暗い。


 家の前に着いた頃、鈴原くんは浮いていたゼロットさんをがしっと引っ掴み、自分の鞄に無理矢理押し込む。

 ゼロットさんはじたばたと暴れ回り、その度に鈴原くんの鞄がぼこぼこと形を変えた。


「はあ!? 何言ってんだよエロガキ! 俺様は腹が減ってるんだっつーの!」


「あーもう、後で食わせたるわ、後で。……っちゅーか、こずえの前でその呼び方やめい!」


 ……物凄く。

 物凄く、鈴原くんとゼロットさんが言い争っている。

 止めた方がいいのかな、どうしよう、とおろおろしてしまう。


 迷った末に、私は恐る恐る家のチャイムを押すことにした。

 朝、いきなり鈴原くんと遊びに行くことになったから、鍵は持っていない。

 たっくんに、もっとしっかりしろよな、なんて怒られちゃうかな。


 しばらくして、足音が聞こえて。

 がちゃり、と玄関の扉が開いた。

 扉を開けたのは、むすっとした顔のたっくん。


「……ねーちゃん、朝からどこ行ってたんだよ。……いや、別に心配なんかしてねえけ……ど……」


 たっくんの言葉が止まる。

 それから彼は、ぽかんと口を開けて。

 こちらを凝視し、固まってしまった。


「た……たっくん、ただいま……遅くなってごめんね……」


 何とか挨拶をするけど、たっくんは依然としてこちらを見つめたままで。

 いつもの『たっくんって呼ぶな!』なんて台詞も返ってこない。


 やがてたっくんは、ぎろり、と鋭く私を睨みつけてきた。

 え、こわい、こわいよたっくん。

 何で機嫌悪いの。

 何でそんなに怒ってるの。


「……ねーちゃん」


「は、はい……」


 低い声で、名前を呼ばれる。

 つい、びくびくしてしまう。

 ……弟相手に、敬語を使ってしまった。


「……オレは確かにねーちゃんを甘やかさないと言った。ねーちゃんに友達を作れとも言った」


「う、うん……?」


「でも、家に男を連れ込んで良いとは言ってない」


「……つれこ……?」


 たっくんの視線が、私から、私の後ろにいた鈴原くんに向けられる。

 振り返ると、鈴原くんの体は少し強張っているようだった。

 たっくんは鈴原くんを見下ろし、睨んだまま言葉を放つ。


「……お前、誰だよ」


 お、おまえって、そんな、たっくん。

 鈴原くん、たっくんより年上だよ。

 鈴原くんは少し焦ったような声を出した。


「あ、ええと、鈴原一希、言います。隣の家のもんです。こずえとは、その、友達、ちゅーか……」


「こ、ず、え?」


 たっくんが眉間に深く皺を寄せる。

 どうしよう、理由はわからないけど物凄く機嫌が悪い。


「……ねーちゃんのこと、下の名前で呼んでんのかよ。呼び捨てかよ」


「……あ、はい、そうです」


「……友達……ねえ……」


 たっくんが、鈴原くんをじーっと、穴が開きそうな程に睨む。

 鈴原くんが、萎縮している気がする。

 このままじゃ、鈴原くんに嫌な思いさせちゃう。

 せっかく、友達になってくれたのに。

 友達を、家に呼ぶなんて、初めてなのに。


「……ねーちゃん、先、家に入ってろ。オレ、こいつと話があるから」


「あ、あの……鈴原くん、私と同い年だよ……?」


「……『この人』と、二人で話したいことがあるから、お前は家に入ってろっつってんだよ」


 ぎろ、と睨まれて全身が縮こまる思いだった。

 鈴原くんに『ごめんなさい』を言う暇もなく、私はたっくんにぐい、と引っ張られ、そのまま家の中に押しやられる。


 ばたん、と玄関の扉が閉められる。

 外には、たっくんと鈴原くんと、鈴原くんの鞄の中にいるゼロットさん。

 ……何を、話しているんだろう。


