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11'back  作者: ヒグマ
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第2幕一章

第1幕からの続きになります。まだ読まれていない方は第1幕から読み始めることを推奨します。

12月16日、夜の渋谷はクリスマス直前や年末ということもあってか、いつもに増して人通りが多く、店にはイルミネーションや赤を基調とした綺麗な装飾が施されていた。そんな街の浮かれた雰囲気に似合わず、血相を変えて走る男がいた。


男は人混みをかき分け、何かから逃げるようにしていた。そして男は、人目の多い繁華街を全速力で駆け抜け、誰も来ないような裏路地へと、息荒く転がり込んだ。


「ハア...くそっ!!」


男は来た道を振り返り、何かを確認した


「誰だよあいつ、、なんで俺を狙うんだよ、俺は関係ないんだって」


その時、後ろから声がした。



「おい」


「え?」


振り返ろうとすると足に激痛が走った。思わず、声にならないような声が出る。何が起きたのか確認しようと振り返れば、警棒を持ちフードを被った男が立っていた。


「お前、何が目...」


質問をする前に、あごを殴られた。あと少し、力が強いか、当たりどころが悪ければ、間違いなく意識が飛んでいた。


「お前、関東電力の社員、山之内英やまのうち すぐるだな。」


「え?」


あまりに唐突な質問だった。一瞬困惑すると、フードの男に踵で顔面を蹴りあげられ、背後のコンクリート塀に後頭部が勢いよくぶつかる。


「質問されたことだけに答えろ。」


フードの男の声は冷たかった。


「そう!、そうだよ!」


「そしたら次の質問だ、2年前の11月2日、練馬区マンションの停電事故、あれに関わったな。」


「なんで、それを...」


フードの男の質問は、一般人がするはずのない質問だった。山之内の混乱はさらに加速した。しかし、混乱を口に出したのが間違いだった。次の一撃がくる。


気づくと、フードの男の拳は眼前にあり、山之内の右目に強烈な一撃が入る。あまりの衝撃に山之内の身体は耐えきれなかったのか、右目が破裂する。


「うわあああああああ!!!」


山之内の悲痛な叫びがこだまする。


「2度は言わないぞ。早く答えろ、次は左目を潰す。」


男の言葉に感情はない。だが、この男が本気であることは分かる。


「そうです、、私は関わりました。」


「誰から言われた?」


「分からない...、ある日帰ったらメールが来てて、そこに俺の口座番号、家族構成に戸籍情報、それだけじゃない、娘の通っている学校、交友関係、妻の買い物履歴、家の中の写真まで添付されてて、本文には、「ある場所を停電させるのに他言無用で協力しろ。でなければ、お前を殺して、お前の家族の情報をばら撒く。」「成功させたら報酬として1億をやる。」って来てて、俺、もう分からなくなってよ...警察に通報しようにも、それだけの情報を抜き取るやつだ。携帯を盗聴しててもおかしくない。だから、やっちまったんだよ!悪かったと思ってるよ、でもどうすりゃ良かったんだよ..」


山之内は全てを吐き出すと、力尽きたように、泣きながら自身の罪を思った。


「送られてきたメールは?」


「気づいたら消えてたよ...終わったら通報しようと思って画像にも残してたんだけど、それも無くなっちまってた。」


「報酬は?使ったのか?」


「使ってねえし、知らねえよ。コインロッカーの中にあるってメールがきてたが、取りに行ってねえ。」


「場所は?」


「新宿駅の中にある。ほら。」


山之内は財布から何かを取り出すと、フードの男に渡した。それはメモで、番号ととある場所が書かれていた。


「コインロッカーを開ける番号と、その場所だ。自分のやっちまったこと忘れないよう、ずっと持ってたんだ。」


フードの男はメモをポケットに入れると、フードの男は山之内に尋ねた。


「他に気づいたことはあるか?」


「いや、ないよ」


「そうか」


二人の間に沈黙が流れた。それは重く不気味な沈黙だった。山之内は紛らわすかのように、恐る恐るフードの男に向かって口を開いた。


「まだ何か聞きたいことがあるのか」


「いや、ない」


「じゃあ、俺に他に何を...」


言いかけて、山之内は先ほどの沈黙の不気味さや重さの正体に気がついた。


「おい、やめてくれ、話すことは話しただろ」


フードの男は山之内へと躙り寄る


「そうだ!あの事件があった日、俺も現場に行ったんだよ!そしたらフード被った二人が平和台駅近くのマンホールに入っていくのを見たんだ!でも、目を離した先に二人ともいなくなってて、マンホールも閉まってたから見間違いだと思ったんだ。でも、もしかしたらさ...!」


フードの男は警棒を構える。山之内は立つこともできずに、後ずさる。


「おい...やめてくれよ、じゃあどうすりゃ良かったんだよ!」


泣き叫ぶように山之内は言った。


「娘が殺されてたかもしれないんだぞ!」


フードの男は山之内の目の前で止まった。


「じゃあ俺の息子は死んでも良かったのか」


「は?」


山之内がそう口にしたときにはフードの男は警棒を振り下ろしていた。






何度も何度も顔を殴っているうち、フードが脱げていることに辻が気づいたのは、自身すらも血塗れになるほどに、山之内の顔を潰した後だった。山之内の顔は判別がつかないほど潰されており、割れ目となった箇所から赤い血に混じって白い骨が突き出している。辻は再びフードを被り直すと夜の街へと消えていった。

路地裏には、流れた血肉が寒い空気の中に白い湯気を淡く立ち上らせていた。


読んでいただきありがとうございました。

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