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魔闘少女ハーツ・ラバーズ!  作者: ハリエンジュ
第十一話『未来を夢見て! フューチャーラバー誕生!』
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その3 私にできること

★魔闘少女ハーツ・ラバーズ!

第十一話 未来を夢見て! フューチャーラバー誕生!』

その3 私にできること



teller:小枝(さえだ) こずえ



 遠ざかるミクちゃんの背を悲しそうに見送った小野寺先生は、へなへなと力なくその場に座り込んでしまった。

 慌てて駆け寄り、屈んで視線を合わせる。


「せ、先生……大丈夫ですか……?」


「……ああ。大丈夫だ。悪いな、小枝。心配かけて」


 そう言って小野寺先生は軽く微笑んでくれたけど、その表情には確かな絶望の名残があって。

 私がなんて声をかけたらいいのか悩んでいるうちに、小野寺先生は口を開いた。


「……ミクは、あの子はな。僕の実の娘なんだ」


 声として空気に触れた真実があまりに衝撃的すぎて、固まる。

 世界は狭いと言うけれど、こんなことって。


 でも、ミクちゃんの苗字って確か『穂村』じゃ――?


「妻とは離婚していてね。ミクは妻に引き取られた。だから、僕とは姓が違う」


 私が疑問を口に出すよりも早く、小野寺先生は、私の疑問を解決してしまう。

 だから、もう自分からは何も聞かない方がいいんじゃないかと思って。

 私は黙って小野寺先生の言葉を待った。

 今はただ、話を聞きたい。聞き逃すことのないように。


「……ミクはな、生まれつき霊感の強い子だったんだ。僕たちにはとても見えない、見えてはいけないモノが見えすぎていた」


「霊感……?」


「ああ。小さい頃からあの子の世界は幽霊に囲まれていた。あの子の友達は、幽霊しかいなかったんだ」


 小野寺先生が、目を伏せる。

 その表情がひどく悲しげで、やっぱり何も言えなくなる。


「勿論、僕と妻はそのせいでミクが周囲から浮いてしまうのを心配した。だから、お祓いとか色々と連れて行って……あの子の霊感体質を直したんだ。でも」


 そこで一度、言葉を切る小野寺先生。

 その表情には、何故か後悔の色が宿っている。


「友達を失ったミクは、すっかり心を閉ざしてしまった。ミクにとっては、あの世界が全てだったんだ」


 友達を、失う。

 見えなくなる。


 もし私の前からある日、鈴原くん、愛歌ちゃん、詩織ちゃん、千雪さんが姿を消してしまったら。

 私はきっと、耐えられない。


 勝手に胸が苦しくなっていると、小野寺先生も苦しそうに言った。


「そんなミクを見ていると、夫婦仲まで険悪になってしまってね……今じゃこの有り様だよ」


 小野寺先生が、景色を眺める。

 私達の心情とは裏腹に、丘から見える景色は、今日もひどく美しくて。


「僕は……ただ、また家族三人で幸せに暮らしたいだけなんだけどな……」


 その言葉に、胸がまた苦しくなる。


 誰が正しいとか、間違っているとか、そういう問題じゃない。


 ミクちゃんは幽霊のお友達さんたちを愛していて、小野寺先生たちもミクちゃんを愛していて。


 たったそれだけなのに、どうしてこうなってしまったんだろう。


 こんなことを思ってしまうなんて、傲慢だし贅沢かもしれないけれど。

 私がミクちゃんにできることがあるなら何だってしたい。

 そう、思ってしまった。


「小枝は、ミクと……知り合いなのか?」


 ふと訊かれて、私は少し迷ってしまう。

 確かに少し話したりはするけれど、深い仲というわけではない。

 でも、放っておけない気持ちは確かにあって。


「……たまに、この丘で話すんです。ミクちゃんのこと……何だか放っておけなくて……」


「……そうか」


 小野寺先生は微笑を浮かべる。

 寂しそうに、悲しそうに。


「小枝。良かったらミクと……できるだけ話してやってくれないか。あの子の世界を狭めてしまったのは僕たちだけど、それでも……僕は、ミクの世界が広がることを望んでしまうんだ」


 私にできること。

 きっとそれは、多分些細なことだ。

 でも、一つでも何かできるとしたら、そのできることを精一杯やり遂げたい。


「……はい」


 こくりと頷く。


 ミクちゃんの世界を、心を開くなんて大役は、私には務まらないかもしれないけれど。

 手助けくらいはできたらいいな、と願いながら。

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