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貴方がいる終焉の先へ  作者: 天野綾
一章 勝利に導く世界は
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6話 お気に入りの庭園

コオ視点です。

 十年前、コオはいつものようにお気に入りの庭園で過ごしていた。ここの庭園は、クレアと比較され続けて心が折れてしまっていたコオの、唯一の逃げ場だった。


 だからこの場所に人がいた時は驚いた。

 

 初めて出会った彼女は、形容し難いくらい美しかった。太陽の光に反射して、キラキラと輝く銀色の髪は神々しさを感じさせ、コオの瞳は釘付けになる。


「天使……」


 思わず溢れ出たコオの呟きに気付いたのだろう。その天使のような彼女は勢いよく振り返ると、コオと目を合わせた。


 何かを探るようにコオをマジマジと観察した後、彼女はゆっくりと口を開く。そして――堰を切らしたように、濁流ごとく泣き叫んだ。


 それは、狐人で聴力が優れているコオが、今まで経験したことがないほどの爆音に、思わずしゃがみ込んでしまうほどの声だった。


「やっと人がいたぁぁぁ!ここどこ!母様の所教えて!……え、どしたの?お腹痛い?どうしよ、人呼んで……どこなのここおおおお!!」


 彼女はその後も泣きながらまくしたて、第一印象の“天使”は一瞬で崩れ去った。

 

「とりあえず、黙って……大丈夫だから……」


 数分後、歩ける程度には体調が回復したコオは彼女と話をした。どうやら彼女の名前はレカ・ライトリヤーと言うらしく、意外なことに同じ年らしい。


 全知全能と噂のクレアに興味を持ち、無許可で散策していたところ、迷子になって数時間彷徨っていたらしい。


 最初こそは道案内してあげようと思っていたが、いつの間にか、レカを引き離すのが惜しくなり、コオの行動を躊躇わた。


 しかし、そんなコオに気づいているのかいないのか、レカは「私の次に可愛い花!」と笑って走り回る彼女に、コオはつい頬を緩めた。


 行きたいところがあったのではないかと尋ねると、レカは一瞬だけキョトンとし、そして思い出したかのように声を上げた。


「レカはね!いつか世界を救ったルカ・ライトリヤーみたいに英雄になるの!でね!英雄の生まれ変わりを倒して、すごいね!って言ってもらうんだ!」


 しかしその言葉を聞いた瞬間、コオは耳の痛みを忘れていた。英雄の生まれ変わり。それは姉の代名詞のはずだ。それを、姉を超える存在なんているはずがない。


 でも何故だか、落ち着きを忘れたようにどくどく脈打つ心臓が、コオに憧れという感情を主張して離さない。


 レカはクレアに会っていない。だからこんなに無謀な事を言えるんだと思いながらも、もしかしたらと何処かで姉が負ける姿をーー否、レカが不可能だと言われた事を叶える姿を想像してしまった。


 この日から約五年後、つまりレカ・ライトリヤーとメルミアの双子が十歳になった時、レカとクレアはようやく出会った。

 

 コオの予想通り、レカは負けた。

 だが、コオの予想とは異なり、レカは諦めなかった。


 野次馬に笑われ、クレアに弱いと断言され、自身のメイドの二人に「もうやめましょう」と言われてもレカは諦めなかった。

 諦めずーー何度も立ち上がった。

 

 この時から、コオはどうしようともないくらいレカ・ライトリヤーに胸が熱くなった。

 

 現在、二人は初めて出会った場所で雑談をしていた。


「……クレアの馬鹿」


 しかし、口をへの字に曲げたレカとの雑談はあまり盛り上がらなかった。


「姉さんが仕事で急にいなくなって不機嫌になるのは分かるけど、いつになったら機嫌を直すわけ?」


「別にクレアが急にいなくなったのが嫌なわけじゃないわ。クレアと過ごす時間が減ったのは、私が遅れたのが原因だし。……ただ、仕事を言い訳に急に居なくなるの、これで一三回目よ?流石に働きすぎじゃないかしら」


 確かにと思った。コオの目から見てもクレアの仕事量は異常だ。現実的で効率主義者でもあるクレアは、その実、人を頼ることが苦手だった。


「……私も手伝えたらいいのに……身分や国籍の問題がなければ今すぐにでも助けられるのに……」


 本気でクレアを心配しているレカが側にいることに居心地の悪さを覚え、思わず目を背けながら、言い訳のように口を開く。


「僕も出来るだけフォローはしてるんだけどね……」


 そう口では言うが、実際には何の役にもたっていない。


 そのため、これ以上何て言うべきかとコオが考えながら、レカの様子を伺おうとした時だった。軋むような不快な音が聞こえてきたのは。


「っレカ!」


「……え?」


 音の方に視線を向けると、空間の切れ目のように見える黒い何かが大きく開き、レカを飲み込んだ。


 状況もわからずに怯えるレカの瞳が見えた。


「ーーレカ!」


 迷ったのは一瞬、コオはレカの手を掴み、共に闇の中に消えていった。


 皮肉なことに、それはクレアが仕事を終え、嬉々としてゲートを潜った時だった。


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