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貴方がいる終焉の先へ  作者: 天野綾
一章 勝利に導く世界は
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8話 コオはかわいいから

「あたしはジンだ。……多分もう分かっていると思うから言うが、四番家の血筋だ。だからジン・デュランタって名乗る方が正確かもなぁ」


 ジンと名乗った彼女は、何やら慌ただしく手を動かしながら、簡単に自己紹介をした。レカの予想通り、十王四番の血縁者らしい。


「私はレカ・ライトリヤー、未来の英雄よ。あ、倒れている彼はコオ・メルミアよ」


 常套句となった自己紹介をすると、ジンは何やらレカの言葉に引っかかったのか、小さくな声で、未来の英雄、と復唱していた。その正気を疑う瞳にレカは、嬉々として返答をした。


「そう!未来の英雄のレカ・ライトリヤーよ!褒め称えてくれて良いのよ?」


 つい反射的に、嬉々として、自信満々に宣言したレカに、ジンは「まさかな」と頭を振った。そして、ハッとしたように返答する。


「レカって言うのか。巻き込んで悪かったな、今すぐ元の場所に……えまってライトリヤー?え、聞き間違い?メルミアって聞こえた気もするんだが、き、気のせいだよな?」


 最初、ジンは英雄という単語に引っかかっていたようだったが、そこから意識を外した事により一旦は冷静になったが、英雄という言葉以外に意識を向けてからは、先程とは多少異なるが、目で見てハッキリ分かるほど動揺した。


「私はライトリヤーだし、コオはメルミアよ?」


「…………………まじで?……え……あたし死刑では……?」


 他国の王族二人を攫い、「人違いだった」と供述する犯人。冷静に考え、第三者の視点から考えると……


「控えめに言って死刑か、国を巻き込んだ戦争になってしまうんじゃないかしら」


「あははは、死刑か……戦争……」


 突然の死刑申告に、ジンはもはや笑うしかできない。目は全く笑っていないが。


 数秒間、乾いた笑いをした後、ジンは勢いよく額を地面につける——いわゆる土下座をした。


「申し訳ありませんでした!悪意はなかったんだ!今すぐ元の場所に転移するから……っは!いや今日分の使っちまった!えっと最短で何日だ……?……えっもしかしなくても詰みってやつ?」


「何を言っているのか分からないけれど、今すぐ帰らせてくれるなら大事にはしないわよ」


「——できない」


「は?」


 聞き間違いだろうか。レカの立ち上がれと言う指示に従いながら、ジンは申し訳なさげに口を開いた。


「能力なんだが……知ってるか知らんが、デュランタこと十王四番家は能力持ちが複数いる場合が多い家系なんだよ。で、あたしも能力持ちなんだが、一族の誰よりも能力が弱くてな……生物を送るとなると、ある程度時間を置かないと、能力を使えない。」


 言い淀んでいる様子からそれが嘘ではないと言う絶望がひしひしと伝わってきた。状況改善を求めるレカは、あまり良くない頭を酷使して、言葉を返した。


「一応聞くけれど、ある程度の時間ってどれくらいかしら?」


「……大体三日」


「なるほど。あんた死刑ね」


「あはは、死刑だな」


 レカとジンは顔を合わせて乾いた笑みを浮かべると、すぐにどうにもならない現実に頭を抱えた。


 レカも次期十王七番として、何度か四番家の鬼に出会った事がある。言われてみれば、物を転移される所は見た事があるが、人を転移させるのは見た事がない。


 ——自身や物の転移は簡単に出来るけれど、生物を転移されるのにはリスクがある能力なのかしら。


 何となく、四番家の能力については分かったが、だからと言ってどうにもならない。レカはコオの容態を軽く確認した後、決心したかのように口を開く。


「とりあえず、場所を移動しないかしら?家とかあるなら案内してくれないかしら」


「…………」


「ジン?」


「——っあ、な、なんだ?」


 顔面蒼白のジンはかなり参っているようだ。悪意がないとは言え、加害者の自覚を持ってほしい。仕方がないので、レカが先導する形で話を進めた。


「移動しない?って言ったのよ。出来れば光があると助かるんだけれど」


「あ、あぁ。分かった。こっちの方に師匠の城がある。着いてきて……いや待て。何でお前は大丈夫なんだ?」


「何が?」


 低い声色たが、純粋な疑問を尋ねるような口調でジンはレカ——主に手首や鎖骨の辺りをまじまじと見つめた。


「ここの空間、師匠の趣味というか影響で、許可されていないと幻覚や震えなどの症状が出るんだが……何でお前は大丈夫なんだ?」


 幻覚や震え——言われてみれば、ここでのコオの症状に酷似している。あれは、異質な場所に足を踏み入れたのが原因らしい。


「そんなの知らないわよ。私がライトリヤーなのが関係しているんじゃない?それより早く移動しましょ。症状が出なくても、暗闇に長時間いたくないわ。」


「ライトリヤー……いやでも……まあ今はいいか。話を長引かせて悪かったな。着いてきてくれ。」


 その後、ジンは先の見えない闇に向かって歩みを進めた。レカはコオの身体を腕に抱えて持ち上げ、足早にその後を追った。

 

 そのまま歩き出し、数分の時が過ぎた時、体に纏わりつくような暗闇が晴れてきた。すると、そこにはまるで物語に出てくるような壮大な——


「……城ってもしかして廃城なの?」


 迫力だけは完璧な廃城が目の前にあった。


「あー、メインホール?ちょっとだけ暴れて……ぶっ壊しただけだ。えへへ……」


「……なんと言ったらいいのか分からないわね。」


 とても「少し」とは言えないほど壊れた入口を見て、思わず顔が引き攣るのが分かった。


「……レカ?僕何して……うわ何これ世紀末?」


「世紀末は言い過ぎ……ってコオ!?無事なの!?怪我は?元気?」


 暗闇を抜けた事が良かったのか、コオの目が覚めた。パッと見だが、幻覚や震えの症状は無さそうに見える。


「な、なに?別にいつも通り……って、何か顔近くない?あれ、僕今どうなってるの?」


 自身がレカに抱えられている事に気がついたコオは、少し照れくさげに、レカの手から地面に降りる。


「ここどこ?というか何で僕抱えられて……っそうだ!転移したんだ。レカ、怪我はない?」


 いつもと変わりないコオの様子に安心したレカは、思わずコオを抱きしめる。


「うわちょレカ!えどうしたの!」


 コオがジタバタと暴れているが、そんな事に気づかないくらい胸が熱くて仕方がない。ただ素直に心配したと言うのも癪なので、責めるような口調で言う。


「コオの馬鹿!心配させるなんて……よかったわ、元気になってくれて。」


 後半、普通に心配してしまったが、本音なのでよしとする。そうやってコオを抱きしめていたら、ジンが少し気まずそうなニュアンスを孕みながら陽気に声をかけてきた。


「えーと、そろそろあんたの王子様が限界そう何だが……それにあたしもそろそろ気まずいから、続きは部屋でしてもらっていいか?」


「限界って……ってコオ!?どうしたの大丈夫!?」


 何故だか、顔を赤くしてコオは再び気絶していた。

コオは可愛いです。

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