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追放された蘇生術師の、死なない異世界放浪記  作者: ココアの丘
第1章 王都追放篇
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勇者一行とは名乗らない

 その後、シュタールへ戻り、村長に結果を報告。村に一泊してから(宿なんてなかったので、テント泊だった)、ぼくらはアイロラの街に戻ってきた。

 初めての依頼を無事に終えて、どことなくのんびりした気分で大通りを進む。馬車にゆられながら、改めて街並みを眺めてみると、そこを歩いている人たちは、元の世界で言う「白人」ばかりだった。ただし、この世界にも黄色人種や黒人はいるらしい。また、ラノベなどによく出てくる獣人やエルフ、ドワーフといった、いわゆる「亜人」っぽい種族も見かけなかったけど、こちらもこの世界にいないわけではないそうだ。この王国はヒト族至上主義なので、そういった種族が少ないんだとか。

 それにしても、イカルデアをパレードした時にも思ったけど、高層建築でもない建物が見渡す限りずらっと続いているのって、なんて言うか、かえってすごみを感じる。科学技術なんて使わなくても、おれたちはここまでやってるんだぞ、って言われているような気がするよね。今に、慣れるんだろうけど。


 冒険者ギルドの支部に寄り、依頼達成の報告をしてから、拠点にしている宿に戻った。宿に着いてみると、一ノ宮たち勇者パーティーもちょうど、依頼から戻ってきたところだった。

 声をかけようとしてみたが、一ノ宮はおまえらなど眼中にない、といった感じですぐに宿に入ってしまい、白河さんも笑顔で一礼をして一ノ宮に続いた。柏木さんも白河さんの後を追っていく。重騎士の上条だけが、片手を上げながらこっちに近づいてきた。

「新田! 久しぶりだな。そっちはだいじょうぶだったか」

「なんとかな。そっちはどうだった? 勇者の仲間ってなると、とんでもなく強いやつと戦わされたんじゃないのか?」

 新田も笑顔で言葉を返した。そういえば、学校にいたとき、こいつらけっこう仲良かったっけ。二人とも大柄で、細かいことは気にしない脳筋タイプという感じで……ちなみに、ぼくたちのパーティーは、アイロラでもシュタールでも「勇者の一行」などと名乗ってはいない。ジルベール曰く、「勇者一行がゴブリン退治の依頼を受けて、それに失敗したりしたら面目が立たないだろ」だそうだ。ごもっともです。

「ああ。相手はオークっていう、ブタ顔で筋肉質の大男、って感じの魔物だった。小さな群れだったから、五人なら楽勝だったな。っていうかビクトルさんも、初めての実戦だし、相手は魔物だけど人間っぽい姿をしていてやりにくいだろうからって、楽な相手を用意してくれたみたいだ」

 なるほど。一ノ宮たちは圧倒的な実力の高さにより、ぼくらは圧倒的な目標の低さ(ゴブリン)によって、早めに戻ってこれたらしい。それで、宿の前で鉢合わせすることになったのか。それと、ビクトルって騎士団長のことだよね。勇者パーティーは、団長じきじきの指導を受けているんだな。

 それにしても、「五人」ってなんだろう。むこうのパーティーでは、団長も戦いに参加してくれるんだろうか。新田も同じところが気になったらしく、

「五人って、団長も一緒に戦ってくれたのか?」

「いや。直接の指導役はテリーさんで、団長は指導役の指導役、みたいな感じかな。二人とも、後ろで見てるだけで、戦ってはくれない。その代わりに、案内役としてベテランの冒険者の人が一人、ついてくれていたんだ。ジョブはシーフで、索敵とか罠の発見とかが得意らしい。戦闘はメインじゃないって言ってたけど、攻撃もけっこうすごかったぜ。一瞬で、相手の喉元をかっ切ってよ。さすがは、Aランクの冒険者だった。おまえらのパーティーには、いなかったのか?」

