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11'back  作者: ヒグマ
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第1幕

初めての連載小説を載せます。楽しんでいただければ幸いです。

11'back


第1幕


目に入れても痛くないもの。それが私の息子だ。


25時を過ぎた部屋の、机の上に置かれた下手くそなペイントがされたスニーカーを見つめながら、辻一つじ はじめはそのことを改めて実感していた。


辻に息子が出来たのは、10年前の事だった。辻は幼い頃、安藤良という男と友達になった。彼は稀な人間で、当時、家族や教員ですら毛嫌いするほどの問題生徒であった辻を恐れなかった。私の行動や言動を見ても、いつもケラケラとふざけたように笑っていた、変なやつだった。


彼以外、私に近づく者はその先もおらず、辻にとって唯一の友人だった。しかし、良が20歳になった時、彼は通っていた大学の屋上から飛び降りた。はっきりとした理由は誰にも分からず、誕生日を迎えたその日の夜に遺書も残さず亡くなった。


良は当時、付き合っていた彼女との間に子供がいたが、彼女も彼との子供を産むと、後を追うように自宅でビニールを被って死んだ。良の父親は彼が生まれる前に亡くなっており、母親は彼が高校生の時に忽然と姿を消した。そのため、彼の後には、彼が唯一の友達だった辻と、彼の子供であるれいが残されたのだった。


辻は当時、大学生だったが、子供の話を聞いて、彼の子供を引き取り、大学を辞めて働くことにした。使命感や良心からというよりは、唯一自分を認めてくれた彼の子供のこと見捨てれば、自分の存在が無くなってしまうような気がしたからだった。


やっとの思いで、辻を大学に入れた家族は、この決定に対して、当然鬼のように怒りながら反対した。


「友を思う気持ちも分かるが、人の前に自分のことも心配しろ」


「自分を省みてよ。その子にあなたが何をできるの。」


「調子に乗んな。家族のことも考えろ。」


などなど、さまざまな言葉で。もちろん彼らのいうことも間違っていないと分かっていた。だが、両親が発する千の言葉も、良が長年に渡って辻の存在を認めてくれたという事実には敵わなかった。結局、家族からの許しはえることはできず、勘当という形に終わった。


そこからは子育てをしながら、働くことにした。金銭的な面でも、体力的な面でも、子育ての両立と仕事の両立は想像していたよりもはるかに難しかったが、仕事を選ばなければ不可能ではなかった。そのため、仕事のせいで最初は何度か危ない目にも遭うこともあった。しかし、零の成長に伴い、子供とは親を、育てる大人が必要な生き物なのだと実感し始めていた。最初は私がこの子を必要としていたのに、今はこの子も私を必要としているのだとわかったのだ。やはり零は良の子供だ。こんな人間ですら必要としてくれる。それを理解してからは、仕事を選ぶのも、そのやり方にも慎重になり、そのおかげもあってか仕事も軌道に乗って収入もかなり安定し、子育てにも力が注げるようになった。


気づけば、10年という月日が過ぎて、零も小学校4年生になり、辻も三十路に入っていた。その頃には、辻は父親の友人から父親に、零は友人の息子から息子になっていた。


成長をした零は、良によく似ていた。見た目も勿論だが、何より心が彼に似ていた。どんな人間や動物も、零は笑顔で受け入れた。しかし、それ故にどこか不安でもあった。父親と同じように、心のどこかに闇を溜め込んでいないか、零の笑顔を見るたびに不安はましていった。


ある日の深夜。仕事が片付き、去年引っ越してきた東京都の郊外にあるマンションの部屋に帰った。


ドアを開くと暗い廊下の先、珍しくリビングの電気がついていた。この時間なら、零は寝ているはずだ。


辻は仕事だけでなく、私生活においても慎重さを心得ていた。日常に現れた小さな異常、そうしたことに細心の注意を、そして最悪を想定して常に動いた。


カーゴパンツからタクティカルペンを取り出すと、腰を低く構えた。そしてゆっくりと、静かにリビングへと繋がる廊下を進んでいく。リビングの手前まできたところで、息を殺し、気配を悟られないよう、慎重に中を覗き込んだ。


