最初から
それから、私達は付き合いはじめました。何度かデートに行って、思っていたよりもずっと優しく、良い人だったので、付き合う事にしました。
もしかしたら、この文章を読んでいらっしゃる方は、私をとんでもない尻軽女だと思うかもしれません。ただ、私は夫に対して、最初から、ある種の雰囲気を感じ取っていたのだと思います。それは何と言えばいいかわかりませんが、ある誠実な、真面目な、あるいはどんなにふざけていても、その底は覚めているというような…うまく言えませんが、そうしたある感触が、私にとってそれほど嫌なものではなかった、というのは彼と出会った当初から私の中にあった感覚です。私はいってみれば自分のその感覚を信じて、彼と付き合いだしたのですが、これはなかなか、人には伝わりづらいものかもしれません。
とにかく、私は夫と付き合いはじめました。一年後に私達は結婚するのですが、結婚したあとに、夫に気になった事を質問してみました。付き合うにしても、どうしてあんな変な、ぶっきらぼうな、唐突な言い方をしたのか、と。夫はへらへらと笑ってまともに答えようとしませんでした。それで、私は次のように聞いてみました。
「私の事、もしかして最初から好きだったの?」
「うん、まあ…そうだよ」
夫はそう言いました。夫は大の照れ屋ですので、それ以上は言いませんでした。それでも、その時の私は十分嬉しかったと、ここではそっと書いておく事にしておきましょう。あのぶっきらぼうな呼びかけは、実は深い感情から来たものだと、夫の私に対する態度はそういうものだと、私は思い込んでいたいのです。