表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

10/72

1章9 ヘレナの推測

 7日後――


シルバーの怪我の状態も良くなり、今では包帯もとれて歩けるほどにまで回復していた。



「はい、シルバー。食事の時間よ」


アンジェリカがシルバーの前に餌を置いた。餌と言っても、メニューは人の食べるものとさほど変わりは無い。

焼いたお肉に、野菜のソテー。そしてミルクにパン。これがシルバーの食事だ。


「ワン!」


シルバーは嬉しそうに吠えると、皿に顔をつけてムシャムシャと食べ始めた。

その様子をアンジェリカとヘレナ、そして専属メイドのニアがじっと見つめていた。


「フフフ、美味しい? シルバー」


尻尾を振りながら食事をしているシルバーにアンジェリカは笑顔で声をかける。


「それにしても、この子犬は不思議ですね。犬なのに、生肉は見向きもしないのですから」


ヘレナが首を傾げた。


実は初日に餌として新鮮な生肉を用意したのだが、シルバーはそっぽを向いて決して口にしようとはしなかったのだ。その代わり、アンジェリカの食事を欲しがった。

そこで、シルバーの食事は全てアンジェリカと同じ料理が用意されるようになったのだった。


「もしかすると、シルバーはどこか高貴な方に飼われていたのではないでしょうか? それで人と同じ食事を……あ! も、申し訳ございません!」


ニアは自分が失言したことに気付き、慌てて謝った。何故なら、アンジェリカの顔に寂しげな表情が浮かんでいたからだ。

「そう……なのかしら。シルバーは、やっぱり誰かに飼われていたのかしら……だとしたら飼い主が見つかれば……返さないと……」


「ニア、言動には気をつけなさい」


ヘレナはニアを窘める。


「はい……失言でした。本当に申し訳ございません」


ニアが謝ると、ヘレナはアンジェリカに話しかけた。


「アンジェリカ様。実はシルバーを保護した翌日に、迷い犬を預かっていると貼り紙を作って、町のあちこちに貼り出したのですよ。でも今の所飼い主だと名乗り出てくる人がおりません。なので、もしかするとシルバーは飼い犬では無かったのかもしれませんよ?」


チャールズは滅多に町に出ることはない。恐らく貼り紙を出しても気付くことは無いだろうと思い、新聞社に勤めている知り合いに頼んで迷い犬の貼り紙を作成して貰っていたのだった。


「え? それって……?」


「はい、シルバーはひょっとすると野良犬だったのかもしれません。それで餌につられて罠にひっかかってしまったのではないでしょうか?」


「なら、ずっと一緒にいられるかもしれないのね?」


アンジェリカは嬉しそうに笑う。


「ええ、そうですね」


「良かったね、シルバー」


アンジェリカは餌を食べているシルバーの頭をそっと撫でる。


「……」


その様子を見つめながら、ヘレナはあることを危惧していた。それは、シルバーが高貴な家柄の人物に飼われていたのではないかということだ。


実はシルバーが保護された場所で、宝石が埋め込まれたブレスレットが落ちていたのだ。発見したのはトムで、すぐにヘレナに預けてきたのである。


(あのブレスレットはかなりの値打ちの物だわ。もし、シルバーの物だとすれば……飼い主は必死になって行方を捜しているかもしれない)


飼い主が見つかる前にチャールズにシルバーの存在がバレてしまえば、何をされるか分かったものでは無い。


(アンジェリカ様には気の毒だけど……この屋敷でシルバーを飼うのは危険だわ……)


ヘレナは心の中で、飼い主が早く見つかることを祈るのだった――




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