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追放された蘇生術師の、死なない異世界放浪記  作者: ココアの丘
第3章 迷宮の踏破者篇
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地上への帰還

 迷宮の出口を取り囲んでいたのは、ストレアの街の冒険者たちだった。


 話を聞いてみると、ぼくが迷宮の出口を出る少し前に、大量の魔物が、迷宮の出口からあふれ出てきたんだという。魔物というのは、ほとんどすべてが、大小様々な種類のアラネアだったらしい。スタンピードの発生が疑われたけど、魔物はそれっきり現れなかった。どうも様子がおかしいというので、とりあえずは冒険者で出口を固めて、成り行きを見守っていたんだそうだ。

 魔物があふれ出たというのは、たぶん、マザーアラネアが死んだ時だろうな。そうか。マザーアラネアが倒されたということは、迷宮の主が倒されて、新しい主が生まれたと言うこと。少なくともアラネアたちにとっては、そう感じられたんだろう。この迷宮にいたアラネアたちは、倒された旧ボスの眷属たちだ。だから彼らは、この迷宮から逃げ出したのか。

 もしかしたら、それは単なる逃亡ではなく、新しい支配地を求めての出発、だったのかもしれないけれど。


 それはともかく、そんな警戒をしているところに、冒険者の格好をした者が出ていったものだから、これはスタンピード発生ではなく、迷宮の踏破だと思われてしまったらしい。しかもその手には、クモ糸のベッドでくるんだ、大きな魔石があったしね。ぼくが出ていった時、歓声が上がったのはそう言うわけだった。

 当然、ぼくはその場にいた全員の注目の的になった。あんまりうれしいことではなかったけど、あれだけ注目を集めていれば、アネットもこっそり抜け出すことができたに違いない。


 ◇


「すると、迷宮の主であるマザーアラネアと、二頭のクイーンアラネアが争っていた。その結果、クイーンアラネアはどちらも倒されたが、勝ち残ったマザーアラネアも瀕死の状態で、しばらくして死んでしまった。こういうことだな?」

 ぼくの前のソファーに座っている老人が尋ねてきた。その声はとても太く、どっしりしていて、とても六十過ぎの高齢者とは思えない。

「はい。どちらもブレスを放ったり、互いの足を食いちぎったりしての、すごい戦いでした。ですから、ぼくが迷宮の主を倒したというわけではなくてですね。本当に運良く、漁夫の利を得ることができた、という感じでした」

「まあ、そうだろうな。あの大きさのアラネア三頭を倒すとなると、一人ではとても無理だろう。あいつらの体に付いていた傷も、剣で付けたようなものではなかったらしいからな。

 主の部屋には、三頭の他にもグレーター級のアラネアが大量に死んでいたそうだが、あれは?」

「三頭の戦いに巻き込まれたんです。あの時は、たくさんのアラネアが部屋の入り口に詰めかけていて、戦いの行方を見守っていましたから」

 老人はううむ、とうなって、腕を組んだ。


 ここはストレアの冒険者ギルドの応接室。ぼくの前にいるのは、ギルド長のエドマンドだ。

 あの後すぐ、ぼくは迷宮の前に陣取っていたエドマンドの前に連れていかれて、事情を聞かれた。

 迷宮の主だったマザーアラネアが倒れたことを説明すると、それを聞いたエドマンドは、即座に冒険者をボス部屋へ派遣した。魔物のいない一本道を行くだけなので、冒険者は簡単に迷宮最深部へたどり着くことができ、中の様子を持ち帰って報告した。その結果を受け、改めての事情聴取を受けているところだった。

 ちなみに、なぜ迷宮に入り、どうしてボス部屋に行ってしまったかについては、ほぼ正直に説明してある。ライヘンの滝を見ていて、滝壺に落ちてしまったこと。水から上がったら、それが迷宮の中だったこと。逃げようと思ったけど、アラネアの群れに追いかけられて、逆にボス部屋へと追い詰められてしまったこと。もちろん、アネットのことは省いてだけど。

 あ。小部屋に作っておいた、トイレのことを忘れてた。あれが見つかったらどうしよう……まあいいか。あそこは迷宮でもはずれの場所だと思うし、今回は、あんな所まで調べには行かないだろう。


「ところで、おまえが持ち込んできたのは、マザーアラネアの魔石だけだったな。クイーンアラネアはどうなったんだ? 冒険者に確認させたところ、二頭のクイーンアラネアの魔石が、見当たらなかったそうだが」

「それはわかりません。ぼくは、マザーアラネアの魔石を運ぶだけで手一杯だったので、そっちは調べませんでした。たぶんですけど、マザーアラネアの攻撃で壊れてしまったんじゃないですか?」

 これについては、うまい言い訳が見つからなかったので、こう答えるしかなかった。三つの大きな魔石を一人で運ぶことなんて、マジックバッグ無しでは、できないからね。もちろん、マジックバッグのことを話すつもりはない。クイーンアラネアの魔石の方は、当分は死蔵することになりそうだな。

「そうか。実は、あの時迷宮の出口を囲んでいた冒険者の中に、妙なことを言っているやつがいてな。おまえが迷宮から出てきた直後に、もう一人、あそこから出てきたような気がする、というんだ」

 エドマンドの言葉に、ぼくは内心ドキッとしていた。アネットが見つかってしまったんだろうか?

「え、もう一人? まったく気がつきませんでしたけど、そんなやつがいたんですか?」

「いや、ほとんどの冒険者は、おまえが一人きりで出てきたと言っているし、俺にもそう見えていた。誰かいたかもしれないと言いだしたのは、『直感』のステータスが高い冒険者だ。問題の人物が隠密のスキルでも持っていれば、隠れて出るのも不可能ではない。そいつが、クイーンアラネアの魔石を奪い取ったんじゃないかと思ったんだが」

「はあ。ですがしかし──」

「だが、それもおかしな話だ。それほどのスキルを持ったやつなら、おまえを殺して全部の魔石を独り占めすることもできたはずだし、重すぎて持ち去るのが難しかったとしても、クイーンアラネアではなく、より上位のマザーアラネアの魔石を狙うのが当然だ。

 だから、もしかしたらおまえに仲間がいて、こっそりと持ち出したんじゃないかと思ったんだが──」

「仲間なんていませんよ。もし仲間がいたとしても、そんなことはしません。一緒に、外に出てくればいいんですから」

「そうだな。魔石については、発見者であるおまえに権利がある。魔石が欲しければ、堂々と持って出ればいいんだからな」

 そうは言いながらも、エドモンドは少し疑わしげな視線を、ぼくに向けていた。何かしゃべったらぼろが出そうな気がしたので、ぼくは曖昧な笑みを浮かべて、「はあ」と答えるだけにした。



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