「いねえよ! 何だよその差別!」

 やっぱり、扱いに差が出るんだなあ。まあ、ゴブリン相手にそんなのいらないだろ、と言われたらそれまでですが。

 ちなみに、冒険者のランクにはS~Fランクがあるわけだけど、Sランクはすごい功績を挙げた冒険者に、例外的に与えられるもので、この国全体でも数人しかいないらしい。勇者パーティーには、事実上の最高ランクの冒険者がついているわけだ。

 憤慨する新田を軽くなだめてから、上条は話題を変えた。

「そういえば一度だけ、団長が戦ってくれたこともあったな。あれはオークの群れとの戦いが終わった後だった。一匹だけ、遅れて出てきたオークがいたんだ。一匹だったけど、けっこうでかいやつだったな。隊列を組み直して、壁役の俺が前に出ようとしたら、疲れただろうから、君たちは下がっていなさい、って団長が言ってくれたんだ。自分の剣を見て参考にしろ、ってね。

 団長は一人だけで、オークの前に進み出た。そして剣を抜いて、何かの呪文を唱えたんだ。そうしたら、団長の剣がぽっ、と光り出してさ」

「剣が光った? なんだよそれ」

「団長は雷魔法が使えるんだけど、その雷を剣にまとわりつかせたんだ。いやー、すごい切れ味だった。オークって、皮下脂肪がすごく厚くて、剣で切ってもなかなか筋肉まで届かなかったり、切った脂で切れ味がすごく悪くなったりするんだけどさ。団長は剣を一振りしただけで、そのオークの胴体を、すっぱり真っ二つにしちまったんだ。

 魔法剣、っていう技らしい。『魔法剣』というスキルがあるんじゃなくて、剣と魔法の修練で出来るようになる技だってよ」

「魔法剣? おー、すげー異世界っぽい。見たかったなあ。おれも、やりてーなあ」

「やりてーよなあ。でもその前に、雷魔法を覚えないと駄目なんだけどさ」

「あ、やっぱ、そうか」

「ああ。雷じゃなくても、火や風なんかでも出来るらしいけど、どっちにしろ俺は使えねえからなあ」

「俺もだ」

 二人でひとしきり悔しがった後で、上条が尋ねた。

「ところで、この後はなにか用事があるのか?」

「今日一日は休みだな。明日、ギルドで依頼を受けて、あさってあたりに、またどこかへ出かけるらしい」

「おれたちも同じだ。一日二日なんてケチなこと言わないで、一週間くらいは休ませて欲しいよな」

「しばらくは、これの繰り返しなのかな。だとすると、たまにはまた、こんなふうに会えるのかもしれないな」

「いや、それがどうも、そうでもないらしい。これは騎士の人に聞いた話で、まだ本決まりじゃないんだが、もう少ししたら、おれたちはこの街から離れる。そして、もっと魔族の国に近い街に移動するそうだ。それに合わせて、他のみんなもいろんな街に散らばるみたいだぞ。ここでやってるのは新入生向けの説明会みたいなもんで、そのあとで各クラスに分けられる、ってところかもな」

 上条は言った。軽い口調だったが、それはつまり、もっと強い敵がいる場所へ行く、と言うことなのだろう。勇者パーティーにとっては、これからがいよいよ、本当の戦いになるのかもしれない。

「そうか……ま、とりあえずは、今日は休みなんだ。どっか、遊びに行こうぜ? 異世界の街、ってやつに繰り出してよ」

「いいね。依頼の成功報酬ももらったし、うまいもんでも探しに行こう」

「悪いけど、俺は金、持ってないぜ。なにしろ相手がゴブリンだったから」

「いいっていいって。今日のところは、おれがおごってやるよ」

 新田は上条とつれだって、アイロラの中心街の方向へ歩いて行った。大高と黒木はお疲れの様子で、とぼとぼと宿へ入っていく。ぼくは、さっきの上条の言葉を思い返していた。もう少ししたら、勇者パーティーやその他のクラスメートとも、お別れになるのか。

 そうなる前に、あの人にメモでも渡しておくことにするかな。


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