 私は情けなくも、無情にも閉ざされた扉を見つめて、立ち尽くすことしかできなかった。





teller:鈴原一希



 あかん。

 めっちゃ、睨まれとる。

 めちゃくちゃ敵意を感じる。

 こずえの弟なんやから、もっとちっこい感じの男の子を予想してたんやけど。


 なんやこいつ、背ぇ高いやん。

 160センチメートルはあるんちゃうか。

 身長ちょいワイに分けろや。

 年いくつや。


「……どーも。ねーちゃんがお世話になりました」


「え、ああ……はい」


 はいって、なんやねん、ワイ。

 何で年下にこんなビビっとるん。


「……ねーちゃんとは、友達ですか」


「そう、やけど……」


「ほんとに?」


「へ?」


「ほんとに、ねーちゃんをただの友達だと断言できますか」


 んなわけないやろ。

 めちゃくちゃ恋愛対象として見とるわ。

 好きで好きでしゃーないっちゅーねん。

 ……なんて言ったら、ワイ、この弟くんに何されるかわからんな。


 ワイが何も言えずに黙り込んでいる間にも、弟くんは追い討ちをかけてくる。追撃してくる。


「ねーちゃんと、一生友達のまんまでいられるって思ってますか」


「それは、その」


「ねーちゃんに、恋愛感情を1ミリも持ってないと言えますか」


「……ええと」


「これから先、十年後も二十年後も三十年後も、ずっとその後も、ねーちゃんに絶対に手ぇ出さないって誓えますか」


 ……もう、あかん。

 観念した。

 こいつの前で嘘なんてつけん。

 ついたとしても、すぐ見破られるわ。


「……ほんまは、結婚を前提にお付き合いしたいとむちゃくちゃ一方的に思っとります……」


「素直でよろしい、じゃあ帰れ」


 弟くんの敵意が、殺意に変わった気がした。

 ぐいぐい、と弟くんがワイの肩を押し、玄関から遠ざけようとする。


「ちょ、待った! 待たんかい! タンマ! そんな警戒せんでもええやろ!」


「うるせえ! ねーちゃん誑かしてんじゃねーよ、チビ!」


「誰がチビや! このシスコン!」


「オレはシスコンじゃねーよッ!」


 ワイの体を押す弟くんの腕を引っ掴み、何とか抵抗する。

 ワイはちっさいけど、毎日めちゃくちゃ鍛えとんじゃい。

 これしきで、へこたれてたまるか!


 っちゅーか、なんや、こんな鉄壁ガードがこずえの傍におったとは聞いとらんで!?

 おばちゃんはワイにこずえと仲良くしてくれ、って言うてくれたんやけどな!?


 これほんまにこずえと結婚すんの前途多難なんちゃうか。

 中学生で結婚考えるなんて気ぃ早すぎやって怒られるかもしれんし呆れられるかもしれんけど、ワイ、これでもめちゃくちゃこずえに本気やから!

 ……いや、それ以前にお付き合いもまだなんやけど。


 何だかこの弟くんに対抗心、みたいなのが燃え上がって、抵抗に抵抗を重ねる。

 必死になりすぎて、ワイは弟くんの手で鞄が潰されとることに気づいとらんかった。


 ぎゅう。

 攻防を続ける内に、鞄に圧が加わって。

 ぎゅう、ぎゅう。

 ぎゅうぎゅうぎゅうぎゅう。


「……っ、だーっ! 苦しいっつーの! ガキ共!」


 鞄から、勢い良くコウモリのアホが飛び出した。

 ぱたぱたと宙に浮いて、ぜえはあと呼吸を荒げて。


「……は……?」


 弟くんが、ぽかんとする。

 まじまじと、コウモリを見つめて、ワイとコウモリを交互に見て。


「……っ、はああああああ!?」


 弟くんの絶叫が、夜空に響き、消える。


 うわっちゃー。

 つい、頭を思いっ切り抱える。


 ……あかん、バレた。

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