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追放された蘇生術師の、死なない異世界放浪記  作者: ココアの丘
第1章 王都追放篇
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静かな、森の中で

 目を覚ました時、ぼくの視界に入ってきたのは、突き刺さるように空に向かって伸びている、木の(こずえ)だった。


 森の奥、けもの道の真ん中で、ぼくは仰向けになって寝転んでいた。右足を折り畳んで、右のかかとがおしりの下にあるという、変な格好だった。起き上がろうとしたんだけれど、上手く体が動いてくれない。体をよじって右足を伸ばした後、ようやくのことで体を起こした。右足は、すっかりしびれが切れていた。足の先を軽くさすりながら、ぼくは視線を下に向けた。

 ぼくが装備している革の鎧は、前も後ろも、大量の赤黒い粘液にまみれていた。


 さわって、確かめてみるまでもない。おびただしい量の血だった。ぼくは、どこか諦めたような、いっそ悟りのような心持ちで、自分の身に起きたことを覚った。

 どうやら、またしてもぼくは、死んでしまったらしい。

 服にも、革鎧などの装備にも壊れたところはないから、それ以外の場所に攻撃を受けたんだろう。たぶん、首だな。この大量の出血も、頸動脈あたりを切られたんだとしたら説明がつく。一瞬で意識を失ったことを考えると、もしかしたら、首ごと切断されたのかもしれない。オーガとは、けっこう距離が離れていたはずなんだけどな。そういえばあのオーガ、風魔法を剣にまとわせる、なんて話が出ていたっけ。目には見えない、風の刃でもとばされたのかなあ。それを感じることさえできず、首を一刀両断にはねとばされて……。

 なんだか気持ちが悪くなってきたので、ぼくはそれ以上の追究を止めることにした。

 とりあえず、立ち上がってみる。足のしびれが取れていない上に、長いあいだ変なポーズでいたせいか、右の膝が痛かった。一度は死んでしまったのに、いまさら足がしびれたり、膝が痛いと思うなんて……と、なんだかちょっとおかしくなった。


 森の中は、とても静かだった。

 しかし、周囲の景色には、激しい戦闘の跡がくっきりと残されていた。深くえぐるように踏み荒らされた地面、すっぱりと切断された木の幹。まるで力任せに破壊されたような、ささくれだった折れ跡の見える倒木もあった。足を少し引きずりながら、ぼくは戦いの跡をたどっていった。その痕跡は、村に戻る方向へ向かって続いている。そして、さっき通りすぎたばかりの森の中の広場で、とうとうぼくは、それを発見した。

 地面の上に、変異種のオーガが横たわっていた。

 ついさっきまで、あれほどの闘気をあたりにまき散らしていた怪物が、今はぴくりとも動かなかった。間違いなく、死んでいるだろう。なにしろ、脳天から股にかけて、文字通り真っ二つに切断されているんだから。驚いたことには、死体の足下にある岩までもが、二つに切られていた。割れているのではなく、きれいな切断面を見せて、両断されている。ぼくは思わず、ぞくりとした。たぶん、ビクトル団長のしわざだろう。すごい。さすがは、剣神とうたわれる人だ。オーガごとき自分一人で十分だ、と豪語するだけのことはある。

 と、ここまで考えて、ぼくはふと、疑問に思った。


 どうしてぼくは、あんなところで寝ていたんだろう?


 一度殺されて、さっきの場所で生き返った。それはいい。それから、ビクトルがオーガを打ち破ったのも、間違いはなさそうだった。でも、だとしたらどうして、ぼくはあそこに放っておかれたんだろう。もう死んだと思われて、そのままにしておかれたんだろうか? だけど、ぼくがやがて生き返るだろうことは、団長だって知っていたはずだ。なにしろ、蘇生スキルの実験に立ち会った、当事者なんだから。では、こいつはどうせ生き返るからと、村への報告を優先して、ぼくを放って帰ってしまったのか? それもちょっと、不自然な気がする。オーガが倒された今、当面の脅威はなくなったんだ。そこまで急いで、村に戻る必要はない。それに、ぼくという人間を軽く見ているにしたって、それはちょっと薄情すぎるだろう。いくら、このヤバい国の人間だとしても。

 でも、そうだったらいいな、とも、ぼくは思っていた。もしもそうでなかった場合、なにか大変なことになりそうだったから。


 そして、その答はすぐにわかった。


 オーガの死体から少し離れたところで、全身を鎧で包んだ大男が、大きな岩に腰を下ろしていた。すぐ近くに、彼のものらしい大剣が立てかけられている。白銀色の鎧はそこら中が傷つき、ひしゃげていて、激しい戦いがあったことを物語っていた。中でも、右胸と左脇腹につけられた傷は完全に鎧を突き破っているらしく、その穴から大量の血が流れ出ていた。

「あのー、だいじょうぶですか、団長」

 ぼくは、その男に声をかけた。

「だいじょうぶなら、返事をしてください。ねえ。ねえったら。お願いですから、返事を……」

 だけど、何度呼びかけても、男は返事を返そうとはしなかった。


 巨岩に腰を掛けるような格好で、ビクトル騎士団長は息絶えていた。


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