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追放された蘇生術師の、死なない異世界放浪記  作者: ココアの丘
第1章 王都追放篇
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へたをすると死んじゃうかも

  昨日は間違って、2回投稿してしまいました。まあ、いいか……。


 勇者の模擬戦が終わって、人だかりは徐々に減っていった。ぼくたちもジルベールに促されて、さっきいた場所に戻っていく。

 その帰りしなに、黒木が言った。

「やっぱ、勇者ってすげえなあ。さっきのあれ、『縮地』っていうのか。あんなのやってみてえよな」

 そして、上体を動かさずに、足だけを小刻みに動かして走る格好をした。もちろん、それでスキルが発動するなんてことはなく、ただ土の上をザザッと滑っただけだったけど、黒木は気にする様子もない。「かっこいいなあ」と言いながら、同じ動作を繰り返していた。

 余談だけど、この時に一ノ宮が見せた縮地が一種のブームのようになって、みんなが黒木と同じような真似をしていたことがある。が、それでスキルを習得できた人はおらず、最後は自分のやってるのが、小学生くらいがやる子供の遊びであることに気づいてしまったため、ごく短期間でブームは終息した。ほんの少しだけ、ぼくもあれをやっていたのは、心の奥にしまっておこう。


 新田は少しあきれ気味に黒木を見ていたけど、ふと思いついたように、

「勇者と言えば、聖女の白河さんはどうしてるんだ? 最近、あんまり見てないけど」

「聖女というのは希少な光魔法の使い手だそうです。この光魔法というのは、主に浄化や治療を行う魔法らしいですな」

 大高が解説を加える。こいつは戦闘面ではあまりいいところがないけど、こういった情報収集はわりと得意なようで、スキルやジョブの性能といった方面には詳しかった。

「ですから、病院のようなところに行って、魔法による治療の練習をしているそうですよ。高校生に、いきなりケガ人や病人の相手をさせるのは、ちょっと可哀想な気もしますが」

 この答を聞いたぼくは、思わず苦い顔になった。一週間ほど前、こっちの世界に来た当日の嫌な記憶が蘇ったからだ。


 白河さんとは違うけど、ぼくもみんなとは別の場所に呼び出されたことがあった。あれはきつかった……ただの高校生を、いきなり死んだ人の前に連れて行かないでくれよ。

 たぶんあれ、事故か何かで亡くなった子供だと思う。手や足が、へんなふうに曲がってたから。ネットでグロ画像を探して喜ぶような趣味、ぼくはもっていないんだよ。そんな遺体の前に引っ張っていかれて、これを何とかしろ、って言われてもねえ……。

 もちろん、死んだ子供は、何ともならなかった。

 次の日も、似たようなことをさせられた。今度は人間ではなく馬の死体だったけど、結果は同じ。何にもできなかった。そしてその次は、犬の死体……思ったほどのトラウマにはなっていない気がするのは、召喚されたショックで何も感じなくなっているせいかな。それとも、こっちの世界に来て、図太くなったからだろうか。


 まあ、あれで何をやらせようとしたのかは、想像がつくよ。蘇生スキルを使わせようとしたんだろう。

 こちらの世界でも、死んだ人を生き返らせることは、基本的にはできないらしい。聖女が使える最上級の魔法なら可能だ、と言う話もあるらしいけど、本当に存在するかどうかは未確認で、伝説のたぐいのものだそうだ。だから、名前だけはすごい「蘇生」というスキルに、最初は期待する向きもあったらしい。そのために、ぼくはいろんな死体と対面することになってしまったわけだ。だけど、まったく成果を出すことはできなかった。

 その結果、最後にはローブのじいさんたちに「使えねえやつ」みたいな視線を向けられて、武術組の三班に入れられることになった。けど、これでよかったのかもしれない。そう何回も、死体の前に連れて行かれたくはないからね。

 それにしても、死者を生き返らせるのではないとしたら、蘇生というスキル、蘇生術師というジョブって、いったい何なんだろう。これまで一度も、使えていない気がするんだけど。死体を前にしても発動しないとなると、何か他に条件でもあるのかな。ぼくのレベルが足りないとか? でも、そのためのレベル上げなんて、やりたくないしなあ。


 ぼくたちはさっきの場所に戻って、改めて剣と盾を取り、ジルベールの前に並んで稽古を始めようとした。が、ここでまたもや待ったがかかった。

「なあ。一度、俺たちと練習試合しないか?」

 今度、ぼくたちに話しかけてきたのは、二班の矢田部だった。ぼくらを代表して、新田が返事をする。

「練習試合?」

「ああ。おれたちも班の中で試合っぽいことはやってるけど、四人しかいないと、どうしてもマンネリになってさ。ここらで他の班との対抗試合なんてのも、いいと思うんだ。どうですか、教官?」

