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貴方がいる終焉の先へ  作者: 天野綾
一章 勝利に導く世界は
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14話 足りない言葉

レカ視点です。

 図書館でジンに出会ったあと、二人はダイニングで他愛のない楽しい時間を過ごしていた。


 そんな時だった。突如、前方の空間が裂けた。

 黒い亀裂が、レカの驚きを置き去りにする。


「――レカさんから離れなさい」


「――クレア?」


 亀裂の先から、炎を身に纏うクレアが姿を現した。


 彼女はレカの前に立ち、炎の剣をジンに構える。


「――おい先に行くんじゃねぇよ。あぁ、確証はなかったけれど正解みたいじゃねぇか」


 クレアの後を追うように、ジンによく似た白髪の男が現れた。彼の瞳が、舐め回すようにレカを覗き込む。


「これが『レカさん』?クレアと同じ年って割には、幼女体型のガキじゃねーか。クレアの趣味悪くね?」


「な、な、幼女……いやまず誰よあんた!」


 目の前の無礼に、レカは声を張り上げた。だが、それ以上に声を出したジンによって、レカの声はかき消される。

 

「なん……ヒア?ま、待て!レカは関係ない!」


「あ、姉貴じゃねーか。誘拐とか度胸あったんだな!さすが俺の姉だな」


「ジンの弟!?どんな教育しているのよ!?」


「静かにしてください」


 全員が思わず息を呑んだ。炎の温度を上げ、ジンを激しく睨みながらクレアは言う。


「まずヒアは黙っていなさい」


「はぁなんで俺だけ?俺が連れてきてやったのによ」


「そうですね。ありがとうございます、黙ってください」


「……はいよ」


「ヒアが誰かの指示に従っただと……!?」


 驚いたジンに、クレアは殺意で返した。


 背後に庇われているのに、クレアの威圧感に背筋が凍る。


「レカさん。あの女がレカさんを誘拐したんですか?」


 肯定した瞬間、クレアはジンを焼死体にするだろうと本能的に感じた。レカは咄嗟に嘘をつく。


「ただの事故よ。私は元気だし心配いらないわ。でも、迎えに来てくれてありがとう。私――」


「そうですか。でも、レカさんが不快な思いをしたなら、あの女は死んで当然ですね」


 クレアはレカの声を遮った。違う……もともと聞くつもりはなかったのだ。何かを感じる前に言葉を失った。


「――待て」


 底冷えするような低い声。

 

 声の主はヒアだった。殺意のこもった瞳で、どこからか取り出した大剣を持ち、クレアの首元に突きつけている。


 仲間ではないのか、そんな疑問が頭をよぎった。

 予想していなかった展開に、ジンも息を呑む。


 だが彼の殺意にクレアは動じない。

 

「何でしょうか。今は貴方に用はありません」


「用はない?ふざっけんじゃねぇ!姉貴を殺そうとしてただろ!約束と違う!」


 家族愛、と言う言葉が脳裏をよぎる。ヒアは姉の事を思ってクレアに剣を向けているのだろうか。


「ヒア……」


 ジンが小さく呟く。横目で見た彼女の目は、期待するかの様に開かれていた。


 しかし、それはただの幻想だったと思い知る。


「姉貴は俺が殺さねーと意味がねぇんだよ!決戦の儀の邪魔すんな!」


「……なら、ジンは貴方が処分してください。殺してくれたら文句はないので」


 決戦の儀をレカは知らない。しかし聞こえてきた単語や、絶望に染まったジンの顔が悲痛を物語っていた。


「……なんで?」


 レカは会話に割り込んでいた。

 

「どうしましたかレカさん?」


 クレアは首を傾げる。あどけない仕草に身の毛がよだつ。


「なんで、ジンを殺すことになるの?罪を求めるとか、事情を聞くとか……まだできることはあるでしょ?それなのに……なんで」


「レカさん」


 クレアは周囲の炎を消し、両手でレカの肩を掴んだ。炎に触れていた手は、氷のように冷たかった。


「罪人にそんな慈悲はいりません。時間の無駄ですよ」


 クレアは微笑んでいた。笑っているのは口元だけで、彼女の瞳に光はない。


 気づけば、レカはクレアを突き放していた。

 三者の視線がレカを貫いた。それでも、悪いことをしたとは感じない。冷めた軽蔑だけが身に残った。

 

「……あんたとは帰らない」


「レカさん?」


「帰らないって言ったのよ!あんたと一緒にいたくない!私は何を言われてもここにいるから!」


 唖然としたクレアを睨んだ。ジンやヒアを忘れて、ただ吠える。


 ――それがジンのためなのか、クレアへの不信感なのかは、レカにも分からなかった。


「レカさん……?何で……」


 途切れ途切れの言葉が聞こえた。嘲る思いに口が動く。

 

「他人の死を望める人と話したくない……!」


「別に人が死ぬのなんて、珍しくもないじゃないですか……ねぇ、レカさん……どうして」


 クレアがふらふらと近づくたびに、レカは距離を取った。遂には、クレアは近づくのをやめた。代わりに口にした。


「……ジンのせいですか?」


 瞬間、周囲をすべて焼き払う熱が部屋を包んだ。ヒアが大剣をクレアに向けた。レカも無意識に、剣の鞘に手を当てた。

 

 だが、二人の剣がクレアに届くことはなかった。


 ――慌てたジンの声が部屋を響かせた。

 

「――決戦の儀に参加する!だから、その女を連れて帰れ!今すぐだ!」


 ヒアの目が見開かれた。彼の上がった口角とは対照的に、ジンは口に手を当てた。


 もう、遅かった。


「――分かった。四日後忘れるなよ。クレア帰るぞ。……聞けよ馬鹿!」


 "勝利に導け"という声と共に、クレアの元にヒアは転移した。クレアは、ハッとしたように炎を消した。


「――帰るぞ」


 部が悪いと思ったのか、クレアは素直に従った。

 ヒアは振り返る事なく、同じ宣言だけを唱えた。


 最後に「次は失敗しないようにしないと」と言う声だけ聞こえたが、それも一瞬で跡形もなく消え去った。


 ホッとしたのもつかの間、ジンが膝から崩れ落ちた。


「……決戦の儀に参加、四日後?あたし馬鹿じゃねぇのか?……あいつに勝てるわけないのに」


「……ねぇ、決戦の儀って何なの?」


 レカは今しかないと思い尋ねた。ジンは震えた声を返す。


「……家族での、殺し合いの儀式だ」

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