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追放された蘇生術師の、死なない異世界放浪記  作者: ココアの丘
第2章 スイーツと山賊篇
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初級冒険者の一日

 狩りの時に大活躍したのが、「探知」と「隠密」、そして「投擲」のスキルだった。

 シュタールの森とは違って、ここでは魔物が大量発生しているわけではない。だから、最初に目標の魔物を探すところから始めなければならなかった。そこで、狩り場に到着したらまず使ったのが、探知のスキルだった。

 このスキル、今までは半径百メートルくらいの敵を見つけるのがやっとだったけど、いろいろと練習しているうちに、この距離は伸ばしたり縮めたりできることがわかってきた。言葉で説明するのが難しいんだけど、探知には「網の目」のようなものがあって、それを細かくすると十mくらい先しか知ることができない。その代わり、相手がどんな動きをしているかなど、詳細な情報が頭に入ってくる。逆に網の目を大雑把にしてしまえば、二百メートルくらい先まで探知することができた。さらに、網の「向き」を一方向に絞ることで、五百メートルくらいまで伸ばすことができ、それを回転させれば、まるでレーダーのような像を頭に浮かべることもできたんだ。

 すぐ近くにいる相手の動きを探るなら細かい方がいいけど、どこに魔物がいるかを知りたいだけなら、レーダーでいいだろう。実際、レーダー方式に変えたら、けっこう効率よく、魔物を見つけることができた。

 魔物を見つけたら、今度は隠密スキルを発動して、気配を消しながら近づいていく。距離が近づいたら、探知の網の形を変えて、相手が何をしているかなどの情報を入れるのも忘れずに。そうやって、魔物の背後からこっそりと近づいていき、残り数メートルになったところで、手近の木の陰などに隠れる。それ以上近づくと、隠密スキルを使っていても、気づかれることがあるからだ。野生の勘、というやつなのかな。最初のうちは、これでけっこう取り逃がしていた。

 ではどうするかというと、ここで投擲スキルの出番になる。これも最初は、武器屋で買ったナイフ(というか、クナイのような刃物。こっちにも、こういうものがあるんだね)を使っていたんだけど、投げた後の回収が面倒だし、たとえ当たっても、刺さったまま逃げられることもある。そうなるとナイフの丸損になってしまうので、石を使うことにした。野球のボールくらいの大きさの石を、ステータスの上がった「筋力」を使って、力まかせに投げつけるんだ。このために、歩いている時に適当な石を見つけたらそれを拾って、マジックバッグにストックするようにしてある。ちなみに、丸い石より、紡錘形のものにドリルのような回転をつけるイメージで投げる方が、真っ直ぐに飛ぶみたいだ。まん丸な石も、いくつかは集めてあるけどね。ちょっと違う目的のために。

 この大きさの石が当たれば、けっこうなダメージになる。これだけで倒すことはできなくても、逃げ足を奪うことさえできれば、あとは「剣」スキルの出番だ。

 狩りを終えたら、冒険者ギルドに行って魔石や肉を納品する。獲物の運搬も、マジックバッグのおかげで楽勝だ。ただし、このバッグのことは秘密にしておきたいので、森を出る前に獲物をバッグから出して、かついで運ばなければならない。当然、ギルドへ提出できるのも、一人で持ち運べるような量に限られる。


 報酬を受け取ったら、そのへんの食堂で夕飯を済ませて、後は宿に戻るだけだ。この世界は、地球と違って娯楽が少ない。外に出ても酒場や、いわゆる女性が相手をしてくれる、風俗系のお店くらいしかないんだよなあ。お酒なんて飲みたいとは思わないし、風俗の店となると、ぼくにはまだ行く勇気が……(行かないとは言っていない)。

 泊まっている宿は、低ランク冒険者にお似合いの、安宿だ。宿賃は王都よりも安くて、朝食付きで銀貨二枚。お金ならマジックバッグの中にあるけど、Fランクの冒険者がいい宿に泊まるのも、ちょっとおかしいだろう。あんまり、目立ちたくはないからね。部屋は三畳くらいの広さに、木製のベッドが備え付けてあるだけの、ごくごくシンプルなものだった。もちろんトイレは共同で、風呂なんてものはない。お金を出せば、桶に入れたお湯をくれるらしくて、体をきれいにしたい人はそれを使うらしい。けど、ぼくは魔法の練習として、生活魔法の「ウォーター」で水を出し、「ファイア」(これも生活魔法。火属性の「ファイアーボール」とは別もの)でお湯にして、それで体を拭くようにしていた。


