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魔闘少女ハーツ・ラバーズ!  作者: ハリエンジュ
第十一話『未来を夢見て! フューチャーラバー誕生!』
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その6 複雑な想い

★魔闘少女ハーツ・ラバーズ!

第十一話『未来を夢見て! フューチャーラバー誕生!』

その6 複雑な想い



teller:星野(ほしの) 愛歌(まなか)



「るったたーん、るったーん、るんるーん!」


 鼻唄を歌いながら、スキップでもしそうな勢いで帰り道を歩く。


 隣をぱたぱたと飛んでいるのは、ゼロさん。

 今日はこずこずとちー姉がお買い物、しぃちゃんと鈴くんとたっくん、すばるんが部活とみんな忙しい。


 一人だけ何の用事もないあたしは、みんなの秘密基地でこっそり歌と踊りの練習でもしようかと目論んでいる。

 観客がいないと寂しいので、ゼロさんに無理を言ってついてきてもらった。


「えへへー、ありがとねゼロさん! ゼロさんってやさしいねー」


 にこにことゼロさんに飛び切りの笑顔を向けると、ゼロさんは何故か溜息を吐き出した。


「愛歌はいつも楽しそうだな。ったく、脳内お花畑で羨ましいぜ」


 のーないおはなばたけ。

 それって素敵なことなんじゃないのかな?

 お花畑って綺麗だし、メルヘンチックだし。

 ほんとに頭の中がきらきらふわふわしてたらいいのにな。


 そしたら毎日もーっと楽しくなりそうなのに――。


「……っ、な……」


 突然、ゼロさんが驚いたような声を上げた。

 宙に浮かぶことをやめ、あたしの肩に留まるゼロさん。

 何だろう。

 空気が、重くなった気がする。


「アガペ……なのか……?」


 ゼロさんが呟く。

 あがぺって、何だろう。

 あたしがきょとんとしていたら、ゼロさんが焦ったようにあたしに顔を近付けてきて。


「愛歌。アニマが出た。アニマっつっても今までの比じゃねえ。かなり厳しい戦闘になるだろう。早くこずえたちに連絡取って、現場に向かうぞ」


 ゼロさんの真剣な声に、らしくもなく緊張する。

 なんだろう、いつもと違う?