そこには、いつも自室で寝ているはずの零がリビングのソファで眠っていた。その姿を見るに、夜更かしをしていて眠ってしまったことが分かる。


零が確認出来ると、辻はため息を少しだけ吐いて、心の中で胸を撫で下ろした。

起こさないように近づいて、ただ寝ているだけらしいのが分かると、念の為、すべての部屋を周り、異常がないことを確認した。


リビングに戻ってくると、零の前に置いてある段ボールの箱が目に入った。手作りの装飾なのだろう、ビーズやリボンなんかが貼られている。そして、箱の蓋には「ハッピーバースデー!!」と赤くデカデカと書かれていた。


友達にでも送るつもりなのだろうかと、中身を確認すると中には手紙とスニーカーが入っていた。スニーカーはペイントがされており、おそらく零が自身でやったのだろう、グロテスクと現代アートの中間といった黒を基調として見たことのない色のペイントがされている。


零と良で決定的に違うのは手先の器用さだ。良はふざけているように見えて、手先がとても器用で、芸術コンクールや家庭科の作品が高い評価を受けていたのを覚えている。しかし、零はその逆で頑張りこそ評価したいが、人並外れた不器用で、ある時は自作のぬいぐるみ(本人は熊と言っていたが、耳の生えた蓮コラにしか見えなかった)を友達にあげて、友達を失神させていた。


今度の作品は友達に評価されるか楽しみだと思いながら、今度は手紙を手に取った。中には短い文章が書かれていた。


ーお父さんがお父さんでよかった。ー


読み終えて、やっとこれらは自身に当てられたものであることが分かった。そういえば、今日は自身の誕生日だった。最後に祝われたのはあまりにも昔のことでもう思い出せない。

化け物のような私を受けれていた良、そして同じく受け入れ私を父親にした零、この親子の優しさが、この親子の善良さが、彼ら自身を殺してしまうのなら、私はどんな化け物になってでも、それを防ぎたい。一度は失敗した。だからこの子だけは、生きててほしい。


スニーカーと手紙を箱の中にそっと戻すと、起こさないように零を優しく抱きかかえて、ベッドへと運んだ。寝巻きでないところを見ると、ずっと起きておくつもりだったのだろう。


枕元、窓から差し込む月明かりが安らかに眠る零の寝顔を照らしている。どんなに成長しても、この寝顔だけは変わらない。零は大人になっても、この寝顔を見せてくれるだろうか。そんなことを考えながら、


おやすみ、祝ってくれてありがとう、愛してるよ。


と心の中で伝え、額にキスをして部屋を後にした。


リビングに戻ると、テレビをつけ、小腹を満たすため夜食を準備した。テレビからは今週あったニュースを淡々とあげつらっていて、夜食の準備をしながら流し聞きする。


ー一週間前、解散した内閣について、、、

ー××国と〇〇国の緊張感が高まり、貿易規制がー

ー人気芸能人▲▲さんが電撃結婚を発表ー


変わり映えのないニュースがどこからともなく流れてくる。どれだけの時間が流れてもニュースで報道されることは同じことだ。政治家に芸能人の結婚や不祥事、どこかの企業や一般人の犯罪、政治、スポーツ、etc...。


辻は手早く用意した夜食とワインを持って、ソファへと移動した。そして、今しも夜食に手をつけようとした時、テレビから通知音が流れた。


ー速報です。現在練馬区周辺ででででー


ニュースキャスターが何かを言いかけて、映像が乱れ始めた。辻はテレビのリモコンをとり、チャンネルを他の局へと変えた。しかし、どこの局も映像が乱れており、まともに見れるものは一局もない。


何かがおかしい。


そう辻が思ったその時だった。明るかった部屋が暗転し、瞬間暗闇に包まれた。


停電したのか...?


