その10 好きだよ
★魔闘少女ハーツ・ラバーズ!
第十一話『未来を夢見て! フューチャーラバー誕生!』
その10 好きだよ
teller:穂村 ミク
「五人目のハーツ・ラバー……!? あのガキが……!?」
宙を飛ぶコウモリが、驚いたような声を上げる。
何でコウモリが喋るんだろう、とは一瞬思ったけど――幽霊がいて、ぼくの歪んだ愛が、あんな怪物を生み出す世界だ。
別に、不思議なことはないのかもしれない。
ぼくと似たようなカラフルなドレスを纏ったお姉さんたちの視線が、ぼくに集中している。
ぼくは、ただ真っ直ぐに!目の前の黒いハートマークを見つめていた。
今は、あれを何とかしなきゃいけない。
それだけは、何となくわかった。
駆け出すと、思った以上のスピードが出た。
身体能力が、まるで何十倍にも膨れ上がったみたい。
もしかしたらこれが、こんな変な服装になったことによる効果なのかもしれない。
そのまま、右手を振り上げハートマークを殴ろうとする。
視界の端で、ぼくをこんな目に遭わせたアガペラバーが指をすっと動かすのが見えた。
途端に、バリアのような物が張られ、ぼくの拳は阻まれてぼくを身体ごと弾こうとする。
でも、ぼくの中のぼくが言っている、叫んでいる。
ぼくは、癒しのハーツ・ラバー。
歪んだ愛くらい、いくらでも浄化できる。
祈りをこめるように、優しくバリアに手のひらで触れる。
ぱりん、とガラスが割れるような音と共に、バリアは一瞬でいとも簡単に弾け飛んだ。
その隙に、足を蹴り上げハートマークに命中させる。
ハートが抉れる。
もっと、もっと壊さないと。
これは、ぼくが壊すべきぼくの気持ちなのだから。
何度も何度も、ぼこぼこにハートマークを殴って行く。
ハートの原型がわからなくなって来た頃、ハートの全体から黒い靄が溢れ出して。
また、ぼくの中のぼくが叫んだ。
今しかないと、ここで決めろと。
「還って、エモーション」
呟き、両手をかざす。
緑色の優しい光が、両手から溢れた。
全てを包み込む、温かい光。
癒し、なんて。ぼくには少し似合わないかも、とちょっとだけ笑いそうになった。
これは、ぼくを見守ってくれている優しいみんなが後押ししてくれるからこそ、出せる力なのかもしれない。
「ハーツ・ラバー! ヒーリング・ハーツ!」
緑色の光が、歪んだハートマーク全体を覆い尽くす。
穏やかに、緩やかに『黒』を光が浄化していく。
やがて、ハートマークは空気に溶け――ぼくの中に、確かに還って行った。
「う……」
アガペラバーの身体が、ふらりと崩れる。
それを受け止めたのは、何もない所から突如現れた、黒髪赤目のお兄さんだった。
「姫っち、大丈夫か?」
「ん……ありがと、ナハトさん」
「力、使い過ぎたんだろ。しばらく休んどけ。な?」
ナハトと呼ばれた青年に、アガペは身を預ける。
それから、横に居たネスをアガペはじとりと見つめた。
「……何してんの、ネスくん。ハーツ・ラバー、揃っちゃったじゃん」
「……うるせえな」
ばつが悪そうに、ネスがアガペから顔を背ける。
その姿に、ぼくまで笑いそうになった。
きっと、考えなしでぼくの所まで来てくれたんだろうな。
ネスを見つめていたら、目が合った。
ネスは一瞬気まずそうな表情をしてから、ぼくを睨んだ。
「ミク……いや、フューチャーラバー! 今から俺とお前は敵同士だ。お前らの星は、俺らが必ず奪い去ってやるから、覚悟しとけ!」
「ぼくに『未来に夢を見ていい』って言ったのはきみなのに、その未来をきみがぼくから奪おうとするんだ。変なの」
「う、うるせーうるせー! と、とにかく! お前はいつか俺が必ず倒してやる!」
ほんと、変なの。
何もかもが矛盾しているって気付いているんだろうか。
ばかだね、ネス。
でも、そんなネスが、ぼくは。
とん、と跳ねるように飛ぶ。
ネスに近付く。
攻撃されるのかと思ったのか、ネスが身構えたけど、それでも遅かった。
ぼくはネスの頬にそっと触れ――ちゅ、と彼の唇に優しく口付けた。
一瞬、時が止まったかのような錯覚。
後ろでお姉さんたちがざわってなったのは、きっと気のせいじゃない。
「……は……?」
一度重ねた唇を離すと、何が起きたのかわからない、とでも言うかのようにネスが気の抜けた声を洩らした。
ぼくは、ちょっと悪戯っぽく微笑んで。
「ぼく、きみのことが好きだよ」
「は?」
「責任、取ってね」
それだけ言って、ぼくは踵を返し、ぼくと同じような衣装を纏ったお姉さんたちの所へ向かう。
告白、完了。
後ろからは。
「はああああああああ!?」
ネスのやたらと驚いた声が響いていて。
ナハトとやらが笑い死ぬんじゃないかってくらい笑ってる声も聞こえて。
きっとアガペもぱちぱちと小さく拍手をしていて。
ネスはきっと、これから凄くいじられる。
でも、一度生きることすら諦めたぼくを!無理くりこんな気持ちにさせちゃったんだから。
それくらいはいいでしょう?
呆然とするお姉さんたち――アガペとはまた違うハーツ・ラバーさんたちの前に立って、ぼくは。
「初めまして、フューチャーラバー・穂村ミクです。……これから、よろしくね」
小さく笑って、お辞儀をした。
不思議と、心が軽い。
顔を上げて視界に映った空が、いつもより美しく見えたのは。
ぼくの大事な彼らが、天に還ってぼくを見てくれているからなのかもしれない、と思えた。




