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追放された蘇生術師の、死なない異世界放浪記  作者: ココアの丘
第1章 王都追放篇
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異世界キャンプは楽しくない

 廊下で寝落ちした次の日、ぼくはびっくりするようなことを知らされた。

 なんと、魔族が王城を襲ったんだそうだ。花火みたいな音を聞いた気がしたけど、あれは攻撃魔法の爆発音だったらしい。大高や黒木たちは部屋から出るなと言いつけられて、一生懸命に窓から外をのぞいており、火系統の魔法と思われる光が打ち上がったり、炎から落ちてくるのを見て、大騒ぎだったそうだ。小型の竜の一種(ワイバーンという、竜騎士などが騎乗する種類)が城の上空を飛んでいたらしいけど、新月だったので何も見えなかった、と黒木が言っていた。

 幸い、城には大きな被害はなく、そのうちに「撃退した」との知らせがあって、それでおしまい。もちろん、クラスのみんなもケガ一つしなかったそうだ。

 ぼくはというと……どうやら、存在そのものを忘れられていたらしい。部屋を移った直後だもの、しかたないよね(涙)。どうりで、朝ご飯が届かないはずだ。でもまあ、マジックバッグの件を考えると、その方がよかったかもしれない。そうか、あれが落ちていたのは、襲撃の騒ぎでゴタゴタしていたからなのか。

 ちなみに、あれから「バッグが落ちていなかったか」などと質問されることはなく、バッグは無事、手に入れることができました。今は大事に、ぼくのリュックの底に隠している。


 さらにその翌日、またしてもびっくりする発表があった。なんと、勇者を含めたぼくら全員が、パーティーを組んで魔物退治に出ることになったんだそうだ。しかも、出発は二日後。それまでそんな話はまったく聞いていなかったから、とにかく驚いた。大高は、

「先日の攻撃が、なにかしらに影響したんでしょうなあ」

などと言っていたが、そんな彼にも詳しいことがわかるはずもない。ともかく、ぼくたちも含めて、城の中は大騒ぎになった。その日と翌日は訓練も中止になって、ぼくたちも出発の準備を手伝わされた。あ、ぼくは三班の四人部屋に戻されたけど、とにかくゴタゴタしていて、一人部屋を懐かしむどころではなかった。


 そして出発の当日。三度目にびっくりしたことに、ぼくたちはパレードをさせられた。

 勇者の国民へのお披露目と、魔王討伐の旅の出発を記念してのパレード、なんだそうだ。歓声を上げる人たちの中、きらびやかに飾られた馬車に乗せられ、大勢の人に注目されながら、通りをゆっくりと進む。あんな経験は、人生初めてのことだった。もちろん、パレードの主役は一ノ宮たち勇者パーティーで、ぼくらは行列の後ろの方をついていっただけだったけど。それにしても、一ノ宮のあれは、はしゃぎすぎじゃないかな。馬車から身を乗り出して手を振るなんて。もしも元の世界に戻ることができたら、間違いなく黒歴史になるだろうね。

 ちなみに、ぼくたちの装備は、城の訓練で着ていたチェーンメイルから、いかにも冒険者っぽい革の鎧に変わっていた。この方が軽くて動きやすいと、三班の連中には好評だったけど、どうしてここで装備が変えられたんだろう。勇者たちの装備は変わっていないのに、ちょっと不思議だ。

 ともあれ、こうしてぼくらは、城と都を後にして「魔王討伐の旅」に出かけることになったのだった。


 ◇


 パレードが王都を出ると、途中で馬車を乗り換えて(最初に乗った馬車は、パレード用の装飾過多のものだったらしい)から、アイロラという街まで、一週間の旅路に出発したんだけど……。

 はっきり言って、苦痛だった。


 最初のうちこそ物珍しかった馬車や騎士の姿(ジルベールたち騎士団は、馬に乗って馬車の前後を走っていた)、そしてあたりの風景だったけど、すぐに飽きてしまった。風景なんて、畑と原っぱと遠くに見える山並みが、とにかく延々と続くだけなのだ。「今は山中 今は浜 今は鉄橋渡るぞと」という、列車に乗ったときの情景を歌った有名な童謡があるけど、こういう歌詞は実は日本独特で、外国ではそんなに頻繁に景色が変わることはない、という話を聞いたことがある。どうやらこの世界の景色は、日本風ではないらしい。

 馬車の乗り心地も、それはそれはひどいものだった。これも最初のうちは、笑いも交えて「おしりが痛え」と言いあっていたんだけど、そのうちに車内の全員が、右と左のおしりを交互に持ち上げるようになった。これはぼくらの馬車だけではなかったようで、食事休憩で馬車が停まった時には、クラス全員がそろって、降りた後におしりに手を当てていた。あの一ノ宮でさえ、顔を歪めて、勇者らしからぬポーズをしていたほどだ。白河さんが回復魔法をかけようとしたけど、騎士に止められていたな。こういうのは、慣れてもらうしかないんだって。魔法で回復させると、体の「慣れ」も元に戻ってしまうので、やめておいた方がいいらしい。でも、どうにかして痛みだけでも取ってくれないかなあ。

 そして最悪なのが、食事だった。食事として出されたのは、携行食糧と水だけ。スープなど、温かいものは一切無かった。この携行食、形はカロリー○イトに似ているんだけど、ちょっと色が土っぽくて、あれほどきれいに整形されていない。表面から、何かの繊維のようなものが突き出ている。匂いも独特の発酵臭がして、かなりくさい。歯ごたえもありすぎてかむのに苦労するし、保存用だからしかたないけど、パサパサで口の中の水分を全部持って行かれる。

 そして一番肝心な味が、はっきり言って不味い。何が原料なのか知らないけど、なんて言うか、生臭さを感じさせる味だ。ほのかに酸っぱい味も混じっているので、本能的に吐き出したくなってしまう。実はこの携行食、この世界の人たちの間でもまずいことで知られているそうだ。これが三食続けて出されるんだから、それだけで気が滅入ってくる。キャンプ生活って、ちょっとだけ楽しみにしていた気持ちもあったんだけどね。

 夜はテント泊で、もちろん、クッションの効いた敷きパッドなんてものはない。そのままテントの生地の上に寝ます。テントを設置した後で、石ころに気づいたら最悪だね。さらにその上に、交代で寝ずの番をさせられたのがきつかった。四交替で見張りをしたので、睡眠時間が削られた上に、眠りが寸断されてしまったんだ。その分、昼間に眠らせてくれればよかったんだけど、あの馬車ではね……魔物や盗賊を警戒しなければいけないのは、わかるんだけど。

 ただ、夜の間も含めて、魔物にも盗賊にも出くわすことはなかった。あれだけの大人数で移動し、その周りを騎士が守っているんだから、当たり前と言えば当たり前だったのかもしれない。


 そんな感じで旅を続けて、三日目の夕方。

 その日の宿営地で馬車を降りて、ぼくらがテントの準備を始めたとき、周囲の警戒をしていた冒険者の一団が戻ってきた。ここまで書いていなかったけど、この旅行には騎士団だけではなく、何人かの冒険者も、同行してくれている。で、その冒険者の一人が、ビクトル騎士団長になにか報告した。すると、騎士全員が集められ、その後すぐに、ぼくたち全員に集合がかかった。どうしたんだろうと思っていたら、団長からこんな説明があった。


「この近くの森に、ゴブリンの集落があるらしい」


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