辻は、窓へと近づきカーテンを開くと、夜の街を見下ろした。夜の街は、暗いとはいえ停電しているようには見えず、街明かりが確認できる。


辻はリビングへと戻ると、スマートフォンで停電に関する情報を集めようとした。しかし、まるで調べることができない。電波を確認すると、WiFiからデータ通信に至るまで、何もかもの電波が使えなくなっていた。


辻は暗闇の中、状況を整理した。


まず、電気が通っていない。しかし、他の周辺施設には電気が通っている。結論、局所的に電力供給が遮断されている。そして、電波の遮断、最初はテレビ電波だけかと思ったが、データ通信も遮断されている。結論、外に連絡を取ることや、外の情報を得ることは難しい。そして、これが意図的か、つまり誰かが意図したものなのであるかについて。今はまだ結論を出すことはできない。電力会社や通信会社、マンションの不備である可能性も捨てきれないからだ。では、今できることは。最悪に備えて最大限の準備を行い、零を守る。


辻は考えをまとめると、フラッシュライトや緊急用バックバックなどを取り出し、最悪に備え始めた。


全てをリビングにまとめている時後ろから、幼い声がした。


「お父さん、何してるの?」


振り返ると、寝起きの目を擦る零が、そこに立っていた。


「マンションで停電が起きたらしい。念の為の用意をしてるんだよ。」


「またー?」


零は床で準備していた辻に近づくと、しゃがみ込んで、辻の顔を両手で包み込んだ


「お父さん、大丈夫だよ。」


零は辻の目を真っ直ぐに見つめて言った。


「いつも心配しすぎ。世界は危険で溢れてるわけじゃないんだよ。」


零はそう言うと、呆れたような悪戯っぽい笑みを浮かべた。


零の言うことはある意味で真実だ。最近、零の身を案じすぎて、零の可能性を奪ってしまっていないか、辻は悩んでいた。彼女は親友の息子であり、辻の息子でもある、この子だけは失いたくない。その気持ちは、どんな時にも忘れたことはない。しかし、人間というのは成長するにつれて、危険ともある程度折り合いをつけて行かなければならない。そこに辻がいたのでは、零の成長を邪魔してしまうのではないかと考えてもいた。2つの気持ちに悩まされながらも、最後は結局、零のことを守ることを優先させてしまうのだった。


「お父さーん、聞いてるー?」


零が顔を覗き込んでくる。辻は苦虫をすり潰すような顔をした後、ゆっくりと言葉を発した。


「確かにそうかもしれない...。」


零が目を丸くした。


「嘘...今のお父さんのセリフ...?」


「うるさい。」


零は辻が嫌がりながらも、言葉を捻り出したのだと見ると、何やらにやにやとした笑みを浮かべた。


「やっとお父さんも子離れできたか、これからは更なる成長が楽しみですね。」


「調子づくなよ。」


辻と零はリビングに出してきた装備を手に取ると、照明となるライト以外をもとあった場所へと戻した。その間も零は笑みを浮かべていて、たまに押し殺すような声で笑っていた。そして、辻はそのことに気づきながらも、無視して片付けを続けた。


ガン...!


