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追放された蘇生術師の、死なない異世界放浪記  作者: ココアの丘
第2章 スイーツと山賊篇
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平穏無事な旅

 ぼくにとっては初めての護衛の旅だったけど、結果だけを言うと、そこまでの不便を感じることはなかった。

 馬車には商品が満載だから、ぼくら護衛は当然、歩きだ。歩いて馬についていくというと、たいへんそうに聞こえるかもしれない。けれど、そのスピードはほとんど徒歩と変わらなかった。馬車には、けっこうな重さの荷物を積んでいるからね。ただ、山賊の活動が活発化していることを考慮したのか、休憩は少なめだった。一日中歩きが続いたので、テッドのパーティーの魔術師は、ちょっとしんどそうな顔をしていた。

 夜の寝ずの番も、なんとかこなせた。アイロラやシュタールまでの旅を、何度か経験していたからかな。嫌いだったあの訓練も、こうなってみればありがたかったのかも。かといって、王国のやつらに、感謝なんかはしないけどね。そもそも召喚なんてされなければ、こんな目に会わなくて済んだんだから。

 ただ、携行食のまずさは、相変わらずだった。というか、街で買ったそれは、訓練の時にもらったものより、さらに一段まずくなっていた。昔の勇者様も、この方面に知識チートを発揮してくれれば良かったのに。


 そんな携行食を、水筒の水でなんとか喉に流し込んでいると、テッドたちが小さな魔道具を取り出して、なにやらし始めた。良く見るとそれは、小さな円形のコンロと、コンロの形に合わせた金属製のティーポットだった。地球にあった、キャンプ用品の携帯コンロにそっくりだ。ティーポットの方は、なんだか南部鉄瓶っぽい色合いだったけど。

「それ、お湯を沸かす魔道具?」

「ああ。ユージも飲むか?」

「ありがとう。あんまり、見ない道具だね。けっこう貴重品じゃないの?」

 ぼくが尋ねると、テッドはなんだかうれしそうな顔で答えた。

「まあそこそこ、な。少なくともおれたちにとっては、高級品だ。だけど、おれたちの唯一の贅沢として、パーティー全体でお金を出して買ったんだよ」

「あたしは、お湯ならたき火を起こせばいいじゃん、っていったんだけどね」と魔術師が口をはさむ。

「たき火は宿の中では使えないだろ。オレは宿の部屋でも、お茶を飲みたいんだよ。そういうおまえだって、一緒に飲んでるだろ?」

 この世界では、庶民が一般に飲んでいるのは紅茶や緑茶ではなく、いわゆるハーブティーというやつだ。野山に生えている野草を取ってきて、乾燥させたり、生のままで煎じて飲む。Fランクの冒険者向けに、薬草と並んでハーブティーの採取依頼が出ていることもあった。報酬は激安だったけど、あれは何かのついでに取ってきてくれ、という依頼なんだろう。

「燃料は小さな魔石、か。持ち運びやすいように、魔道具とポットでセットになっているんだね。いいなあ、それ。どこで売ってるの?」

「たしか、リトリックの道具屋で買ったんじゃなかったかな。べつに一品ものってわけでもないから、行けば売ってると思うぜ」

 そうなんだ。街に着いたら、探してみよう。元の世界では、ぼくはけっこう、お茶が好きだったからね。本当のところを言うと、マジックバッグを使えば、お湯を作っておいて熱いまま保存する、というのもできないこともない。でも、それだと人前では使えないし、なによりこの魔道具はアイテムとして、面白そうな品だった。あれを使って宿の部屋でお茶を飲むなんて、なかなかいい趣味をしてる。


 このことがきっかけになって、テッドたちのパーティーと話をするようになった。

「しっかし、やっぱこの仕事、安いよな。一日護衛して、銀貨がたった五枚だぜ」

「文句言わないの。それを承知で、応募したんだから」

「そんなに安いのが嫌なら、山賊に出て来てもらうんだな。それで、その山賊を返り討ちにするんだな。そうすれば、金になるぞ」

「へー。返り討ちにしたら、金が入るの?」

「知らないのか? 相手が賞金首にでもなっていれば、その賞金が入る。そうでなくても生け捕りにできれば、そいつをギルドに引き渡して、金になる。ギルドは犯罪奴隷として売って、その一部が冒険者に戻るってわけだ」

 なるほど。護衛依頼には、そういうボーナス的なものもあるんだな。山賊に襲われることが前提だから、欲しいとは思わないけど。

「だけど、実際にはなかなか、そうはならないんだろうな。もしも山賊が襲ってきたら、どうするよ?」

「どうする、って、戦うしかないでしょ。逃げたら依頼失敗になるんだし、そのためにお金をもらうんだから」

「だけど、こっちはEランクが五人だけなんだぞ」

「いや、実を言うと冒険者のランクに関わらず、襲われた時点で、厳しい戦いになると思っておいた方がいいらしいぞ」

 手にした木製のカップを口元に運びながら、テッドは言った。

「というのは、山賊の方も、勝てそうな相手を選んで襲ってくるからだ。例えば山賊が三人組だったら、ぼくらを見て用心して、襲ってはこない。こっちは五人いるし、向こうはぼくらがEクラスだなんて知らないからな。襲ってくるとしたら、十人組の山賊なんだ。

 その上、先に攻撃をしてくるのは、たぶん向こうのほうだからな。人数で負けて、その上先制されるんだからな。厳しくなるのは当然だ」

 テッドの説明に、他の四人はへーなるほど、と感心の声を上げた。テッドは続けた。

「逆に、護衛を依頼する商人たちの方も、そのへんは心得ている。言ってみれば、ぼくたちはお守りみたいなものなんだ。持っていたら、もしかしたら不運から逃れられるかもしれない、程度のな。だから、報酬も安いんだよ。ぼくらはその報酬相応に、働けばいいんだ」

 結局、山賊は現れなかった。とりあえず今回は、その厳しい戦いには臨まずに済んだようだ。


 ただ、山賊は出なかったけど、魔物は出た。以前、森で見たことのある、ファングウルフだ。あのときは目の前を通り過ぎていっただけだったけど、今回は馬車に向かってきたので戦闘になった。馬車と言うより、馬をねらってきた感じだったかな。

 八頭の群れだったけど、特に問題はなかった。まず、まだ距離があるうちに魔術師のファイアーボールで一頭を倒し、接敵したら即座にぼくが一頭を倒して、これで六頭対五人。ファングウルフは群れならDランク相当だけど、単体ではEランク程度の魔物だ。彼我の数に差が無ければ、それほど怖い相手ではない。馬を守りながらでも、難なく全滅させることができた。ちなみに、最初に一頭を倒した時のぼくは、なかなか鮮やかな剣さばきだったらしく、

「剣が使えるってのは、本当だったんだな」

と、テッドにほめられた。はい、実はぼく、「剣」のスキルを持ってるんです。

「先に進むぞ」

 依頼人の商人が声をかけて、馬車が動き始めた。倒した魔物は放っておいて(一応、アンデッド化対策で首ははねておく)、先に進むらしい。テッドは肩をすくめながら、

「もったいないけど、しかたないな」

と馬車について歩き出した。ファングウルフは肉や皮は使わないけど、魔石はもっているからね。あ。解体用のナイフ、買うのを忘れてた。リトリックについたら、買い足そう……。


 こうして、リトリックまでの旅は、わりと平穏無事に終わった。

 街に着き、受付票に依頼人のサインをもらって、ギルドへ向かう。テッドに頼んで、ぼくの分も一緒に報酬を受け取ってもらった。

 初めてもらった報酬は、合計で銀貨二十五枚だった。


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