 矢田部はジルベールと、二班を担当するニコという騎士に話しかける。二人の騎士は何やら相談していたけど、「いいだろう」と応諾した。


「え、ほんとにやるんっすか?」

 黒木があわてた声で、ジルベールに確認する。

「ああ。おまえたちを見ていると、どうも今ひとつ、訓練に身が入っていないように思う。今の訓練内容では、真面目に取り組む気にはなれないようだからな。今後のため、一度自分の身をもって他班との差を知るのも、悪くはないだろう」

 ジルベールの言葉には、ぼくも驚いた。二班のメンバーは「アサシン」の岡村、「盗賊(シーフ)」の宇藤、「弓使い」の吉本、「軽戦士」の矢田部だ。三班と同じく全員が男子で、正統派の剣士とはちょっと違うけど、それでも戦闘職のジョブ持ちが並んでいる。ぼくらのような落ちこぼれグループが、まともに試合できる相手とは思えなかった。

 だけど新田は、脳筋らしく乗り気な様子で、

「いいですね。素振りや打ち込みだけだと、ちょっと退屈だったんですよ」

「ちょっと待て。おまえは『格闘家』だからいいかもしれないけどさ、おれたちはどうするんだよ」黒木が反論するが、

「いいじゃないか。どっちにしろ、訓練が終わったら本当の戦闘に参加するんだろ? それなら早いうちに、実戦っぽい訓練をしといたほうがいいよ」

 黒木はどうにか待ったをかけようとしたけど、教官がこうと決めてしまった以上、覆すことはできそうもない。とうとう、二班のメンバーがこっちにやって来てしまった。そしてあれよあれよという間に対戦の順番が決められ、ぼくは最初の試合に出場することになった。


 向こうの班の一番手は、矢田部だった。軽戦士というジョブは、名前からすると正統派の戦闘職に聞こえるけど、「重装備の騎士・剣士」が基本とされるこの国では、あまり高い評価はされない。そのために、一班からはみ出てしまったらしい。矢田部はぼくの前に進み出てくると、大声で気合いを入れた。

「おっしゃあ!」

 なんだか、目つきがおかしい。こいつ、学校ではあんまり目立たない、おとなしい感じの生徒だったんだけどな。

 さっきの一ノ宮の試合に触発され、興奮しているのかとも思ったけど、それだけではないように思える。何かあったんだろうか。そういえば、最近は朝起きたらご飯を食べてすぐ訓練、訓練を終えたらご飯を食べて倒れるように眠る、の繰り返しで、他の班の人間とはあまり話をしてないな。


 試合を始める前に、ぼくはジルベールに尋ねてみた。

「ルールはどうします。突き技は禁止にしますか?」

「何を言っている。突きは非常に有効な技だぞ。予備動作が少なく、受けるのも難しい。しかも敵の喉笛を狙うから、一撃で相手を倒すこともできる。その分、隙も大きくなるが、それでも訓練に取り入れない理由はないだろう」

「でも、危険ですよ。変なところに当たったら、大けがどころか、へたをすると死んじゃうかもしれませんよ」

 当たり前だけど、木剣は頑丈な木でできている。突き技に限らず、当たり所が悪ければ死んでもおかしくはない。日本でも竹刀が発明されるまで、剣術の稽古では木刀が使われていて、それでけっこうな数の死人が出ていた、と言う話を聞いたことがある。

 だが、ジルベールはにべももなく首を横に振って、

「そう思うんだったら、真面目にやるんだな。命をかけるつもりで、敵に当たってみろ」

 こう言われては、しかたがない。ぼくは渋々、矢田部の前に進んだ。


 審判役はニコが務めるらしい。ぼくら二人の間に立ち、両方に視線を投げてから、すっと右手を上げた。

「両者、構えて……始め!」

 矢田部は木剣と盾を構え、キエーと奇声を発して、前後左右にステップを踏んだ。素早い足の運びと、細かな剣先の動き。フェイントをかけているのか、それとも隙をうかがっているのだろうか。ぼくはと言えば、ほとんど棒立ちのような格好で、構えた盾越しに、彼の動きを見ているだけだった。と、こちらをからかうように動いていた剣先がぱっと引っ込み、矢田部の体が急に大きく見えた。


 次の瞬間、左の首筋に強烈な痛みが走った。そして、一合も打ち合うことがないままに、ぼくは意識を手放した。



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