出会い
夫と私が出会ったのは私が二十八才の時でした。夫は二つ年上ですから、三十才だったと思います。
私達はごく普通の職場で出会いました。私が先に事務で働いていました。夫はドライバーとして後から入ってきました。夫ははじめはアルバイトでしたが、後に正社員になりました。といっても、その職場は社員も社会保険に入れるのを渋るような吝嗇な会社だったので、正社員になったからといって、大した違いはありませんでした。私はと言えば、やめるまでパートタイムで働いていました。
夫が職場に入ってきた時、みんなの前で自己紹介をしました。その時、私は(随分おとなしそうな人だな。こんなのでドライバー務まるのかな)と心配になったのを覚えています。ドライバーの仕事は、運転だけでなく、荷物の上げ下げもあって、荒っぽい人が多かった印象があります。その中でも、夫は随分とおとなしそうで、どこかぼんやりした感じでした。
しかしその印象は、間違っていたと私は後から知る事になりました。夫は意外にも、他の職員と明るく話すようになりました。最初の二週間ばかりは、新人の為か、神妙な感じでしたが、すぐに打ち解けて、仕事にも慣れていったようでした。夫は、他のドライバーともすぐに冗談を言い合うような関係になりました。それは私には意外でした。
最初に私は夫とどんな事を話したでしょう? あまりよく覚えていませんが、たしか、私が手首に絆創膏を貼っていた件だと思います。「それ、どうしたんですか?」 随分と気軽な感じでした。私は「ちょっと怪我してしまって」と当たり前の事を言いました。
「怪我をしたから絆創膏貼ってるんですか?」
「そうです。怪我をしたから絆創膏を貼っています」
私が答えると、夫は急に笑い出し、「ハハハ、面白い人だ」と言って、どこかに行ってしまいました。私は(変な人)と思いました。その時には、彼に好感を持つなんて少しも考えられませんでした。