 さっぱりした後は、部屋の中でティータイム。魔道具の灯りはもったいないので、ここでも生活魔法、「ライト」の出番だ。それにしても、あのお茶用の魔道具、買っておいて正解だったな。やっぱり、和みます。殺伐とした生活の中にこそ、休息は必要だよね。

 飲むのはもちろん、ハーブティーだ。

 実はぼく、元の世界でも、ハーブティーにこっていた時があった。こった末に、野草のお茶を飲み出して、竹の葉茶とか、柿の葉茶なんてものまで飲んでいた。赤クローバーを育てて、その花をお茶にしていたこともあったな。でも、赤クローバーはそのへんには生えていなかったし(雑草みたいなものだから、栽培は簡単だったけど)、竹や柿はいったん蒸した後で干さなければならなくて、作るのにはそこそこの手間が掛かる。なんと言ってもお手軽なのは、洗って干すだけで使える、ドクダミ茶だった。

 ドクダミって、たいていの人にとっては「嫌な匂いがする草」なんだよね。でも、世の中には、これをくさいと感じない人もいるらしい。というか、ぼく自身がそうだったみたいで、ぼくにとってドクダミは、「独特で、ちょっと強すぎるけど、悪くはない匂い」がする草だった。ドクダミはくさいと聞いていたから、子供のころは、あの草がドクダミなのかわからなかったな。母に「この葉っぱ、くさいの?」と聞いたことがあり、母の答は、顔をしかめての「くさい」だった。それでようやく、あれがドクダミだとわかったんだっけ。

 一般のドクダミ茶が乾燥葉なのは、保存目的の他に、乾燥すると嫌な匂いが抜けるためもあるらしい。だけど、匂いが気にならないぼくは、ドクダミを乾燥させずに飲んだりもしていた。個人的に、は「ドクダミ生茶」と呼んでいました。ドクダミの適当な量をポットに入れ、お湯を入れて半日ほど放置する。茶こしでドクダミをとれば、できあがり。普通の人には、匂いがきついかもだけど。

 改めて言う必要もないだろうけど、ドクダミは毒草じゃない。その逆で、薬草なんです。別名は「十薬」で、漢方薬にもなっていたはず。ドクダミという名前も、「毒を貯める」ではなくて、「毒を()める(「牛の角を矯める」の「ためる」)」が語源、と言う話を聞いたことがある。ただ、この語源の話は、個人的には本当かな? と思っている。だとしたら、「毒」という字を名前に持ってこないんじゃないのかな。薬草にしては、イメージが悪すぎる。それよりは「臭いがきつくて、毒草みたい」というイメージからついた、というほうがすっきりする。……あくまで個人的な感想ですけど。


 えーと、何が言いたいかというと。

 この世界のハーブティー、ちょっともの足りないんです。香りも味も、薄目。これがハーブだと言われればそうなんだけど、ハーブではないお茶が懐かしいなあ。この世界でも、ないことはない。緑茶やウーロン茶は見たことがないけど、紅茶であれば、街で買うことはできる。かなりの値段がする、高級品になるけど。ただ、ぼくはお茶を入れるのがあまりうまくなくて、紅茶とは相性が悪いんだよな。緑茶やウーロン茶なら、適当に入れてもそこそこ美味しいものができるような気がするけど、紅茶はその点がシビアだ。値段が高いこともあって、今のところ、紅茶はあんまり飲んでいない。買ってはあるんだけどね。

 やっぱり、緑茶ですよ。中国茶にも緑色のがあるらしいけど、それじゃなくて、純粋の日本茶が飲みたい。できれば、思い切り濃厚な、お茶っ葉をちょっと入れすぎてしまったようなやつを。お米はこの世界にもあるんだけど、日本茶はあるのかなあ……。


 と、まあこんな感じで、日々が過ぎていった。

 リトリックは、この世界の街としては大きなほうらしいけど、門から一歩外に出れば、そこはもう大自然の広がる世界だ。近くには、魔物のたまり場になっている森もある。狩りの獲物に困ることはなかった。

 それなりの量の魔物を、コンスタントに納品したおかげか、ぼくは一週間ほどで、FランクからEランクに昇格することができた。


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