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-4-漁村人影

何度か、ティキのいう「漁村の人たち」が訪れた。来る時はいつも2、3人で、おそらくは同じ人たちだった。

一族なのか背格好は似通っていて、仙一郎には見分けがつかなかった。

ずんぐりとした恰幅の良い体躯、丸い頭、簡素な麻布のような素材の服。

服装と不釣り合いな印象を受ける色ついた眼鏡と帽子を被っていた。

皆その体格で猫背気味な姿勢せいかどこか陰鬱な印象を受ける。

(目や髪の色がわかるだけでも、民族が少しは分かりそうなものだが…)

肌の色は少し青白く、そこから推測するに、白人なのかも知れない。

(白夜、白人…だとすれば本当に北欧にでも流れ着いたというのか…日本から?そんなバカな)

(それにしても、言葉は少なくとも英語、仏語、独語ではない、いや欧州は割と言葉が似通っている部分があるが、ここの言葉は色々と異質だ。)

ティキが「センイチローはあの人たちから隠れてた方がいい、見つかるとよくないと思う」と言った為、仙一郎は彼らと直接会って話をしていないが、物陰から伺う限りはティキと同じ言葉、スレイ語を話していた。

しかしティキの透き通るような声と違い、くぐもった声で言葉に慣れていないせいもあって聞き取りづらかった。

(ティキとは違う民族かも知れないな。あらゆる雰囲気が違いすぎる)

そして不思議なことに彼らはいつの間にか訪れ、そして消えるように帰って行った。

ティキが仙一郎と鉢合わせ無いように、「来るよ、隠れてて」「帰ったよ、もう出てきていいよ」と教えてくれなければ仙一郎にとっては神出鬼没としか言いようのない不気味さがあった。

そもそも、仙一郎の見た限りでは船がつけれそうな場所はまさに仙一郎の乗っていた船が打ち上げられた場所しかなく、そこで忍んでみても彼らがそこから出入りしている様子もなかった。

(もしかすると地底トンネルのようなものがあって漁村と繋がっているというのか)

脱出方法としては、一度彼ら追う必要がある、と仙一郎は彼らが次来たときにを尾けることを決めた。


他に脱出手段として砕けた船を修理するのがいいかと仙一郎は思ったが、仙一郎が思い立ったときには既に残骸すらティキによって綺麗に片付けられて全く残っていなかった。

「だってあんなの残ってたら、あの人たちに怪しまれるもん」

とティキは言うが、手際が良すぎるだろう…と仙一郎は消沈した。


仙一郎はこれまでも何度かティキに自分以外に流れ着いた人や船などないか尋ねていた。

同乗していたはずの爺さんのことも気にかかっていたし、元々何艘もの漁船が行方不明になるという事件を調べていたのだから、他にもこの島に流れ着いている可能性があるかも知れない、と思ったからだ。

それらは嵐の記録はないとされていたが、仙一郎の乗っていた船にしたって不可思議な嵐に巻き込まれてここに来たのだから、衛星に観測しづらいものだったとかかも知れず、そうだったとすれば同じことが起こった可能性がある。

バミューダトライアングルのそれのように、神隠しとはそう言った…人の未だ知らない現象があるかも知れない、と仙一郎は思った。

しかしティキの返事はそっけないものだった。

「センイチローと同じような人、ティキは他に知らないよ」

仙一郎はなんの手掛かりもきっかけも掴めず、元刑事としての自信を失いかけたのだった。


仙一郎は何度かティキと海岸線沿いを歩いた。

砂浜の様なものもなく岩場が続いていた。海は拒絶するかの様に何処までも暗かった。

「ティキはね、泳ぐの得意なの。でもそんなティキでも危ないなって思う位だからセンイチローは入っちゃダメだよ?怖い魚だっているんだから!」

海辺には打ち上げられた船もなく壁に阻まれるかの様に隔絶されたモノを感じる。

あの漁村の人たち、とは何処から上陸しているのか。遠くを眺めても海の先に陸など見えない…地平線どころか陰鬱とした天候が視界を阻むためわからないだけかも知れないが。


先を歩いていたティキはくるっと身を翻し微笑む。

「泳ぎたかったらね、綺麗な泉があるよ!どこのお水より綺麗なの!ティキ、いつもそこからお水汲んで来てるんだー」

「そう言えばいつもあって当たり前に気づかなかったがあの瓶の水は私が休んでいる間に汲んで来てくれていたのか…それはすまなかった、次は私が運ぶとしよう」

「気にしないでーいつものことだから。一人の時からしてることだし」

「でも持ってもらうかはともかくとして今度一緒に泉行こうね!」

嬉しそうにするティキにセンイチローも少し楽しみに感じる。

「ああ。必ず」

綺麗な泉はきっと陰鬱としたこの島にあって癒されることだろう。

隣に美しく微笑むティキがいるならば尚更に。


数日後溜め置いた水瓶がなくなると二人は約束の泉に向かう事にした。

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