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追放された蘇生術師の、死なない異世界放浪記  作者: ココアの丘
第2章 スイーツと山賊篇
78/248

秘剣、○○○

「コレガ『キョウカ』ダ!」

 ベルトランは叫んだ。キョウカって、「狂化」だろうか。そういえば、彼のジョブは「狂戦士」で、スキルにも狂化というものがあった。ぼくは鑑定スキルで、改めてベルトランのステータスを確認した。


【種族】ヒト

【ジョブ】狂戦士

【体力】56/56 → 112/112

【魔力】9/9 → 4/4

【スキル】強斬 連斬 狂化 威圧 打撃耐性 大剣

【スタミナ】 43 → 21

【筋力】 59 → 118

【精神力】18 → 9

【敏捷性】3

【直感】5

【器用さ】1


 体力・筋力の数値が倍になり、魔力・スタミナ・精神力が半分になっている。しゃべりも片言になっているのを見ると、理性を犠牲にして、パワーを上げている状態なのだろう。まさに「狂化」だ。増えた分と減った分を比べれば、魔力などが元から多くない人にとっては、けっこう優れたスキルなのかもしれない。

 なんてことを考えている間にも、ベルトランは大剣を振りまわして、こちらに突っ込んできた。ぼくは再び、刀を使って彼の突進を受け止めようとした。だけど、彼のスピードもパワーも、さっきまでとは段違いになっている。剣を合わせるのも一苦労で、うまく受け止めてつばぜり合いになっても、押し負けて体勢を崩され、後ろに下げられた。要するに、さっきの話が、逆になってしまったんだ。技量の無い者同士の戦いは、パワーが上の者が優位に立つ。だから、狂化したベルトランの方が、上になった。ぼくが簡単に押し切られなかったのは、これもさっきと同じ理屈で、狂化した彼が技術なんてものをまったく無視して、力任せに剣を振り回しているためだった。

 なんとかベルトランの猛攻をしのいでいたぼくだったけど、このままではじり貧だ。そこでなんとか活路を見いだそうと、剣戟の合間に呪文を唱えた。

「《ファイアーボール》!」

 目の前に現れた炎の玉が、ベルトランに向かって走る。だけど、休み無く剣を振り続けているベルトランは、ついでとばかりに炎も切ってしまい、火魔法はあっけなく消滅した。

「くっ、『投擲』!」

 それでもわずかに生じた隙をついて、ぼくはクナイを投げつけた。狙い違わず、クナイはベルトランの首に突き刺さる。だけど、のど笛に刺さったと思ったクナイは、黒ずんだ皮膚を貫くことができず、はじき返され床に落ちてしまった。

「キカヌ!」

「皮膚まで硬くなってるの? なんだよ、それ!」

 今の攻撃で、今度はぼくに隙ができてしまったらしい。ベルトランが大きく踏み込んできて、剣を横なぎに払った。なんとか刀をあわせることはできたものの、十分に腰を入れるまではいかなかった。ぼくは刀と共に吹っ飛ばされて、空き部屋の隅まで転がった。すぐに立ち上がったものの、ベルトランも素早く距離を詰めてきた。さっきとは真逆、ぼくが部屋の隅に追い詰められる形になってしまった。


 まずい、まずいぞ……ぼくは必死に頭を働かせた。

 さっきも思ったけど、これって狂化というスキルを使ったんだよな。この手のスキルって、時間制限があるのがお約束だ。そうでなければ、ずっとこんな状態のままになってしまう。オンオフが自由にできる可能性もあるけど、それなら追い詰められる前に使っているだろうし、スキルの名前からしても、思い通りにできないから「狂」化なんだろう。だとしたら、時間切れを待つべきか? だけど、その時間稼ぎが難しい。さっきからほぼ防戦一方で、その結果、部屋の隅に追い込まれているんだ。それにそもそも、あとどれくらい待てばいいかがわからない。

 では、ぼくが持っているスキルを使って、なんとかできないか? でも、火魔法と投擲はもう使ってしまったし、既に相手に認識されているので、隠密で隠れるのも無理だ。雷魔法も、攻撃力は火魔法よりも低いから、目潰し以上の効果は期待できそうにない。残るは縮地だけど、あれは遠くから瞬時に近づいたり、瞬時に離れたりして敵の不意を突くもの。こんなに距離を詰められると、あまり意味がない。

 動きを止めたぼくを見て、ベルトランが高笑いした。

「サッキトハ、タチバガ、ギャクテンシタナ!」

 そう、ぼくには、完全に打つ手がなくなっていた───。

 ……

 …………

 …………………

 ただひとつを除いては。


「コレデ、トドメダ!」

 ベルトランは、これ見よがしに大剣を掲げて、大きく振りかぶった。盛り上がっていた肩の筋肉が、更に怒張する。

 こうなってはしかたがない。

 ぼくも覚悟を決めた。

「シネ!」

 ベルトランが、すさまじい勢いで剣を振り下ろした。ほとんど同時に、ぼくも彼の剣に合わせて、刀を上段から振り下ろした。このままだと、二つの剣はぶつかり、そしてたぶん、ぼくの方が打ち負けただろう。

「秘剣──」

 だけどその直前、ぼくは手首を返して、左右の腕をクロスさせた。刀の角度が変わり、剣先の描く軌道も変化する。ぼくの刀の軌道とベルトランの剣の軌道は、ほぼ平行になった。

「──相打ち」

「ナニ!」

 ベルトランの真っ赤な瞳に、驚きの色が浮かんだ。だけど、今さら剣を止めることなどできない。もちろん、ぼくも止める気はなかった。刀と剣は交わることなく進んでいき、それは互いの敵の体に達して、思う存分に引き裂いた。

「グァ!」

 ベルトランが叫び声を上げた。ほんの少しだけ、ぼくの刀の方が早く相手に届いたらしい。だけどその直後、ぼくの視界は真っ赤に染まり、激しい痛みが全身を駆け巡った。口を開くこともできないままに、ぼくの意識は途切れた。


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