部屋の中で、何かが落ちる音が聞こえた。その時辻は、零が片付ける過程で何かを落としたのだと思った。様子を観に行こうとして、廊下にでたその時だった。


「ゼッコウ」


背後から男の低い声が聞こえた。瞬間、体の力が全て抜け、糸が切れた人形みたく、床に全身から崩れ落ちた。


「...!」


叫ぼうとするが、声が出ない。体の全てに力が入らない。唯一動かせるのは視線だけだ。零は、零はどこだ。視線で廊下の先を探る。しかし、その前に男が立ち、辻を見下ろす。


「おや!こいつ意識を保ってる。それ絶意識の呪文だよ?面白い男だね。」


声から、今喋っているのが先ほどの奇妙な言葉を発した男だと分かった。暗すぎて、顔はおろか、特徴すら掴めない。

何が目的だ。どこの組織だ。零に触れるな。辻は唯一動かせる視線に殺意を込めて、相手を睨んだ。そのとき、廊下の奥で別人の声がした。


「...カイキ」


廊下の奥は零がいたはずの場所だ。そして、ドサリと何かが床に落ちる音がする。


零、零、零


辻の頭の中は混乱状態だった。見知らぬ人間たちに、瞬間的に制圧され、守らなくてはならない人に危険が迫っている。何が目的で狙ってきた。どうして体が動かない。敵の数は。敵の武器は。どうやって入ってきた。零をどうするつもりだ。疑問と疑問が頭の中でぶつかり合い、混乱をさらに加速させる。しかし、考えや理性よりも言葉にならない、感情が全てを先行して、腹の底から湧き出し始めた。


何もできていない自分。零に危害を加えようとする人間たち。壊された幸せな日常。


それらの事実が辻を怒らせた。自分、相手、環境、運命、神。この状況に陥らせた原因、全てが憎い。


憎しみが全身に熱を持って行き渡る。


「ゥゥゥンンン...」


唸り声を上げる辻に、影の男が近づく


「嘘だろ...動く気かよ!」


まるで喜ぶように叫ぶと、子供みたいに跳ね始める。


「…」


辻が何かを呟く。


「何て?何て?」


男が辻に顔を近づけた時だった。辻は男が最も近づくまで待って、首の筋力だけで上半身を勢いよく上げ、男の首に噛み付いた。


「な。」


首筋に歯を立てたのと同時に、顎にできる限りの力を込めて、首の肉を噛みちぎった。口の中に血と混じって、コリコリとしたものが入っている。どうやら喉仏を噛みちぎったらしい。


男は後退りすると、体のバランスを失って壁に衝突するように倒れた。


まずは一人...


辻は起きあがろうとするが、やはり首より上はなんとか動かせても、首から下はまるで麻痺したみたく感覚がない。


進めれば...進めれば...


辻は首と顎を床につけ、動かすことで芋虫のように体を前に進めた。少し、また少し、徐々にドアへと近づいていく。しかし、体がうまく動かせない辻には1メートルもないような距離にある廊下が100キロ先にあるようにも思えるほどだった。しかし、焦る気持ちとアドレナリンを糧に少し、また少しと辻を前へと進ませた。


そして、あと数センチまで来たところだった。辻の前にはいつの間にか、二足の黒いブーツが現れていた。


くそ...


ブーツの人間は、うつ伏せになっている辻の右肩を足で上げると、仰向けにした。


「常人なら、あれを食らって意識は保てない。なのにお前は意識を保ったどころか、体を動かして、あいつの喉に噛み付いた。大したものだよ。」


男の声だった。仰向けにされた辻は男の顔を見ようとしたが、フードを被っているせいでよく見えない。しかし、暗闇の中で見たことのないような文字で書かれた刺青が彫られた腕がよく見えた。その腕には血が滴っていたのだ。


辻の頭に、零がよぎった。零の笑顔。幸せな日常。


「ぶっ殺す...ぶっ殺す...!」


舌すらまともに動かせず、獣の鳴き声のようになった言葉を発した。


ブーツの男は何も返事をしなかった。辻から視線を外し、辻に殺された男を見ると、手を前に出した。


「ラセンテンカ」


ブーツの男がそう呟くと、辻の口の中で刺すような痛みがする。


なんだこれは?


思わず開いた辻の口の中から血が吹き出した。しかし、その血は物理法則に従わず、先ほど殺した男の元へと流れていく。


何が起きてる


首と目をそちらに向けると先ほど殺した男の首に、血が吸い込まれていた。それは辻が吐き出した血だけではなく、壁や床に付着した血痕までもが、蒸発するように壁から殺した男の元へと流れていく。


そして、流れていく血がなくなり始めると、辻が殺した男の体がビクっと痙攣した。そして、ゆっくりと目を開いた。


馬鹿な、生き返った...?


