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追放された蘇生術師の、死なない異世界放浪記  作者: ココアの丘
第2章 スイーツと山賊篇
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ようこそ、冒険者ギルドへ

 冒険者ギルドを出たところで、ぼくはテッドたちと別れた。

 よさそうな人たちだったから、パーティーに入れてもらって、一緒に活動することも考えた。けど、彼らの活動拠点は、イカルデアなのだそうだ。あの街では、暮らしたくはないからなあ。それに、正式にパーティー加入となったら、ギルドカードの登録が「蘇生術師」であることが、いつかはばれてしまうだろう。今のままでは、相手が誰であっても、一緒に行動するのはちょっとまずそうだ。

 それからしばらくの時間、ぼくはリトリックの街を見て歩いた。ここまでに使った携帯食料を補充したり、食堂に入って久しぶりにちゃんとした料理を食べたり。道具屋に入って、テッドたちが使っていた、お茶用の魔道具セットを探したりした。二軒目で見つけて、さっそく買いました。テッドも言っていたけど、そこそこ高いお値段だったな。

 ただの時間つぶしの散歩のつもりだったんだけど、歩いているうちに、とあるお店が目に入って、ぼくは思わず二度見してしまった。表通りから少し入ったところにある、あんまり目立たない建物だった。そうか、ここって異世界だったっけ。こういうお店もあるんだよなあ……。


 街を一回りしてから、ぼくはもう一度、冒険者ギルドに戻った。そして受付に行き、カウンターの女性に話しかけた。

「あのー、冒険者登録をしたいんですけど……」

 これをするために、報酬の受け取りをテッドに頼んでおいたんだ。あれ、さっきこの人に報酬を渡さなかった? なんてことになったら、二重登録はお断りです、と言われるかもしれないからね。

 登録をし直しても、またギルドカードに蘇生術師と書かれたら、同じことになってしまうだろう。けど、手続きを進めていき、出された水晶玉に手を乗せたところ、受付嬢はこんなことを言った。

「ジョブは……『剣士』、ですね」

「はい、『剣士』、です」

 できるだけ何気ない顔で、ぼくは答えた。受付嬢も、特に不審を抱いたような様子もなく、そのまま作業を進めていく。ぼくはポーカーフェースのまま、心の中でほっと胸をなで下ろしていた。


 ぼくは、鑑定スキルで読み出せるスキルやステータスを、変えることができる。偽装のスキルのおかげだろう。あれからいろいろと試してみたところ、「ジョブ」や「種族」の偽装もできることがわかった。

 ちなみに、現在のぼくのステータスは、こんな感じになっている。カッコの中は、偽装する前のものだ。


【種族】ヒト(マレビト)

【ジョブ】剣士(蘇生術師)

【体力】18/18 (85/85)

【魔力】6/6 (22/22)

【スキル】剣 (蘇生 隠密 偽装 鑑定 探知 縮地 毒耐性 魔法耐性 打撃耐性 小剣 投擲 火魔法 雷魔法)

【スタミナ】 18(69)

【筋力】 17(75)

【精神力】12(33)

【敏捷性】5(7)

【直感】2(6)

【器用さ】2(7)


 最初に冒険者登録をした時、偽装で隠したスキルは、ギルドの水晶玉に表示されなかった。ということは、ジョブを剣士に偽装しておけば、「ジョブ:剣士」でカードを作ることができるんじゃないか、と考えたんだ。ぼくの思惑どおり、ギルドの水晶玉は、偽装後の結果だけを表示してくれた。もちろん、たとえばジョブを「魔術師」にしても、ステータスが変化するわけじゃない。これは単に、表示を変えただけだからね。でもぼくの場合は、その表示を変えることが大事だった。

 ちょっと心配だったのは、ギルドカードには、その人の「魔力の波長」が記録されている、と聞いていたこと。それを使ってチェックされたら、この人は別のジョブでカードを作ってる、とばれてしまうかもしれない。でも、これもたぶん大丈夫だろうとは思っていた。冒険者の功績や犯した罪は、ギルド間で手作業で伝達されるらしい。「手作業で」ということは、全ギルドで統一したデータベースみたいなものは、作られていないんじゃないかな。


 とは思いながらも、ちょっとドキドキして、結果を待っていた。やがて受付嬢が、何かの魔道具らしい箱の中から、金属製の小さな札を取り出した。

「登録料として、銀貨一枚をいただきます」

「はい」

 さっきもらった報酬の中から、ぼくは銀貨をとり出した。

「それでは、こちらがギルドカードになります」

 金属製の札をぼくに渡しながら、彼女はにっこりと微笑んだ。

「冒険者ギルドへようこそ、ユージ・マッケンジーさん」


 ◇


 それからしばらくの間は、リトリックの街で冒険者としての依頼をこなした。

 といっても、まだ登録したてだから、冒険者ランクは一番下のF。このランクだと、申し込めるのは「ドブ掃除」「荷物運び」といった、冒険とは関係ない、ほとんどアルバイトのような仕事が多い。ちょっとでも冒険者っぽいのは、「薬草採取」くらいだろうか。どれも仕事としては安全なんだろうけど、報酬が安いものばかりだ。


 そこで、ぼくが受けたのは「常設依頼」だった。

 これは、依頼の対象となっている魔物を狩り、その肉や魔石をギルドに持っていけば、依頼成功として認めてもらえる、というもの。いつでも納品を受けてくれて、応募は不要なので、冒険者のランクも問われない。対象の魔物はギルドによって少しずつ違うそうで、ここリトリックでは、今までにも狩ったことのあるジャイアントラットや、ホーンラビットという角があるウサギのような魔物、ソードボアという牙が大きなイノシシに似た魔物、が主なところだった。どれも、肉を食用にするのが主な目的らしい。

 ちなみに、ホーンラビットはウサギとは言っても、地球のそれより二回りほどは大きくて、性格も獰猛。しかも肉食だそうだから、外見が似ているだけで、ウサギとは全然違う生き物なんだろう。ただ、人と出会うと、逃げ出すことが多いようだ。この中で一番報酬が高いのは、ソードボアだ。イノシシってことは豚に近いわけで、しかも飼育ではなく天然もの。取れる魔石も大きいから、その分、肉も美味しい。そのへんの食堂の定食では、なかなか出ない肉だったりする。


 こう言った知識は、ギルド備え付けの資料室で調べた。資料室と言っても、冒険者向けに開放されているのは小さな部屋の中の小さなスペースで、置かれている資料も小さめの本棚ひとつぶんだけ。それでも、こういった知識がまったくない素人にとっては、貴重な情報源だった。あんまり使われていないらしく、誰も来なかったので、安心して長居できたしね。


 本話あたりから、主人公の呼び名が「ケンジ」から「ユージ」になります。「ケンジ」を知っている登場人物は別ですが。


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