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追放された蘇生術師の、死なない異世界放浪記  作者: ココアの丘
第2章 スイーツと山賊篇
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秘密は厳守で

 その翌朝。ぼくは寝不足の目をこすりながら、宿の朝食を取っていた。

 リーネはぼくの目の前で、美味しそうな顔でパンを口に運んでいる。この宿は、朝食もちゃんとしたものを出してくれるようで、パンもスープも上等なものだった。

「商会では、食事はどうだったの」

「よくして頂きましたよ。三食、ちゃんとしたものを食べさせて頂きました。ただ、さすがにお茶やお菓子のような嗜好品は、ほとんどいただけませんでしたが」

「そうか」

 扱いは悪くなかったみたいだけど、さすがにお菓子は出なかったか。じゃあ、今度買ってこようかな。そうだ。大高たちがスイーツの商売を始めたら、一度行ってみてもいいな。あ、だけどリーネと一緒に行くのは、ちょっと恥ずかしいか。「おまえ、奴隷なんか買ったの?」と言われそうだし。

 ぼくはゴホン、と咳払いして、話題を変えた。

「じゃあ、この後の予定なんだけど」

「はい」

「今日から一緒に、冒険者の仕事をしてもらうね」

「はい。わかっています」

 リーネは真剣な表情になった。

「といっても、ちょっとブランクもあるだろうから、最初は簡単な獲物からにしよう。リーネの実力も、見てみたいしね」

「はい。ご期待に添えるよう、がんばります」

 リーネはパンを持った手で、ガッツポーズのような仕草をした。ガッツポーズって、この世界でも日本と同じような意味で使われるみたいだな。


 食事を終えたぼくたちは、街を出て近くの森へ向かった。ぼくにとっては、おなじみの狩り場だ。それほど危険な魔物は出ないから、リーネのリハビリにはちょうどいいだろう。

 森に入ると、ぼくは探知のスキルをオンにした。半径百mほどの情報が頭の中に浮かぶ。それをレーダー型に変えて、さらに探知の範囲を広げると、さっそく左前方に、小さな反応があった。ホーンラビットだろう。ただし、今回はリーネの実力を見たいので、大高たちの時と同様、このことは告げなかった。

 リーネは気づくかな? と見ていると、彼女はラビットから二十メートルくらいの距離まできたところで、急に立ち止まった。姿勢と視線を低くして、腰に差していた剣を抜く。と同時に、髪の毛の中から、ケモミミがぴょん、と姿を現した。警戒態勢に入ると、ああなるのか。

 その体勢のままじりじりと進んで、標的まで十メートルくらいまで近づいた。ここからは隠れる場所がないので、これ以上は近づけそうにない。ぼくならここから投石で仕留めるんだけど、リーネはどうするんだろう?

 ここでリーネは、思いもつかない対応を見せた。

 リーネはさらに姿勢を低くすると、びっくりするような勢いで木の陰から飛び出した。そのまま、ホーンラビット目がけて一直線に走って行く。ラビットも彼女に気づいて逃げようとするが、すでに加速がついているリーネからは逃れられない。見る間に獲物に追いついたリーネは、その背後から剣を振るって、ラビットを仕留めた。テレビの映像で見たことのある、チーターが獲物を狩る時のような、そんな動きだった。

「ユージ様、いかがでしたか」

 リーネがホーンラビットを持って、ぼくの方に戻ってきた。

「まさか、走って追いつくとは思わなかったよ。すごいね」

「ありがとうございます」

 ぼくがほめると、リーネはうれしそうに微笑む。

「どうやってラビットがいることに気がついたの?」

「どうやって、と言われますと、説明が難しいですね。なんていいますか、気配のようなものを感じたんです。その方向に向かったら、これがいました」

 リーネはこともなげに言った。だけど、彼女は探知のスキルは持っていない。獣人だけに特有な、優れた聴覚や嗅覚があるんだろうか。いや、確か彼女のステータスは、「直感」が七だったな。それも影響しているのかもしれない。


 この後、ホーンラビットをもう一匹見つけたので、今度はぼくが、石を投げて倒した。それを見たリーネは、またもや驚きの表情を浮かべて、

「この距離で、一発で頭に命中させるとは……さすがはご主人様です」

と、言ってくれた。もっとほめてもいいよ。ほめられて伸びるタイプなんです。

 獲物を手にしたぼくたちは、近くを流れる小川まで移動して、ホーンラビットの処理を行った。その際、リーネに血抜きや毛皮をはぐ処理を教えてもらった。ぼくもひととおりは習っていて、今までも自分でやってはいたけど、我流も入ってるし経験も足りないので、はっきり言って下手くそだ。こうして、改めて教えてもらえるのはありがたかった。

