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追放された蘇生術師の、死なない異世界放浪記  作者: ココアの丘
第2章 スイーツと山賊篇
80/248

初めての○○○

 迷宮から出ると、外はまだ真っ暗だった。

 出口のすぐそばの木に、馬が二頭、手綱がつながれているのを見つけた。どうやら、山賊たちの持ち物らしい。リーネが馬の扱いができるというので、馬を引いて街へ戻ることにした。街の近くまで行ったら、マジックバッグから死体と剣を出して、馬に積み替えておこう。

 まだ未明のうちに街に着き、門の外でしばらく待つ。開門時間が来て、街の中に入ったあとも、ギルドの営業開始まで、ギルド前で待つことになった。寝不足だけど、しかたがない。ぼくの隣では、リーネも少し、うつらうつらとしていた。一晩中、ご苦労さま。ここは魔物はいないけど、盗っ人はいるかもしれないから、ぼくが起きているよ……。


 ようやくギルドのドアが開いた。死体を積んだ馬の番をリーネに任せて、ぼくはカウンターに向かった。

「おはようございます。どのようなご用件でしょう」

「山賊を倒したので、確認をお願いしたいんです」

「山賊ですか? それは、賞金が掛かっているような相手でしょうか」

「だと思います。ベルトランと、セバスという二人なんですけど」

「ベルトランとセバス、ですか……え? ベルトランって、あのベルトラン?」

 受付嬢はあわてた様子で、カウンターの下からファイルを取り出した。パラパラとページをめくっていたが、

「……あのー、確かにベルトランとセバスという賞金首はいるのですが、縄張りはこのあたりではなく、アイロラの方なんです。おそらく何かの間違いか、あるいは別の山賊が、勝手に名前をかたったのではないかと思うんですが」

「いえ、そのベルトランで間違いないと思います。とりあえず、死体を確認してもらえませんか?」

「わかりました」

 ぼくは受付嬢を、リーネがいる馬のそばまで連れていった。さすがにギルドで受付をしているだけあって、彼女は死体を見ても平然としていたけど、ファイルの内容と見比べると、難しい顔つきになった。

「確かに、人相や体格は似ていますね……とりあえず、この死体をギルド裏の作業場まで運んでもらえますか? 私はギルド長に確認してきます」

 二人の死体を運び終えたあと、ぼくたちは応接室に通された。ソファーに座って、かなり長い時間待っていると、ようやく、六十代くらいの細身の老人が、ドアを開けて入ってきた。

「待たせたな。ギルド長のバートだ。ベルトランを倒したというのは、おまえか?」

「はい。Dランク冒険者のユージです。それからこっちは、ぼくの仲間のリーネです」

「Dランク? それにしては、でっかい件を持ち込んできたじゃないか」

 バートはぼくの向かいのソファに腰を下ろすと、さっそく用件に入った。

「おまえらが持ってきた死体だがな。たしかに人相書きを見ると、人相や体格、顔や体の傷跡が一致している。だが、なにしろここは、縄張りから離れているんでな。断定することはできん。他に何か、証拠のようなものはないか?」

「証拠ですか。では、この大剣はどうでしょう? 大男の方が使っていたものですけど」

 ぼくは、ソファーの後ろに置いていたベルトランの大剣を、バートに手渡した。バートは大剣を鞘から抜いたあと、剣ではなく鞘の方をじっと見つめた。

「……なるほど。どうやらこの剣は、ベルトランのもので間違いないようだ。この、鞘の装飾が独特でな。高名な職人の作った、一点物なのだそうだよ。もちろん、やつが犠牲者から奪い取ったものだが、それでもベルトランが持っていたものには違いがない」

 バートは剣を鞘に納め、テーブルに置いた。

「これで、まず間違いはなくなったと思う。残るは疑問は、なぜやつが、アイロラから離れたこんな街に現れたか、なんだが」

「ああ、それはですね」

 ぼくはこれまでのいきさつを話し、山賊のダーレンを倒したらベルトランに狙われる羽目になったことを、バートに説明した。

「リトリックの冒険者ギルド長の、ゴドフリーさんに確認をとっていただければ、わかると思います」

「そうか。ダーレンを討伐したのも、おまえたちだったのか」

 バートはそれで納得がいった、という風に深くうなずいた。

「どうやら、これで決まりのようだな。とは言え、この件の管轄はアイロラだ。あちらに照会をかけなければならん。答が返ってくるまで、しばらく掛かるかもしれんが、その間は、この街にいてくれ。それから、この剣はこちらで借りておきたいんだが、かまわないか?」

「かまいません。よろしくお願いします」

 ぼくは頭を下げた。

 ギルドを出たあと、ぼくとリーネは食堂で遅い朝食、というより早めの昼食を食べた。いつもの焼き肉定食が、今日ばかりは、なかなか胃に入っていかなかった。宿に戻って、二人ともベッドに倒れ込み、夕食の時刻まで、ぐっすりと眠ってしまった。