 どういう意味だろうと思いつつも、ハーツ・ラバーとしてはアニマが暴れてるのなんて、見過ごせるはずもなく。


「うん、行こうっ!」


「行かせねーよ?」


 頷いて走り出そうとした直後、後ろから強い力で片腕を引っ張られた。

ちょっと痛くてびっくりして振り向くと、そこにいたのは。


「ナハトさん!」


「……よっ。ゼロと、カーニバルラバーちゃん」


 へらりと笑うナハトさん。

 その笑顔と裏腹に、あたしの手首を掴む力はぎりぎりと強い。


「ナハトさん? 痛いよ?」


「痛くしてんの。わかんねえ?」


 呆れたように、ナハトさんが溜息を吐く。

 それでも力は弱まってくれないどころか強まるばかりで。

 ナハトさんは空いた片手でがしがしと自分の頭を掻くと、じっとあたしの目を見据えて言った。


「忠告。君、行かない方がいい。今回のアニマの強さ、桁違いだから」


「ナハト……っ、この気配、やっぱりアガペが……!?」


「ご明察。今回アニマを生んだのはゼロの愛しい姫君さ」


 いとしいひめぎみ。

 その言葉を、何度も頭の中でリピートして。

 しばらくしてから、あたしは歓声を上げた。


「ゼロさん、彼女さんいたの!?」


「彼女じゃねーよ!!」


「似たようなもんだろ」


 くっくっと、ナハトさんが喉を鳴らして笑う。

 でも、それも本当に数秒ぐらいの出来事で。


 ナハトさんは、すぐに真剣な表情であたしを見てきた。


「姫っち――アガペラバーのアニマの強さは、オレやネスの創るやつの比じゃない。だからカーニバルラバーちゃん、もう諦めてくれよ」


「え……諦めないよ? 街のみんなが危ないし、こずこずやしぃちゃんやちー姉もついていてくれるし、だいじょーぶだよっ!」


 ね、とナハトさんに笑いかける。

 ナハトさんの瞳が激しく揺れる。


 かと思えば、くしゃっと苦しそうに顔を歪ませて、ナハトさんは近くの塀にあたしの背中を叩きつけた。

 ちょっと背がじんじんして痛い。

 こういう体勢、前にもナハトさんとなったことあるな。

 かべどん、だっけ?


「ひどい目に遭うから行くなっつってんの。何で大丈夫って言い切れんの? 何でそんなに馬鹿なの?」


 ナハトさんが言葉を吐き出し、あたしにぶつける。

 何でナハトさん、こんなに辛そうなんだろう。


「オレはさ、君が嫌いだよ。大嫌いだ。見てるとイライラする。アイドルがどうとか、夢もくだらないと思ってるし、とっとと現実知って汚れちまえばいいと思ってたよ」


 どん。

 あたしの顔の横に、ナハトさんが拳を叩きつける。

 痛そうな音と共に、あたしよりほんの少しだけ背が低いナハトさんは、あたしを見上げた。


「でもさ……いざ君の笑顔がなくなっちまうかも、とか、どうしようもなくボロボロになって泣いちまったら、とか考えたらさ……なんか、やりきれねーんだよ。君にはそのままでいてほしいんだよ。世の中の汚いことなんか何も知らないまま、眠るように全部終わってほしいんだよ。オレは君を、そんな風に終わらせたいんだよ……!」


 ナハトさんの声、言葉。

 それはまるで、心からの叫びのようにも聞こえた。


 何だろう。

 あたし、今――凄く、この人を安心させたい。


 微笑んで、顔の横のナハトさんの手をそっと自分の両手で包む。

 あたしの手首には掴まれた跡が残ってたけど、もう大した痛みじゃなかった。


 ナハトさんがはっと息を呑む。

 塀に思い切りぶつけたからか、ナハトさんの拳は僅かに皮が剥けていた。


「ナハトさんってさ、優しいよね!」


「……は?」


「だって、こんなにあたしのこと心配してくれてる。あたし、嬉しいな」


 ナハトさんの瞳が、また戸惑ったように揺れた。

 あたしの手を振り払うこともせず、ナハトさんが自嘲気味の笑みを浮かべながら呟く。


「……馬鹿じゃねーの……? 心配なんてするわけねーじゃん。オレ達、敵だぜ……?」


「でも、あたしにひどい目に遭ってほしくないんでしょ?」


「……それは」


 ナハトさんが俯こうとする。

 その前に顔を覗き込んで、あたしは笑いかけた。


「あたしならだいじょーぶっ。最強の友達が三人も一緒にいてくれるんだもん。怖いことなんて何にもないよ! あたしはみんなを信じてるし、みんなを信じるあたしも信じる! だから、今回もばしっとアニマを倒しちゃうもんね!」


 ナハトさんが、呆然とあたしを見つめる。

 ナハトさんの手から力が抜けて、あたしの手の中からだらりと滑り落ちる。


「じゃーね、ナハトさんっ! オーディオの好きにはさせないぞー!」


 ゼロさんが、ぱたぱたとあたしの前を飛ぶ。

 きっと、あたしを案内してくれる。


 走り出そうとした瞬間、ナハトさんがぐしゃりと片手で髪ごと自分の顔を覆ったのが視界にちらりと映って。


「……馬鹿じゃねーのかな、ほんと」


 それは、あたしに対して言った言葉なんだろうか。

 気にはなったけど、考えてみても、ちょっと馬鹿なあたしにはわかんなくて。


 次に会った時にでも聞こうと決心して走り出す。

 あたしとナハトさんには次があるんだと、信じて。

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