 まだ慣れない手つきで解体用のナイフを振るっていたぼくだったけど、しばらくしてふと、手を止めた。つけたままにしておいた探知のレーダーに、入ってきたものがある。それも、けっこう大きめの反応が、かなりのスピードで近づいてきたんだ。リーネの方はと見ると、彼女もそれを感じたのか、ぼくにちらりと視線を送って、ナイフを剣に持ち替えた。

 二人して身構えているところに現れたのは、大きなオオカミのような魔物だった。ファングウルフより大きい。ファングウルフが大きめの犬なら、こちらはライオンくらいか。毛皮の色も、灰色ではなく真っ白だ。

「リーネ、この魔物は?」

「ホワイトウルフです、ユージ様」

 これがホワイトウルフか。ギルドで読んだ資料では、たしかファングウルフの上位種で、これも食用にはしないが、毛皮は買い取ってもらえる。単体ではDランク、群れならCランクでも厳しいかも、だったかな。幸い、今回は単独行動の個体のようで、探知に他の反応は映っていなかった。

「リーネだけで、いけそう?」

「お任せください」

 リーネはそう答えると、またもや前に駆け出していった。それを見たホワイトウルフも、猛然と突進してくる。両者が激突する寸前、リーネは急に進路を変えて、ウルフのわずか横を通り過ぎた。ホワイトウルフの白い毛皮に、赤い色が混じる。すれ違いざま、素早く剣を振るったらしい。リーネの方は無傷のようだ。傷を負ったウルフだけど、倒れることなくすぐに進路を修正して、改めてリーネに襲いかかっていった。リーネはさっと横に移動して、再び剣を一閃する。魔物の体から、またもや鮮血が吹きだした。二度の攻撃を受けたウルフは、うなり声を上げながら、後ずさりする。相手がひるんだ時を逃さず、リーネは追撃に出た。目にもとまらぬ速さで獣の前に移動して、ウルフの体にまっすぐに剣を突き出したんだ。そういえば、彼女は「縮地」のスキルも持っていたっけ。彼女の剣が、ウルフの体に深く突き刺さった。

 どう、倒れたホワイトウルフの首筋に剣を立てて、リーネはとどめをさした。

「ユージ様、終わりました」

「ご苦労さま。リーネは、ケガはない?」

「ありません。あの程度の攻撃なら、余裕でよけられます」

 リーネは、得意そうに胸を張った。ちょっとだけ、どや顔になっている。どや顔も、美人がするときれいなんだな。それにしても、リーネは走力があるだけでなく、体のさばきや剣の使い方も、純粋なスピードタイプらしい。

「このホワイトウルフ、どうしましょうか。魔石は取るとしても、毛皮の処理となると、ちょっと自信がないのですが……」

「え、そうなの? さっき、やり方を教えてくれたじゃない」

「ホワイトウルフの毛皮は、傷がなければ高級品なんです。こういうことが得意な人か、できれば業者にやってもらった方がいいかもしれません」

 ああ、そうか。彼女の「器用さ」は三で、そこまで高くなかったな。

 だけど、傷がなければ? さっき、さんざん剣で切りつけていたのに、と死体を見ると、剣の傷はすべて、ウルフの腹部に集中していた。攻撃するなら、腹部の方が効果が高いのもあるだろうけど、戦った後の処理のことまで考えていたのか。それだけ、余裕があったってことなんだろう。

「でも、この状況ではしかたがないですよね。力不足ですが、私が解体しましょう」

「じゃあ、このまま街まで持っていって、ギルドで解体してもらおうか」

「このまま、ですか? 持てないことはないとは思いますが、危険ではありませんか?」

 リーネが、もっともな疑問を返した。魔物がうようよしている森で、こんなに重くて血の匂いがするものを持ってうろつくのは、確かに危険だ。探知スキルやリーネの直感はあるにしても、ね。でももちろん、ぼくはそんなことをするつもりはなかった。

「昨日、ぼくには秘密みたいなものがある、って話をしたよね。じゃあ、ここでその一つを見せるよ」

 ぼくはマジックバッグを取り出して、ホワイトウルフを収納した。大きな魔物が急に消え失せたのを見て、リーネは目を丸くした。

「ユ、ユージ様! 今のはもしかして……」

「秘密厳守で、ね」

 リーネはこくこくとうなずいた。そして思い出したように、付け加えた。

「さすがは、ご主人様です」


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