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貴方がいる終焉の先へ  作者: 天野綾
一章 勝利に導く世界は
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18話 逃げて逃げて逃げた先で見た光

ジン視点です

「それで今後はどうするのかしら?」


 遅めの昼食を口に運びながらレカは尋ねてきた。


「思っていたより早く転移できそうだ……明日には二人を家に帰してやれる」


 眉を顰めたレカを見て、ジンは首を傾げた。家に帰れるのが嬉しくないんだろうか。そんな疑問に答えるように、レカは言葉を続けた。


「私たちのことじゃなくて、あんたについて聞きたいのだけれど……」


「――え……あ、あたしのことか?」


 レカは頷く。ジンは予想外の言葉に目を丸くしたが、すぐに冷静に戻る。

 レカは今回の件の被害者だ。ジンの処遇が気になるのも当然の話だ。ジンは重い口を開いた。


「言ってしまった以上、決戦の儀を終わらせる……ただ、その後のことはまだ分からねぇな」


「……決戦の儀、やっぱり出るの?」


 聞かれたくないところを深掘りされたが、ジンは平静を装って答える。


「あぁ、ヒアに言ってしまったしな。……いや、何つーか、今まで逃げられていたのが奇跡みたいな感じでさ。その時がきたなら仕方がないよな」

 

 己の中で覚悟した事を言っているのに、声が震えた。レカはそんなジンに無言で視線を送っていた。


 重苦しい空気を変えたのはレカだった。


「それ、ただ嫌々やってるだけじゃないの?」


「――いや、あたしは……ちゃんと自分で……」


 思わず言葉に詰まった。レカは不機嫌そうに追い打ちをかけた。


「なんていうのかしら、馬鹿らしいわよ。そんなものに人生を棒に振るなんて」


「……は?」


 気の抜けた声を出してしまった。彼女は今、ジンが悩んで出した決断を、馬鹿らしいと言ったのか?


 別に慰めろとか、協力しろとか言うつもりはなかった。それでも高圧的な態度が鼻についた。


「……正しいこと言ってるつもりか?お前に、あたしの何がわかるんだよ。それしか選択肢がないから仕方ないじゃねぇか!」


 言っているうちに語気が強くなる。行き場のない黒い感情が、レカを傷つけるため声を荒げさせた。

 

 ――しかし、レカはこんな言葉で傷つくほどやわな少女ではなかった。彼女はむしろ、声を張り上げた。

 

「向き合うって言うけど、結局楽な方を選んだだけでしょ?そんなの、ただの諦めじゃない!」


 あまりの剣幕にジンはたじろぐ。その反応を、レカは見逃さなかった。


「あんたは何がしたいの?」


 逃す事を許さない口調の問いだ。ジンは、反論しようとして――結局、口ごもった。


「……あんたの考えなんて、葛藤なんて知らない。だから、これは私の意見だけど……そんな弱気な態度でいることを、向き合うとは呼べないと思うわ。」


「――ッ!」


「でも、私を守ろうとしてくれたのは分かる」


 言っていることの意味がわからず、視線を送った。彼女は補足するように口を動かす。


「クレアが来た時のことよ。あの時、あんたが止めてくれなければ、私たちは灰になっていたわ。それに、私はクレアを本当に嫌いになっていた」


「……っそれは、」


 クレアをあの場から離すために、ジンは『――決戦の儀に参加する!だから、その女を連れて帰れ!今すぐだ!』と言った。

 

 レカの感謝を素直に受け取れない。だって、あの時ジンは怯えていただけ。クレアを帰して、平穏を過ごしたいという、欲に目が眩んだだけだ。

 

 ――ただの、弱さから選んだ選択だ。

 

「あんたがどう思っているかなんて、どうしてその行動をしたのかは知らない。でも、確かに言えることがある」


 責められるのかと怯え、耳を塞ごうとしたが、わずか一歩、レカの言葉の方が早かった。

 

「私を守ってくれてありがとう」


「……違う、あたしは勝手に決めつけただけだ……」

 

 感謝されても苦しい。だから、それなら罵倒されたほうがマシだった。


「私は、あんたみたいな優しい人に傷ついてほしくない」


「あたしは、優しくなんて……」


「優しいわよ。だって優しくなければ、あんたは保身のために、私たちをクレアに引き渡したでしょう?」


 見当違いだ。自分は逃げただけで……


「……私はあんたの気持ちなんてわからない。でも、あんたが何を思っていようと、私は助けられた。それが全てよ」


「なんで……あたしに逃げるな、なんて言うんだ……?」


 遮るために出た声は掠れていて、質問も的外れだった。


「……別に、特に理由はないわ。ただ、何となく。家族と争うなんて、考えたくもない最悪の事態でも、あんたに後悔してほしくない。そうね、敢えて言うなら……」


 レカは困ったように微笑んだ。


「……友達だって思っているから、かしら?」


「――――」


 その言葉を真正面から受け止めるには、ジンの心はまだ弱かった。でも、初めてだった。


 ――友達だなんて、言われたのは。


 胸が熱くなって、視界が歪んだ。それを受け、レカは少し慌てたように言葉を続けた。


「それにね、私は英雄になるって決めてるの。あんたを助けるくらい当然でしょ?」


 ジンに気を使わせないための言葉だとは分かっていた。


 それでも、自信満々に胸を張った姿に、緊張していた体が解れて頬が緩んだ。


 問題が解決したわけではない。それでも、張り詰めていた心は楽になった。


 笑みが溢れた拍子に、師匠の言葉を思い出した。


『君にも、本当の仲間がいずれ出来る。諦めないで』


 彼女は師匠とは違う。それでも、人を思いやるその姿が師匠に似ていると感じた。

 

「……声を上げないと何も始まらないよな」


 ジンの中で、あり得ないと思っていた覚悟が決まった。


 息を呑み、強引に袖で涙を拭う。

 そして一拍、息を吸い込んでから言った。


「お願いだ。あたしを……助けてくれ。……ヒアを殺したくないんだ」


 ジンの心臓が高鳴った。おこがましく、彼女の善意に甘えているのだ。怖くて、目も見れなかった。


「頼ってくれてありがとう。もちろん、私はあんたを助けるわ。私はあんたの友達だもの!」


 どうやら、友達というのは確定らしい。ジンは、喜びに涙を流した。

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