13話 唯一の友達
クレア視点です。
足元から火のような熱が伝わり、石畳が肌をじりじりと焼いた。
レカとコオの行方不明から数時間が経過した。この広い世界から一人を探すには時間がかかる。場合によってはさらにかかるかもしれない。
クレアはヒアの住む廃屋の前、石段に立って転移の準備が整うのを待っていた。何もできない事実が歯痒い。落ち着け、と言い聞かせても不安は拭えない。
四番の一族は交戦的だ。彼らは戦いのためなら、無関係な人でも容赦なく殺す。――もし、レカがその犠牲になっていたら?
不安がよぎるたびに爪を噛み、かろうじて冷静を取り繕う。
気を紛らわすためにも、今後について頭を働かせた。
まずは目先の問題から。
明日には、七番国との関係が外交問題に発展するだろう。
七番ユカ・ライトリヤー。感情的で、娘のレカを溺愛する女だ。彼女に行方不明を悟られるのは避けなくてはならない。
「……レカさん」
一人でいるせいか、思考は危うい方に歩を進める。
「何処にいるんですか……貴方がいないと私は……」
指先が白くなるまで手を握った。どうしようもない気持ちが胸に浮かび、自然と責任を押し付けられる相手を探していた。
「……そうだ、全部コオのせいです。コオがしっかりしていれば、レカさんは行方不明にならなかった」
それが正しいと確信して頷いた。
すべてはコオのせいなのだから、クレアが何かを思う必要はない。そう言い聞かせた。
けれど、胸の奥の何かが、それでも足りないと囁いている――。
「クレアいるか!?来い、大変だ!」
その時、血の気の引いた顔でヒアが走り込んできた。彼を見て正気に戻る。微笑みを作る余裕はなかった。
「あぁ転移の準備が出来たんですか?」
「転移の準備はできたんだが……場所がまずい」
ヒアの言葉がクレアの耳に届いた。
「レカは影の国にいる。早く連れ出さないと壊れるぞ!」
その名を聞かずとも、理解が身体を凍らせた。呪われた土地――二番国。
長期間滞在すれば、その土地に犯され、やがて「人でなくなる」場所だ。
その土地に足を運び、全身が歪んだ者を見たことがある。
ただの誘拐とは比べ物にならない。身の毛が逆立つほどの恐怖で歯が鳴った。
近づくこと自体が自殺行為だ。だが、レカはそこにいる。
胸の奥で何かが決まった。
クレアは息を吸い、目線を上げて言った。
「場所がどこであれ、することは変わりません。私をそこに連れて行ってください。――レカさんの敵は排除します」