喉を噛み千切られた人間が蘇るということはありえない。なのにどうして。


辻に殺されたはずの男はゆっくりと立ち上がると、辻に体を向けた。


そして、走り込むと辻の顔に向けて足を振り上げた


「お返しだ!」


頭に衝撃と痛みが走り、瞬間意識が飛んだ。






「お父さん?お父さん?」


ソファで眠っていた辻を零が優しく揺り起こした。見ると、目の前には食べかけの誕生日ケーキやピザが置いてある。食べすぎて、眠ってしまったらしい。


「すまん、食べすぎた」


「いいよ、疲れてるんでしょ。」


零はそう言うと、辻の隣に座った。


疲れていたのだろうか。それとも暖かい部屋、優しい息子がいることに安心でもしてしまったのだろうか。辻にはどちらでもよかったが、後者であろうということはどこかで分かっていた。


「ね、お父さん」


「何だ」


「図工の成績、また1だった。」


辻の誕生日に打ち明けられた零の告白に辻は笑った。


「あ、酷いなー、僕はちゃんとやってるのに、図工の先生がふざけてるっていうんだもの。」


「大丈夫さ。それがお前の魅力だって、お前にも、みんなにもいつか分かる時が来る。」


零が辻の言葉に満足したのか、機嫌良さそうにソファに沈み込んだ。


「ね、お父さん」


「今度は、どうした?」


「お父さんがお父さんで良かった」


「え?」


辻の目から涙が流れた。何故かその言葉が悲しかったからだ。いや何故かではなかった。辻には、その理由が分かっていた。しかし、この夢にもう少し、もう少しだけまどろんでいたかった。






辻は、血溜まりの中で目を覚ました。朝になったようで、昨夜までの部屋に広がっていた暗闇は、早朝の青白い光へと変わっていた。そのおかげか、自身から流れ出たのであろう血が床に広がっているのが、よく見えた。


体を起こそうとして、体に力を入れる。どうやら動かせるようだ。しかし、身体中の痛み、特に蹴られた頭部が外傷と頭痛で割れそうなほど痛い。何とか膝で立ち上がるが、痛みが意識を遠のかせる。それでも、立ち上がり、壁にぶつかるようにして廊下へと出た。


「零...」


蚊の鳴くような声で呼んでみるが、廊下に零の姿はない。


零の部屋...零の部屋に...


確認するが、そこにも零の姿はない。全ての部屋を確認するが、どこにも零の姿はない。全身の血という血が無くなったように、体に力が入らなくなった。


「零...」


辻はリビングで一人膝から崩れ落ちた。まただ、また失ってしまった。今度こそは守ると決めたのに。俺はまた守れなかった。あまりの絶望に涙すら出なかった。もう何も考えられない。


そう思った時だった。クローゼットの扉から靴紐が飛び出しているのが、目に入った。


思わず辻は息を呑んだ。


あの中に隠れてる!


希望に縋り付くように、クローゼットへと向かい。扉を開けた。クローゼットの中には、衣服が入っているが、その中央、衣服に挟まれるように押し込まれた零がいた。辻は零を見つけ安堵した。だが何か違和感を感じた。その違和感を考えた時だった。扉を開けた衝撃で辻の前へと零が倒れ出たのだ。


辻は受け止めようとした。そして、零に触れた時、その違和感の正体を知った。零に触れたところが、まるで雪のように溶けて消えたのだ。そして、受け止められなかった、零の体は辻の体へとぶつかっていく。触れていく場所が増えていくたび、砂山が崩れていくように零の体がサラサラと消えていった。


気づけば、辻は空を抱きしめていた。辻は抱きしめた腕を開くと、状況を理解できずに、受け止めようとした手を、ただただ見つめていた。零の体が崩れて消えた時、辻の何かもまた、崩れて消えた。


気に入っていただけたなら幸いです。

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