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-3-異神石碑

ティキの住む島に流れ着いた仙一郎は戻る方法どころかここがどこかもわからず、しばらくティキの世話になることになった。

流れ着いた島の様相は嵐のせいだったのか、禍々しくすら思えた雰囲気はなく、穏やかなものだった。

木々も豊かではないにしろまばらにあり、穏やかな景色を見せていた。

とりあえず戻ることよりもティキとの意思疎通を優先することにした。


基本的に家の中では日本語、家の外ではティキの言葉、スレイ語で話すようになった。

はじめは仙一郎を警戒していたティキだったが、紳士的な仙一郎に警戒をすることはなくなり、

いつしか仙一郎を下の名前で呼ぶようになっていた。


「センイチロー、もう目は大丈夫?」

「うむ、ようやっときちんとみえるようになった。すまないな、いつも苦労をかける」

仙一郎の言葉にティキは嬉しそうに微笑んだ。

「ん。それは言わないお約束だよ、センイチロー。てゆっか、センイチローは糸目だし、開いてるかよくわかんない。それに鉄板を貼り付けたような顔してるから申し訳ないの、とか、ほんとは大して思ってないの、とか、よくわかんない」

「鉄面皮とよく言われる、表情というものの作り方を知らんのだ。だが、ティキに感謝していることは本当だ。ありがたく思っている」

「そっか、うん、そっか。それなら、いい。…目、よかったね」

えへへ、とティキは微笑んで、仙一郎に掃除道具を持ってもらい、いつもの石碑に向かった。

ティキはどうにもあまり器用な質ではない、というよりぼんやりとした部類に入るらしく、

よく転ぶこともあって、自然とティキは手ぶらで荷物は全て仙一郎が持つようになった。

もちろん仙一郎が男であるのもあるがガタイが良く、そのため力も強いから、というのもあって。

「そういえばティキは以前、この石碑の世話をすることが仕事だと言っていたが、これはどのようなものか聞いていなかったな」

10mはあろうかという巨大な石碑を見上げて、仙一郎は尋ねた。

「あれ、そだっけ」

えへへ、とティキは頭をかいて、語り出した。

「これはね、父神ダグ様と女神ハイドラ様の石碑。ティケは神様に会ったことないけど、ここのお世話をするように言われてる」

「言われているとは、雇い主がおるのか?」

「ヤト=イヌシ?ううん、ダグ様とハイドラ様だよ。神様がここにいるのかは知らないけど、この二柱の神様はこの島から少し離れた漁村に住んでる人たちの信奉する海の神様だよ。ティキはその人たちに使役されてここで石碑のお世話をしてるの。」

(雇うではなく使役か…主従関係なのかも知れんな。ドレイのいた時代の様な言い回しだな、言葉を理解し切れておらんだけかもしれんが)

仙一郎は少し思案して、改めて石碑を見上げた。

高さ10m程もあるというのに、根元から天辺まで細く、遠目には石碑ではあるが間近で見ると捻れた珊瑚のような物でできている。

なぜか表面は少しぬめっていて、薄曇りから差し込んだ光で、てら、てら、と不可思議な色彩を放っていた。

前後上下左右隙のない程に全面、うねったような奇妙な文字が書かれていて、仙一郎にはまだ読めない文字ではあるが、何処となく背筋が寒くなるような印象を受ける。

仙一郎の知る文化ではないので判断しづらいが…その独特の色彩と奇妙な文字の組み合わせは見ようによっては綺麗ともいえるのかも知れないが、率直に言って…何処か言葉にできないおぞましさを感じる石碑だった。

「その神様とやらは、どういう存在なのだ?」

仙一郎は心のどこかで「知るな」という警告めいたものを感じたが、職業柄か聞かずにはいられなかった。

しかしティキの返答はあっさりとしていた。

「知らないー。ティキ、ずっと世話しなさいって言われてここにいるだけだから。ティキの神様てゆっか、漁村の人たちの神様だし」

「でもティキ、ここには他に誰もいないからこの石碑にいつも祈ったり、お話ししたりしてたの。ずっと一人だから黙ってると言葉忘れちゃいそうだし」

感情の分からない表情で、無垢な瞳で、ティキは石碑の方を見て、石碑の文字を見遣った。

「ここの文字、ティキにも読めない、知らない言葉」

くるっと回って仙一郎に向き直り、

「ただ…ここからはなんだか大きな力を感じるの。何かいる、て感じがする。ちゃんとお世話しないと」

と言って、仙一郎に微笑んだ。ティキからはその神たちに対しての畏れとともに親しみとも異なる寄り添う感情があった。


それから幾らかの日を二人で過ごした。

仙一郎はこの島を色々調べてみていた。まず、ここがどこか知るために星を眺めることにした。

星に詳しいほどではなかったが、ある程度位置や星座を掴めれば推測もできる。

しかしこの島は常に薄暗い雲がかかっていて、全天が見えることがない。

そして日が昇らないし、日が沈まない。星を見る、ということが出来ようもない。

(ふむ、これは白夜なのかもしれん。北極圏や南極圏に近い地域では夏至の辺りに常に太陽が沈まないというが…)

(だが日本近海で遭難してそんな海域まで流されることなどありうるのか?台風に拐われようとも距離があり過ぎるような)

それにしても、日が沈まない為に正確な日が数えられないのであれから何日、というのが分からない。

(私の体内時計が割と正確だと前提に立てば、既に少なく見積もって一月以上…もしかすると数ヶ月は経っているかも知れないが、断言もできん。せめて月が見えれば…)

低く垂れ込めた雲は太陽も、月も、星々も、ぼんやりと雲を照らしはしても、その姿を見ることを許さないかもようだった。

「ここの神様は日の光が嫌いなのかもね、ティキも滅多に見ないし」

と太陽を眺めようとする仙一郎を見てティキは呟いた。

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