 夕食前にはなんとか目を覚まして、ぼくたちは階下の食堂で食事を済ませた。その後、再び部屋に戻り、いつもどおり桶にお湯を作って、体を拭き始めた。

 タオルを湯に浸して、そのタオルで体を拭く。それを繰り返すうちに、お湯には赤黒い色がついてきた。迷宮の中でも体は洗ったけど、それほど時間をかけなかったので、洗い残しがあったようだ。窓からお湯を捨て、もう一度「ウォーター」と「ファイア」で作り直して、改めて体を拭く。透明だったお湯は、また少し赤黒くなった。

 それを見たぼくは、なんだか急に寒気がした。

 この世界に来てから経験してきたさまざまなことが、いっぺんに襲ってきたような気がした。同級生との剣術の稽古で、死にかけたこと。初めてヒト型の魔物と戦って、それを殺したこと。初めて、魔物ではないヒトと戦って、それを殺したこと。初めて圧倒的な力を持つ魔物と対面し、あっという間に殺されたこと。初めて、圧倒的な力を持っていたはずだった存在が、死体となって横たわっているのを見たこと。そして今日、初めて自分の意識が向いている相手に体を切り裂かれて、殺されたこと。つまり、リアルな本当の「死」を、経験したこと。

「ぼく、何か悪いことでもしたのかなあ……」

 思わず、声に出てしまった。それもジョークや軽口ではなく、本気の口調で。

 何度も殺されたあげくに、一緒に連れてこられた仲間たちとは切り離され、知り合いもいない街の宿屋で、血の着いた体を洗っている。たった、一人で。ついこの間まで、ごく普通の高校生だったのに、どうしてこんなことになってしまったんだろう。

 体が小さく震えているのは、まだ服を着ていないせいだろうか。でも、それに気づいて服を着たあとも、震えは止まってくれなかった。


 ちょっと気分を変えよう。そうだ、すっかり忘れていたけど、一度死んで、生き返ったんだっけ。ぼくは久しぶりに、自分に「鑑定」をかけてみることにした。


【種族】ヒト(マレビト)

【ジョブ】剣士(蘇生術師)

【体力】18/18 (98/98)

【魔力】6/6 (22/22)

【スキル】剣 強斬 (蘇生 隠密 偽装 鑑定 探知 縮地 毒耐性 魔法耐性 打撃耐性 小剣 投擲 火魔法 雷魔法)

【スタミナ】 18(69)

【筋力】 17(96)

【精神力】12(33)

【敏捷性】5(7)

【直感】2(6)

【器用さ】2(7)


 やっぱり、かなり数値が上がってる。今回は、主に体力と筋力か。あ、「強斬」なんてスキルが増えてるな。これも、「偽装」のスキルで隠しておくか……。

 だけど、この前ステータスが上がった時はかなりうれしかったのに、今回はあんまり、心が弾まなかった。


 そんなことを考えていたら、リーネから声が掛かった。

「ユージ様、終わりました」

 いつの間にか、ぼくは体を拭くのを終え、手桶にお湯を作って、リーネに渡していたらしい。無意識のうちに体が動いて、いつもの動作をしていたんだろう。もう服を着替えていたリーネは、立ち上がって、窓からお湯を捨てた。そしてベッドに腰掛けたところで、ぼくの様子がおかしいことに気づいたようだ。

「ユージ様? どうかされましたか」

「うん。いや、なんでもないよ」

「今日は、たいへんな一日でしたからね。少し早いですが、もう、お休みになりますか」

「そうだね。そうしよう」

 ぼくは「ライト」の魔法を止めた。すぐさま、部屋に暗闇が訪れる。リーネのベッドから、少し衣擦れの音が聞こえて、すぐに静かになった。ぼくは自分のベッドに腰掛けたけれど、そのまま横になる気にはなれなかった。顔をひねって、背後のベッドを見た。暗さに少し目が慣れてきて、布団の中のリーネの寝姿が、うっすらと浮かび上がってきた。

「ねえ、リーネ」

「はい?」

 リーネが答えた。まだ、眠ってはいなかったらしい。

「ちょっとお願いがあるんだけど」

「なんでしょうか、ユージ様」

 口に出しかけた言葉を、ぼくはいったんは、飲み込んだ。だけど思い切って、リーネにこう告げた。

「今日、そっちのベッドに入ってもいいかな」

 ほんのちょっとだけ、間が開いた。けれどすぐに、はっきりとした言葉で、彼女から返事が返ってきた。

「はい。どうぞ、ご主人様」

 ぼくは立ち上がった。リーネが入っている布団を少しめくって、リーネが寝ているベッドに入る。彼女はまだ、背中を向けたままだ。けれど、リーネから漂ってくるかすかに甘い匂いが、ぼくの胸を少しだけ熱くした。

「こっちを向いてくれる?」

「はい、ご主人様」

 リーネは寝返りを打って、ぼくの方を向いてくれた。大きな、少し潤んだ瞳が、ぼくのすぐ目の前にあった。なんだか恥ずかしげに、ぼくから視線を外している。

「抱きしめてもいいかな」

「はい、ご主人様」

 ぼくはリーネの体を抱きしめた。服を通して伝わってくる彼女の体温は、とても温かかった。少し力を込めると、彼女の豊かな双丘が、ぼくの胸に押し当てられるのを感じた。

「キス、してもいい?」

「はい、ご主人様」

「あの、それから……」

「はい、ご主人様……」


 その夜、ぼくとリーネは初めて、一つになった。


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