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追放された蘇生術師の、死なない異世界放浪記  作者: ココアの丘
第2章 スイーツと山賊篇
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せっかくの魔法だから

 ギルドで迷宮についての簡単な説明を聞いた後、ぼくたちは早めに宿に入った。

 ぼくはベッドに腰掛けると、リーネに尋ねた。あ、部屋はいつもどおりの、ツインルームです。

「ルードの迷宮、ぼくらでもいけると思う?」

 リーネは当然、と言った顔でうなずいた。

「問題ないかと思います。商会にいたころ、私は冒険者であればCランク相当と評価されていましたし、ユージ様はDランクですが、実力はもっと上のレベルにあると思いますから。ただ、二人だけのパーティーですので、迷宮内で何日も夜を過ごすとなると、厳しくなるでしょうけど」

「やっぱり、夜はたいへんかな」

「はい。魔物の密度が段違いですので、何度も夜襲を受けます。人数の多いパーティーでないと、満足に休息を取ることができないでしょう」

 迷宮の中には魔物の来ない安全地帯なんてないし、魔物よけの魔道具もあるにはあるけど、かなり高価な上に、確実に効果があるものではないらしい。そもそも、強い魔物には効かないのだそうだ。それでも、迷宮の浅い層ならそれなりの効果はあるので、浅い層を基地にして少し深い層を攻略する、といった方針のパーティーなら、持っていることが多いのだそうだ。

「そこまで無理をすることはないかな。ぼくたちは、迷宮初心者だからね。とりあえず、日帰りでいけるところまで行ってみて、慣れてきたら一泊する、くらいでどうだろう」

「そうですね。それがいいかと思います」


 ◇


 翌日、ぼくたちはさっそく、ルードの迷宮へ向かった。デモイの街からは、北へ一時間ほど歩けば着くくらいの距離だ。デモイはもともと迷宮の管理のために作られた集落で、それが発展して今の街になったそうだから、このくらいの位置にあるんだろう。山の斜面をしばらく登ったところに、その入り口はあった。

「なんだか迷宮というよりも、洞窟の入り口みたいだね」

「迷宮の多くは、もともとはアント種という魔物の巣穴だったか、あるいは普通の洞窟に魔素がたまったものらしいですから。ここの迷宮は、洞窟だったのかもしれませんね」

「ギルドが管理している、っていうわりには、そばに誰もいないけど」

「『管理』というのは、適度な量の魔物を間引いてもらえるように冒険者の活動を調整する、という意味です。迷宮の中には、入り口を兵士が守っているものもありますが、それはスタンピードが頻繁に起きたり、近くに大都市があるような場合です。ここはそれほど危険な迷宮ではない、とみられているんでしょう」

 なるほど、とぼくはうなずいた。そういえば、迷宮内部の地図も、わりと安い値段でギルドで買うことができたっけ。間引きが目的なんだから、そのための道具は安く提供するよ、ということなのかな。


 こうしてぼくは、初めての迷宮に入った。高さ三mほどの自然のトンネルが、緩い傾斜で下へと続いている。中を進むうちに、入り口から入ってくる光が、次第に乏しくなっていった。周囲が暗闇に包まれる前に、ぼくは「ライト」の魔法を唱えた。そのとたん、キーキーといううるさい鳴き声と共に、数十センチほどの真っ黒いものが、ぼくら目がけて一斉に襲ってきた。

「ユージ様、何か来ます!」

 叫ぶと共に、リーネが剣を抜いた。「探知」スキルをつけていたので、当然、ぼくも気がついている。

「あわてるな、ジャイアントバットだ」

 ぼくは斜め上の方向に向けて、剣を横なぎにした。ギャッという声を立てて、二つの物体が地面に落ちる。うまい具合に、一度で二匹のバットを切ることができたようだ。リーネはと見ると、素早い身のこなしで立ち位置を変えながら、何度も剣を振るっていた。そのたびに、魔物が地面に落ちる音がするけど、まだ十匹以上のバットが、ぼくらの周りを旋回している。ジャイアントバットは文字どおり大きめのコウモリで、推奨ランクはE。強い魔物ではないし、攻撃力もたいしたことはないんだけど、こんなふうに集団で来られると、剣ではけっこう面倒な戦いになってしまう。

 足下で羽根をばたつかせている魔物にとどめをさしながら、ぼくはリーネに呼びかけた。

「まとめて片付ける! リーネ、こっちに来て」

「わかりました!」

 リーネは即座に答を返して、ぼくの方へ走ってきた。ぼくは彼女に身を寄せるようにして、洞窟の壁際へと移動する。そして、魔物の群れがこちらに寄ってきたタイミングで、小さく叫んだ。

「《ファイアーウォール》!」

 呪文と同時に、ぼくたちの前に火の壁が立ち上がった。飛んできた勢いのまま、ジャイアントバットの群れが火の中に飲み込まれていく。壁を通過し、ぼくたちの側に出てきたジャイアントバットは、全身を火に包まれていた。それはすぐに失速して、次々に地面に転がった。

 なんとか火から逃れた数匹は、すぐさまUターンして、洞窟の入り口に向かって逃げ去っていった。

 ぼくは、足下に転がる死体を見て言った。

「迷宮の魔物って、魔素の影響で大きくなったり、黒っぽくなるんじゃなかったっけ? こいつらには、そんな特徴は見えないね」

「このあたりはまだ入り口ですから、魔素の影響をあまり受けていないんでしょう。ところでユージ様は、火魔法を使えたのですね」

「ああ。これまではほとんど森の中の戦いだったから、火は使いづらかったんだ」

 特に、今使ったファイアーウォールは、炎が壁状に広がるだけという魔法なので、使いどころが難しい。ぼくのレベルでは壁もそんなに分厚くないから、与えるダメージは限られるし。使えるのは相手が動かないか、やみくもに突っ込んでくる場合くらいだろう。

 それに、遠距離攻撃なら投石があったからね。あっちの方が目立たないし、攻撃スピードも速い。そのため、もっぱら投石を使うことになっていたんだけど、せっかく身につけた魔法スキルだ。攻撃の手札を増やすためにも、このあたりで練習しておくのもいいだろう。

「迷宮の中では魔法も使っていくつもりだから、リーネにも、それに合わせた動きをしてもらうことになる。もちろん、魔法のことも、秘密厳守で頼むね」

「わかりました」

 リーネはぼくを見つめて、うなずいた。そして、思い出したように付け加えた。

「さすがはご主人様です」


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