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追放された蘇生術師の、死なない異世界放浪記  作者: ココアの丘
第4章 勇者と聖剣篇
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ハーピーの島

 改めてスタートしたぼくたちは、最初の橋をなんとか渡り終えて、次の浮島にたどり着くことができた。

 いちど渡ってしまうと、その後は順調だった。柏木も特に怖がる様子は見せずに、普通に橋を渡ることが出来るようになっていた。ブレイブの魔法が効いたのかもしれない。

「右後方、何か来る。数は二つ」

 四層で最初の敵が探知スキルに引っかかったので、ぼくは報告した。これだけ見晴らしが良ければ、スキルよりも肉眼の方が遠くまで見渡せるんだけど、橋を渡る時には、どうしても手元足下を見がちになってしまう。目を上げたしても、せいぜい前方を見るだけだろう。後方までチェックできる探知スキルは、それなりに有用だった。

「了解。警戒体勢を取りながら、速く進もう。できれば、橋を渡りきりたい」

 一ノ宮が指示を出した。彼の言うとおり、橋の上ではあんまり戦いたくはない。だけど、この層に出てくるのは空を飛ぶ敵ばかりで、つまりは移動スピードが速い。次の島にたどり着く前に、魔物に追いつかれてしまった。

「来たよ!」

 ぼくは叫んだ。現れたのは鳥に似た魔物で、ぼくらの上空に来て旋回している。翼を広げた全長は二mほど、デスホークという魔物らしい。そのうちに、二匹のうちの一匹が動きを見せた。円形の旋回コースを外れ、両足の鋭い爪を大きく広げて、最後尾の上条めがけて急降下してきたんだ。

 上条も剣をふるって迎え撃とうとしたけど、彼が立っているのは吊り橋の上。少しでも重心を動かすと揺れてしまう不安定な足場では、剣に体重を乗せることができない。力の抜けた一撃は、あえなく空振りとなった。

「チ、ミスった!」

 剣をよけたデスホークは、中空で瞬時ホバリングすると、改めて上条に襲いかかった。上条は右肘で顔を覆って、鋭い爪を避けようとする。が、次の瞬間、デスホークの体は大きく後ろへはじけ飛んで、そのまま落下していった。ぼくは上条に声をかけた。

「だいじょうぶか、上条?」

「ああ、なんとかな。今のは何だ?」

「石を投げつけたんだよ。一瞬、動きが止まってくれたんで、楽に当てられた」

 今の言葉どおり、ぼくはデスホークがホバリングした隙を狙って、投擲のスキルを使って石を投げていた。おとといの海のエリアでは、ずーっと小石の浜が続いていたから、手頃な石が選び放題、拾い放題だった。かなりの量の石を、マジックバッグにストックできていた。

「それより、まだ一匹残っているから、そっちに集中してくれ。やっぱり剣だと厳しそうだから、魔法の使える人、頼んだよ」

「わかった」

 答えたのは柏木だった。そんなことを話している先から、もう一匹のデスホークが降下を始めた。小さく見えていた魔物の姿が、どんどん大きくなってくる。今度の標的は、ぼくらしかった。念のため、刀を抜いて迎撃の準備をする。が、ホークの爪がぼくに届くより先に、柏木の詠唱が終わった。

「《ファイアーボール》!」

 降下姿勢の魔物に向かって、炎の塊が宙を走った。よけることもできずに、デスホークは炎に飲み込まれる。そして次第に失速しながら、雲の中へと落下していった。

「柏木さん、サンキュ」

「どういたしまして。でも、もっと早く、魔法を使うべきだったのかな」

「そうだね。さっきも言ったけど、このエリアは柏木さん、白河さんが頼りだ。危ないと思ったら、躊躇(ちゅうちょ)なく使ってくれ。それじゃ、先に進もう」

 一ノ宮が話を引き取って、ぼくたちは再び、橋を歩き始めた。


 その後も何度か、鳥型の魔物の襲撃を受けた。が、相手が二、三匹と数が少なかったのと、高い所から降下して爪で襲ってくるという、ある意味ワンパターンの攻撃方法だったため、比較的楽に対処できた。デスホークもそうだったけど、降下スピードそのままにぶつかってくるわけではなく、爪で襲おうとする直前、羽を広げて減速するんだよね。そこを狙えば、魔法を当てたり、投擲で石を当てるのは簡単だった。

 そうして進んだ何個目かの浮島で、ぼくたちは岩陰に隠れて、息をひそめていた。

「ユージが探知したとおりだな。時々、飛んだり降りたりするやつがいるのが見える。全体の数までは、わからないけど」

 岩の向こうを覗いていた上条が戻ってきて、小声で報告した。ぼくが補足する。

「探知が正しければ、三十以上はいるだろうね」

「かなりの数だな。で、どうするよ?」

 きかれた一ノ宮は、うーん、とうなって答えなかった。

 ぼくたちがいる浮島には、特に問題があるわけではなかった。だけど、この島の右遠方には、一つ大きめの島が浮いている。ここからの距離は、百メートルちょっとだろうか。岩だらけのその島が、魔物の巣になっていたのだ。

 そこにいるのは、人間の女性のような顔を持つ魔物。ただし、両腕は肩のところから翼になっており、足も猛禽類のそれに似て、鋭い爪を持っている。ハーピーだった。その性質は獰猛で、ひとたび敵を発見すると、群れをなして襲っていくという。

 ただ、当のハーピーたちは、今のところ何の動きも起こしていない。こちらには気づいていないように見えた。白河が言った。

「このままなら、戦わずにすむかもしれませんね」

「ただ、距離が微妙だな。そこそこ近いから、すんなり通らせてくれるかどうか。どうする、一ノ宮?」

 上条に再度問われて、一ノ宮は柏木にきいた。

「あいつらを、一撃で倒す魔法はあるかな」

「そうね。ちょっと距離が遠いけど、火系統の『エクスプロージョン』なら、たぶん……攻撃力と攻撃範囲が一番大きいのは、あの魔法だから」

「それで、不意打ちはできる?」

「たぶん、できると思う。途中で気づかれたとしても、飛び立つ前に詠唱は終わってるだろうから。でも、いいの? まだ、攻撃されたわけでもないけど」

「やむを得ないよ。このまま、ずっと後ろを気にしながら進むわけにもいかない。それに、先に進んで別の魔物に遭遇した時、背後からあいつらに襲われて、挟み撃ちになったりしたら最悪だ。そんな危険は、できるだけ排除しておかないと」

「わかった」

 一ノ宮の言葉に、柏木はうなずいた。そして、みんなから少し距離を取って、魔法の詠唱を始めた。

 が、その直後、異変は起こった。



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