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追放された蘇生術師の、死なない異世界放浪記  作者: ココアの丘
第1章 王都追放篇
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またなにかやっちゃいました?

「それでは勇者様方。こちらの『具眼の宝玉』に手をかざしてください」


 こう言われたぼくたちは、なんとなく、互いに目を交わし合った。

 たぶんこの玉に手を置くと、ぼくらにどんな能力があるのか、わかるんだろうな。そして、この中の誰が勇者なのかも。おまえが行けよ、いやおまえから先に、いやいや、どうぞどうぞどうぞ。瞬間的に交わされる微妙な譲り合いの中、真っ先に「はい!」と手を上げたのは、黒木だった。黒木はそのまま前に進み出ると、ためらう素振りもなく、右手を宝玉の前に突き出した。宝玉はぼんやりとした光を放ち始める。

 まてよ。もしかしたら、こういうやつが意外と本当に──

「おぬしのジョブは、農術師、じゃな」

 黒木はがっくりと肩を落とした。

 あ、やっぱりね。

 農術師というのはよくわからないけど、字面の印象からすると、地味なジョブ、って感じがする。宝玉には「農術師」の他にもいろんな文字が浮き出ていて、エルベルトの横に座った事務職員っぽい制服の人が、一生懸命にメモを取っていた。メモの用紙は普通に紙だったけど、ペンは羽根ペンってやつで、やっぱり文明は中世西洋レベルか。

 ちなみに、文字の方も読めました。英語のアルファベットとは全然違う、どことなくアラビア風の字だったけど、「言語理解」は書かれた字にも働いてくれるみたいだ。

 黒木に続いて、クラスメートたちが次々と宝玉に向かった。

「盗賊」

「錬成師」

「魔術師。属性は土、じゃな」

 「重騎士」が出た時にはじいさんたちが少しざわつき、「アサシン」の時にはクラスメートがざわついたけど、「勇者」はまだ出ていなかった。半分ほどが終わって、残った半分がもしかしたらオレ? 私? と思い始めただろう頃に、それは起こった。


「それでは、次の者……むっ、なんじゃこれは!」

 宝玉が、いきなり強く光りだした。エルベルトは片手で顔を覆いながらも、なんとか目を開いて、そこに浮かぶ字を読み取ろうとする。

「……ゆ、勇者! おお姫様! 勇者様がおられましたぞ!」

 じいさんは涙目で、大声を上げた。

 周りを取り巻いていた騎士たちからも、歓声が上がった。流した涙はまぶしかったせいかもしれないけど、うれしいのはうれしかったんだろう。召喚がどれだけ高等な技術なのかを、熱弁していたからね。これだけ喜んでいると言うことは、逆に言うと召喚した中に勇者がいない、なんてこともあり得たのかな。

 「勇者」が玉から手を離し、それとともに光も収まった。宝玉の前に立っていたのは……


「あー、やっぱり一ノ宮くんかあ」

 ぼくの隣にいた女子生徒が、いかにも納得、といった感じの声を漏らした。

 その場にいた全員の注目を浴びて、照れくさそうに頭をかいていたのは、一ノ宮だった。あれ、オレまたなにかやっちゃいました? みたいな格好にも見える。黒木あたりがやったら腹が立ちそうな仕草だけど、イケメンがやるとなんだかさまになるのが、やっぱりちょっと、腹立たしい。


 ところが、勇者発見の興奮(と落胆)が収まらないうちに、再び強烈な光が視界を覆った。さっきと同じくらいに強い光が、部屋中を照らす。

「せ、聖女! 聖女様じゃ!」

 涙目のまま、エルベルトがまた叫んだ。横の職員も、細めた目に涙をにじませながら、必死の形相でペンを走らせている。周りからは再びどよめきと、そして歓声が上がった。

「おお、聖女様まで……」

「なんという成果だ」

「これで魔王国の命運は、尽きたも同然ですな」

 周囲の人たちが、さっき以上に興奮した様子で話している。勇者と聖女、か。これがゲームなら、この二人がいれば攻略できそうだよね。セーブポイントがあればだけど。

 強い光は、まだ続いていた。光に目をやられて、宝玉に浮かんだ字を書き写すのに時間がかかっているらしい。しばらくして、ようやく光が消えると、テーブルの前に立っていたのは一人の女子生徒だった。一ノ宮がそこに歩み寄り、何か話しかけている。隣の女子が、またつぶやいた。


「ふーん。白河さんが、聖女ねえ」

 ちょっと嫉妬の混じったような声だったけど、それでも納得した調子だったのは、委員長の人柄のおかげかね。当の白河さんはと言うと、エルベルトとほか数人の老人たちに取り囲まれて、戸惑ったような表情を浮かべている。エルベルトはいかにも上機嫌と言った感じで、大げさな身振りで、彼女になにやら語りかけていた。


 二つの大きな興奮の波が過ぎてしまうと、その後は消化試合のような雰囲気になっていた。

 召喚した側もされた側も、なんとなくダレた感じになって、流れ作業的に鑑定が進んでいく。宝玉を読む係も、エルベルトから別のおじいさんに変わっていた。ぼくもなんだか気が抜けてしまって、気がつくと、鑑定を受けるのは、ぼくが最後の一人になっていた。

「名前は?」

「夕島研二……。あ、研二・夕島です」

「ケンジ・ユージマか。では、宝玉に手をかざして」

 見た目が白人の人に言われると、どうしても「研二」ではなく「ケンジ」に聞こえる。正確には、「ケーンジ」。ちなみに、この国、というよりこの世界では、名前は名・姓の順番にするのが一般的らしい。それから、貴族以外の人は名字が無いこともあるけれど、国や地域によっては、平民でも姓をもっているとのこと。そのせいか、名字を名乗っても「貴族か?」などとは、聞き返されなかった。

 ぼくは他のみんなと同じように、宝玉の上に手をかざした。ぼんやりと光りが灯り、文字が浮き出る。ところが、係のおじいさんは、なかなか結果を読み上げようとしなかった。事務の人に目線をやり、相手も困ったように首をかしげている。なんだか雰囲気がおかしい。それも、勇者や聖女の時とは違って、興奮というよりも困惑しているような表情だった。

 目線でのやりとりがしばらく続いたあとで、じいさんが言った。

「おぬしのジョブは……『蘇生術師』じゃ」


 宝玉に浮かんでいたのは、こんな文字だった。


 【ジョブ】蘇生術師

 【体力】10/10

 【魔力】10/10

 【スキル】蘇生Lv1

 【スタミナ】 8

 【筋力】 9

 【精神力】7

 【敏捷性】Lv3

 【直感】Lv1

 【器用さ】Lv4



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